第74回 中部日本高等学校演劇大会 参加脚本
上演団体 三重高校演劇部
題名:ゆらゆら。
作・山田 淳也
登場人物
私(末永かな子)
父(末永こうたろう)
母(末永あけみ)
姉(末永さや)
マリリン・モンロー
ナカス院長
根古君
反重力デモ隊
キャスト 1~11
この戯曲は11人で上演されます。男女は問いません。役は固定されていないので全員で回していきます。基本的に出番のない役者は舞台奥の丸椅子に座っています。
適宜ホリゾント幕にプロジェクターに「かな子ちゃん」とか、「Happy Birthdayに遺書」などと映されます。
開幕
キャスト全員登場。キャストはリラックスした状態で登場。全員で横一列に並ぶ。
全員 おはようございます
私1 自己紹介します
キャストはそれぞれ自分の名前を言っていく。全員分終わると「私」だけが残り、残りのキャストは翻って同じステップで元の場所に戻る。
私1 じゃあ、今から私たちで演劇始めたいと思います。まずこれは、ある女の子の、かな子ちゃんっていう人の18歳の誕生日のお話っていうことでやっていこうと思います。2021年の5月12日なんですけど。その日はかな子ちゃんにとってほんといろいろあった日で、ほんとにもう前代未聞の誕生日って感じで、その日は普通に学校の日で、かな子ちゃんは朝、出発前に食卓テーブルに遺書おいて行ったんですよね。私はもう死にますみたいなこと書いておいといたんですよ。いや、全然本気で死ぬ気とかはなかったんですけど、痛いの嫌だし。まあ朝はそのまま学校に行くために電車乗ったんですけど、じゃあ今朝のことから始めます。
その日かな子ちゃんはいつも通り学校の最寄り駅で降りたんですけど、そこにデモ隊がいたんですよね。
「私」以外のキャスト全員でデモ隊になる。
デモ隊 重力反対!
はんたーい!
重力反対!
はんたーい!
不当な押さえつけはやめろー!
やめろー
重力からの完全な自由を!
そうだー!
重力反対!
はんたーい!
私1 前にも何回か見たことはあって、そん時は遠くから見るだけだったんですけど、今日は近くて、ていうかたしか前みたときは環境汚染反対だったよなーって、その前は人種差別反対だった気がする。なんか毎回変わってない?みたいな。っていうか実はかな子ちゃんにはお姉ちゃんがいて、そのお姉ちゃんはこのデモに参加してるんですけど、
私が通り抜けようとしていると、デモ隊の中の一人,姉2
に呼び止められる。
姉 かな子?
私1 え?
姉 かな子じゃん
私 姉ちゃん
3 え、なになに?
姉 あの、妹
4 えーほんとー?
3 かわいい
5 高校生だよね?
4 え、さやの妹さん?
3 そうだって
姉 そうそう
3 え、今何年生?
4 ちょっと、怖がってるって
☆に挟まれたセリフは、すぐ後ろの☆に挟まれたセリフと同時多発会話です。
姉 ☆いやいいよいいよ
私1 あ、いや、大丈夫です
4 ごめんね
私1 あの、今三年です
3 えー受験生
4 ってことは18歳?
私1 えっと、そうです。☆
5 ☆今日どっちだっけ 集会
3 ん、大学
5 そっか
姉 あと、三十分で移動ね
5 おっけー
3 了解☆
3 わかーい
5 うらやましいわー
姉 え、そうなの?
4 何言ってんの
私1 そうだよ
姉 え、いつだっけ、誕生日
私1 いや、今日だけど
姉 うっそ
5 え、そうなの!おめでとう
3 おめでとう!
皆で口々におめでとうと言うのと同時にうしろで6,7,8,9,10,11,12がデモ行進。
私1 あ、ありがとうございます
姉 え、そうだっけ
3 ひっどーい
4 覚えてろよ
姉 ごめんごめん
4 ひどい女だよねえ
私1 ああ、はい えっと、あの
私は時計を気にして早くいこうとする。そこに6,7が登場 私は去るタイミングを逃す
6 ちょっと何してんの
7 声出してよ
3 いや、ほらほら
6 え、なに?
4 いや、妹だって、サヤの
7 え、そうなの
6 妹いたんだ
姉 まあね
私1 ☆あ、こんにちは
7 ああ、はい
5 はいって、ねえ
4 緊張してない?
7 してないよ☆
6 ☆あんま言わないよね
姉 ああ、そう?
6 え、だって全然知らないもんね?
3 あー確かに
姉 まあ、別に、ねえ☆
私1 あの、
私は立ち去ろうとするが、話題は続き、タイミングを逃す。
3 でさ、今日誕生日なんだって
7 そうなんだ
6 ☆あ、えっと、おめでとう?
4 なに、それ
私1 あの、ありがとうございます
姉 いやいや、別にいいから
3 なにが?
姉 いや、おめでとうとか、そんな歳でもないし、ね?
私1 ああ、うん
3 あーたしかに、私も自分の誕生日とか で?って感じだし
4 いつからだろうね
5 でも、まあおめでとうって言われたらうれしいけどな。じゃない?
私1 えーっと、はい そうですね☆
11 ☆(拡声器で)みなさん。どうか聞いてください。そして気づいてください。今の世界に自由はありません。私たちは今この瞬間も、目に見えない力で抑えつけられている。そう、重力です。人はこの不当な抑圧に気づくことのないまま命をすり減らしていきています。このままでいいのでしょうか?私たちアンチグラビティーズは重力に抵抗します。人類に本当の意味での自由を!重力反対!
8,9,10,11,12 反対!☆
5 、、、そーでもないか
3 なにそれー
4 だってねえ
3 ああ
6 どうしたの
4 おねーちゃんは覚えときなさいよ
3 そーそー
6 え、忘れてたの?
7 ひどー
姉 そんなもんじゃない?
3 そんなことないよー
私1 あの、じゃあ
と言いかけたところに今度は8,9,10、11,12登場
8 どーしたの、声出せよ
3 あ、先輩、この子あやの妹なんですよ
9 そうなんだ、よろしくね 皆、時間早まることになったから
10 今さっきリーダーから連絡きた。出発時間早まったから、その分だけ前にずらすって
4 わかりました
姉 じゃあ、今から行かないと
8 そう。次のやつに乗るから準備して
4 はい
10 ごみとか落ちてないよねー
11 きれいにしてってよー
12 あと10分だからね
皆 はい!
皆は支度をしている。
私1 あ、今から集会とかですか?
3 そう。大忙し。
私1 はあ
3 まだまだ広く認められてないけど、世界を救うためにみんなで頑張ってるから
姉 みさと、
3 あなたも自分の使命に気づいたら行動してみてね。世界をよりよくするために私たちにでもできることがきっとあるから
姉 もう行くよ
3 当たり前のことを疑ってね かな子ちゃん。じゃあねばいばい
4 じゃあね、ごめんね
5 ばいばい
皆は手を振って去っていく
私1 あ、姉ちゃん
姉 ん?なに
私1 えっと、
姉 なに、はやく
私1 今日、家かえる?
姉 なんで?
私1 どこ泊まってんの、最近
姉 どこでもいいじゃん
私1 今日帰ってきて
姉 なんで?
私1 誕生日だから
姉 え?
私1 うそ。家族会議。
姉 うそつくなあほ
私1 ごめん
姉 、、、たぶんかえる
私1 うん
姉 じゃあね
私1 うん
姉は走り去る。
私3 朝はこんな感じでした。それで普通に学校行ったんですけど、あの、その前にかな子ちゃんが遺書を書いた理由を説明しときたいんですけど、
私4 実はかな子ちゃんの両親、今すっごく仲悪くて、こないだまではでっかい喧嘩してたりしたんですけど、最近はもう喧嘩もしないっていう感じで、なんかもう離婚みたいな感じになってるんですけど、ていうかなんか
私5 昨日の夜、なんか夕飯食べた後、明日家族会議ねって言われて、え、これ絶対そうだ、
私6 どうしよう私何言えばいいんだろうってなって、ほんと
私7 勘弁してくれって
私8 感じで、あれ
私9 聞かれんの
私10 かなーって
私11 お父さんとお母さんどっちについてくのっていうやつ。あれ現実で聞かれんのかーやだなーって思うんですけど、ていうかどっちについてくのも嫌っていうか、もうどうでもいいよっていうか、あ、そういや思い出したんだけど、
私1 明日私の☆誕生日だそういえば☆
2 ☆誕生日だそういえば☆って思い出して
3 すっごいなんとなく
4 だけど、でも
5 すっごいはっきり
6 思ったんですけど、それ
7 だけは勘弁してくれって。
8 思って。自分の
9 誕生日に離婚
10 されたらたまっ
11 たもんじゃ
1 ないわってなって、
私7 いや、誕生日だからどうとか全然ないんだけど、でもどうせならほかの日にしろよって思うじゃないですか。思うんですね。え、だって365日あるわけじゃないですか1年って
私8 頼むから他の
9 364日をあたっ
10 てくださいよ
11 って思って、で、
1 これは何と
2 しても止めてや
3 ろうってなっ
4 たんですね。どう
5 すりゃいいかなー
6 ってネコ君って
7 友達に、あ、
8 あとから出てくるんですけど。
9 クラスメイトなんですけど、
私10 ネコ君に相談したんですけど、そしたら遺書でも書けばって言われて、あーなるほど、それなんかガチっぽいなって思って、ありがとうネコ君、私遺書書きますってなって、遺書書いたんですね。お母さんたちが離婚するから私死にます―って書いて、え、そしたらさすがに今日、離婚届出すーとかにはならないだろって思って。
全員 駅から降りてまっすぐの道を3つ目の信号機のある交差点を左に曲がってそのまま300メートルくらい歩いたところに学校があるんですけど、もうあと100メートルくらいのところに来てるんですけど、
私1 そろそろお母さんも気づいて読んでてもおかしくないと思うんですけど、
皆でスマホを見る。電話がかかってきている。出るかどうか迷って、出ない。
私9 今日の時間割を言います。古典、倫理、世界史、体育、数学、コミ英 わたしがかな子です。
みんなで椅子を並べ、教室を作る。そして座る。チャイムが鳴る。
Aグループ、Bグループ、Cグループに分かれる。登場人物は、かな子9、いちこ3、ここは8、りな4、ゆか10、ま いか6、けい5、さとみ1、ななみ11、えり2、ネコ7
いちこ やべえめっちゃ寝た
ここは いや、寝すぎ
りな そんなに?
ここは 横見たらもう、こんな感じになって
ゆか 絶対ばれてる
みんないちこの机に集まってくる。まいかはここはの膝の上に座る。
以下★番号に挟まれた部分は2つのグループの同時多発会話。さらに☆に囲まれた部分はそのグループ内の同時多発 会話
まいか ★1 ☆なに、どうしたん
りな いや、いちこが爆睡してたって
まいか え、私も☆
いちこ ☆やべーこないだもやったし
ゆか てかもう5分くらいでいってたよな
いちこ うんもう気絶してた☆
りな 催眠術かよ
ここは おぐまん話長い
いちこ それな
ゆか てかそもそも古典きょーみない
まいか あーわかる
ゆか まーでもおぐまんはましやろ、こばせんに比べたら
ここは こばせん出しちゃあかんわ
いちこ きいてなあーみんなあー あ、ねむいかーそうかー
ゆか うわあめっちゃ似てる
いちこ 髪ぼっさあ 服ぼっろお
ここは 完全再現やん
ゆか なめられてんなー
いちこ ださいもんなー★1
けい ★1 書いた?これ
かな子 うわ、まだ いつまで?
けい 金曜日
かな子 まじか
さとみ まだ書いてないの?
かな子 うんわすれてた
ななみはプリントをまとめてからえりの席へ行く。
けい おい
かな子 え、なに書けばいいの
さとみ ☆説明寝てたやろ
かな子 あーうん
けい いや、普通に志望する動機
かな子 それだけじゃ書けやんよー
さとみ まあそんな真面目にやらんくていいと思うけど
けい だめだめ怒られるよ☆
ななみ ☆おーい おきてる?
えりなに
ななみ 今日残ってく?
えり あーどうしよななみ
ななみ え、のこってこーよ
えり うーん
ななみ たのむ!☆★1
まいか ★2 ☆けいちゃんそれいつまで?
けい 金曜日やって
いちこ え、なにそれ
けい 志望理由書
いちこ え、え、なんやったっけ
りな 聞いときなよ こないだ配られたやつ
いちこ まじで
かな子 なんか、練習やって
ゆか なんそれ
りな 実際には推薦の子しか書くことないと思うよ
ここは そうなんや
りな これ、写すとかないからな
いちこ まだなんも言ってないやん
ここは てかなにかくの?
ゆか およめさんになりたいでえす、とか☆
えり ☆5時半までなら
ななみ なんかあんの?
えり アニメ、たまってるやつ
ななみ なるほどです
えり グリッドマンめっちゃいいよ
ななみ えーロボット系やろ?
えり ストーリーがすごいから
ななみ へえ
えり もうコスプレしたい
ななみ コスプレかあ
えり やる?
ななみ いやー厳しいやろ
えり 「いや、行けると思うけどな」☆★2
「 」のセリフは2つあるが、1つです。
ここは ★2 さとみちゃん前髪切った?
さとみ あーうん、一昨日
ここは え、気づかんだごめん
さとみ いや、いや全然いいよ
ここは うち結構鈍いから
さとみ そんなことないよ
ここは Aグループの会話へ
さとみがここはに話しかける。★2
さとみ ★3 ☆えりちゃん
えり 「いや行けると思うけどな」☆
さとみ あ、ごめん
えり いや、いいよ
さとみ あの、次って倫理であってる?
えり あーうん、うんそう
ななみ 選択全部いっしょなんか
さとみ そうそう
えり そろそろいこか
さとみ うん
ななみ わたしもいこ
さとみ え、つぎなに?
ななみ あ、物理
さとみ そっか、、、ねむいな
ななみ うん、大変
さとみ じゃあ
えり じゃ
ななみ うんばいばい
えりとさとみは出ていく☆
☆かな子はスマホを開く。
けい がそれをのぞき込む
けい めっちゃ通知来てるやん
かな子 え?
けい え、あ、ごめん
かな子 いや、ううん、全然
けい 、、だれから?
かな子 、、、うーん、母さん
けい そっか
かな子 うん
けい いいの?返さんくて
かな子 あー、、、いいよ 私トイレいくわ
けい あ、じゃあ わたしも
かな子 けいちゃん次化学室じゃなかった
けい あ、そうか
かな子 大丈夫?時間
けい ヤバいかも。いくわ
かな子 うん じゃあ
けい じゃあ★3
いちこ ★3 えーゆか、ハルトと結婚すんの、まじか
ゆか 違う、うちのことじゃなくていちこのこと
いちこ いや、相手おらんし
まいか つくんなよ
りな 今からは遅いやろ受験やし
ゆか そんなことないって
いちこ よっしゃ略奪したろ
まいか まじで
ゆか ☆やめてえ今絶頂期やから、ほんまにやめてえ
いちこ うちの魅力の前ではハルトなんかちょろいわ
りな 絶対無理 ラブラブやでこの人ら
ゆか いえーい
いちこ くそっ破裂しろ
りな はいもうまじめに考えなよ
いちこ はーい☆
ここは ☆まいか、そろそろ
まいか あ、うん
ここは 化学室やから
まいか そっか
ここは 間に合わん
まいか うん☆★3
まいかとここは 出ていく。
かな子はスマホを開いて眺めている。
ゆか えー私もやろっかな今
りな ゆかもやってなかったん
ゆか ☆え、でも正直まだ時間あるやろ
りな 結構時間かかるよ
いちこ まじかよー
ゆか そういやいちこ第一まだ決まってないんやろ
いちこ あー今パパと話してるとこ
ゆか パパなんて?
いちこ おーどこでもええぞーって
りな やさしいなあパパ
いちこ パパやさしい☆
かな子 ☆何きいてんの?
ネコ 、、、
かな子 ネコ君
ネコ あ、はいはい、なに?
かな子 何聞いてんの?
ネコ こないだ言ったやつ。ゆらゆら帝国
かな子 ああ、それ聞いてみたよ何曲か
ネコ え、どの曲?
かな子 えっと☆、
かな子はいちこのほうをちらりと見る。
ゆか ☆ええなあ
りな うちなんて国公立一択やで
いちこ でも、なんか東大とか阪大とか言ってくるからいや無理無理パパーうちの学力じゃ無理ーって言ってる
りな 勉強して東大入んなよかわいそうに
いちこ じゃあべんきょー教えてよ
りな いつも教えとるやろアホ
いちこ ごめんって☆
かな子 ☆空洞です。ってやつと、ユラユラウゴクってやつ。
ネコ いいね マニアック
かな子 そうなんだ。でも、なんか面白かったよ 変な感じ
ネコ そりゃよかった
かな子 うん☆
まいかが駆け込んでくる
まいか なあなあなあきいて
ゆか びっくりしたあ
りな どしたん
まいか なんかさ、こばせんがさ、あ、さっきの授業で、なんか前川君蹴ったらしいよ。
いちこ え、うっそ
かな子 まじ?
まいか まじまじ
ゆか ☆それやばくない
まいか しかもドロップキック
りな なにそれ
まいか えーしらん?プロレス見やん?
いちこ あんたぐらいやで見てんの
まいか こういうやつ
まいかはドロップキックをして見せる☆
かな子 ☆え、前川君ってさ
いちこ C組の、うるさい奴
かな子 あー聞いたことある
ゆか こばせんの授業めちゃくちゃらしいで
かな子 前川君のせいで?
ゆか まあそれだけじゃないけど☆
りな ちょ、スカートスカート
いちこ え、で、こばせんどうなったん
まいか なんか蹴った後冷静になって謝ったあと職員室行ったって
いちこ えー前川は?
まいか 足引きずって保健室行った
ゆか けっこうやばそうやな
いちこ え、見にいこ
ゆか いこいこ めっちゃおもろそう
りな 授業の準備してきなよ
いちこ いいよとりあえず
まいか C組いこよ
いちこ やな
いちこ、まいか、ゆか、りな、は出ていく。ネコ君と私だけが残された。
かな子 、、、なんかすごいことなってるね
ネコ ああ、うん
かな子 ネコ君は行かんくていいの
ネコ いいよ別に
かな子 そっか
ネコ そっちこそいいの?
かな子 私も別に
、、、
かな子 やめるかなあ
ネコ 小林先生?
かな子 うん
ネコ どうかな
かな子 うーん、、、
かな子 ていうか伝わるの速くない?
ネコ 暇なんだよ
かな子 ああ、そうか
ネコ 暇つぶしみたいなもんだから 全部
かな子 だよね
ネコ 、、、知らないの?みんな
かな子 え?なにが?
ネコ いや、誕生日
かな子 ああ、うん 教えてない
ネコ なんで?
かな子 気遣わせるせるし、いい子たちだから
ネコ ふーん
かな子 そんな教えるほどのことでもないし
ネコ 、、、そう
かな子はスマホを見る
かな子 これ、遺書効果
ネコ マジで書いたんだ
かな子 うん まーでも多分学校にはかかってこないけどね
ネコ 電話?
かな子 うん その程度でしょ
ネコ うーん
入れ替わりで一人舞台上に入ってくる。その役者が私になる
私2 かな子ちゃんは誕生日だったんですけど、そんなに別に普通だよって感じだったんですけど、でも一応祝ってもらったりはしてて、次はおとといの話になるんですけど、
マリリンモンロー3はマイクスタンドの前に立つ。私は その場にしゃがむ。マリリンモンローは「ハッピーバースデイ」歌う。私(みんな)は拍手をする
私10 かな子ちゃんには友達がいて、バイト先の先輩なんですけど、結構面倒見てもらってるんですよね、いろいろ。まあ、ちょっと変わった人で、まあ、マリリンモンローっていう名前なんですけど、その人は。すごいいろいろなんていうかぼかーん、みたいな、はっちゃけた、というかはっちゃけすぎてそのまま漫画の世界へダイブ!みたいな人なんですけど。その人に誕生日を祝ってもらったんですよね。やっぱ歌うまいね
マリ3 フランス人は愛のために死ぬらしいわねえ 彼らは喜んで決闘に挑むの。でも私は生きてる男のほうがいいわ。だって高価な宝石をくれるんだもの。手の甲に口づけするなんて、極めてヨーロッパ風ね。でも、ダイヤモンドこそ女の一番の親友よ!
私(みんな)は拍手をする
マリ3 かな子!18歳になったら、女が咲くわよ 自分らしく生きるの 誰にも縛られちゃダメ!弁護士の一人や二人、捕まえてきなさいな
私10 えーむりだよ
マリ3 じゃあね、女を楽しむのよ!
私10 待って待って、今日電車?
マリ3 雨降ってたから車よ
私10 じゃあ駅まで乗せてって!
マリ3 はいはい
私10 やった!ありがとう
マリ3 早く準備しなさい
私10 はーい
マリリンはマイクスタンドを持って退場 入れ替わりで一人入ってきてネコ君になる。もう一人入ってきてナレーターとなる。
私7 っていう感じで祝ってもらったんだよね昨日
ネコ9 へえ
私7 ま、明日なんだけど、誕生日は
ネコ9 うん
私7 でも、なんか恥ずかしいよね
ネコ9 なにが?
私7 いや、もう高3だしさ
ネコ9 ああ
私7 そんな年でもないし
ネコ9 そうかもね
ナ11 夜で、塾の帰りに、そんな話になって、駅までの数百メートルの道なんですけど、
え、ネコ君っていつだっけ、誕生日
ナレーターは私になる。別の人が出てきてナレーターになる。私だった人はネコ君に。
ネコ7 さあ
私11 さあって
ネコ7 忘れた
私11 なにそれ
ネコ7 いつだろうね
私11 えーおしえてよ
ネコ7 わかったら教えるよ
ナ1 彼は、ネコ君っていうんですけど、塾で一緒の人で、私たちはだいたい一番遅くまで残ってたりするから、帰りが一緒になることがあってしゃべるようになったってだけなんですけど、なになにどういうこと?
ナレーターは私になる。別の人が出てきてナレーターになる。私だった人はネコ君に
ネコ11 まあでも、いいことでしょ、普通に祝ってもらえるなんて
私1 、、、ああ、うん
ネコ11 今の社会でいいことなんてめったにないしさ
私1 ああ、まあ
ネコ11 騒げるタイミングで騒いだらいいとおもうけど
私1 うーん、でも大人になったらいくらでもできるでしょそんなこと
ネコ11 わかんないよそんなの未来なんて
私1 ああ、まあね
ネコ11 未来ばっかあてにしてきたから今この国はこんな風になるんだよ。未来なんて誰にもわかんないくせに。
私1 、、、まあね
ネコ11 好きでしょ、騒ぐの
私1 そこまで
ネコ11 そう
私1 うん
ネコ11 でも、誕生日なんてただ生まれただけの日なのになあ
私1 それは確かに
ネコ11 まあ、どうせ生きていかなくちゃいけないんだったらさ、たまには騒ぎたくなるからな
私1 そうだね
ネコ11 そのための日だよ。誕生日なんて
ナ2 ネコ君はかなり、けっこう、ひねくれたやつなんですけど、ま、いいところもあったりするんですけど。で、私たちはこういう日はだいたい駅前のコンビニでなんか買ってから、じゃあバイバイってことになるんですけど、別にそうやって決めてるわけじゃなくて自然にそうなってるだけなんですけど、でもさ、家じゃ誰にも祝われないもん
ナレーターは私になる。別の人が出てきてナレーターになる。私だった人はネコ君に。
ネコ1 、、、
私8 お祝いとか、そんなん絶対無理
ネコ1 、、、
私8 空気最悪だもん
ネコ1 、、、
私8 もー帰りたくねえー
信号が青で、点滅していたので、私は走って横断歩道を渡ったが、ネコ君は走ろうとしなかったので、追いつかなかった。二人は道路を隔てて会話する。
私8 あ、遅いよ
ネコ1 先行ってていいよ
私8 いいよ、待つよ
ネコ1 そう、、、
私8 どんなやつだった?ケーキ
ネコ1 え?
私8 誕生日ケーキ。どんなやつだった?
ネコ1 ああ、うーん、普通にショートケーキ
私8 そうなんだ
ネコ1 そっちは?
私8 なんか果物のタルトケーキみたいな
ネコ1 おいしそう
私8 おいしかったよ
間
私8 全然普通でいいんだけど
ネコ1 え?
私8 私さ、全然普通でいいんだけど。ていうか普通がいいんだけど
ネコ1 それさ、一番難しいやつだよ
私8 だよね
ネコ1 皆どっかしら変だよ
信号が青に変わる。
私8 あのさ、昨日テレビに変な人でてたよね
ネコ1 え、なにそれ
私8 今、急に思い出したんだけど、
ネコ1 うん
二人は椅子を運びながら、
私8 なんか、どっかのメンタルクリニックの、院長で、ナカス院長って呼ばれてて、
ネコ1 うん
私8 なんかヘリコプターから登場してたんだけど、
ネコ1 派手だね
私8 うん
ナ5 昨日の夜の、10時くらいのニュース番組で、対談のコーナーみたいなやつなんですけど、キャスターの人と、林田さんっていうキャスターなんですけど、その人と対談してました。
ナカス院長4と林田アナウンサー5が対談を始める
林田 こんばんは。今夜のトップランナーは、国内最大手メンタルクリニック、ナカスクリニック院長、ナカスグループ会長のナカス英二さんです。よろしくお願いします。
ナカス ナカス英二と申します。よろしくお願いします。
林田 さて、まずは現状の国民の精神状態の傾向についてお聞かせ願えますか
ナカス そうですね。結論から言うとかなり深刻な状態にあるといえます。
林田 深刻ですか
ナカス ええ。うつ病や、何らかの精神疾患を発症している人の増加率が急激に高まっていますね。中にはうつ病の症状をはるかに超える新型うつ病も増えてきています。
林田 それは深刻ですね。
ナカス 私どもはこの症状を、うつうつ病と呼んでいます。
林田 うつうつ病ですか
ナカス うつうつ病は別名、うつ病越え。うつ病の彼方、ともよばれております
林田 何か、解決策はないんでしょうか
ナカス 我々ナカスグループが目指しているのは、身体からの完全な離脱です。私たちは長い間議論が交わされていた身体と精神の関係性についての結論を出したいと考えています。精神と肉体は分離できる。肉体は精神の完全なる檻である。一人の精神にひとり分の肉体が与えられていることが、すでに矛盾をはらんでいるのです。個人の人格は、個人の肉体や、他者の肉体が受け取る感覚によって左右されるべきではない。精神は完全に自由である。肉体があるから、個体差がうまれる。差別が、偏見がうまれる。それがうつうつ病の原因になる。
林田 なるほど。しかしどのようにして精神を自由にするのですか?
ナカス この遠心分離機です。
林田 は?
ナカス わが社が開発した遠心分離機を使うのです。
林田 あの、掃除機にしか見えないんですが、
ナカス 見た目だけです。
林田 ダイソンの、
ナカス 見た目だけです。
林田 吸引力が変わらないやつ
ナカス それではためしにやってみましょう 山根君3
山根 はい
ナカスは掃除機の電源を付け、山根君の背中に押し当てる。すると山根君の体は崩れ落ちる
林田 ええええええええ
ナカス みなさん。2030年、日本は国民の3分の1近くを65歳以上の高齢者が占める国になります。GDPも10年以上前に世界第2位の座を中国に譲り、2030年には四位にまで落ちているでしょう。産業で後れを取り、教育で後れを取り、しかし政治は一向に前進しません。あなたの勤める企業もいつ経営破たんに陥るかわかりません。公務員でさえ危ういのです。癌、脳卒中、アルツハイマー、糖尿病、健康リスクはなくなりません。繰り返される異常気象。予測された巨大地震。そして新型コロナウイルスの猛威。もはや静かな生活などあり得ません。断言しましょう。この国は近々滅びます。いや、この国だけじゃあない。この地球はもう救われない運命なのでしょう。SDGsなど延命措置に過ぎません。もはや私たちに選択肢など残されていません。今こそ、体を脱ぎ捨てるのです。日本脱出?地球脱出?いいえ、身体脱出です。
緊急ニュースになる。キャスター8登場
キャス8 こんばんは。緊急ニュースです。ガザ地区でイスラエル軍による空爆が開始されました。この空爆によって子供を含む44人が死亡した模様です。
キャスターは退場。
ナレ7 かな子ちゃんの誕生日はここからとんでもない展開を見せるんですけどその前に、いまさらなんですけど、皆さんかな子ちゃんの顔知りませんよね。身長とか、そういうのも。いや、私たちも見たことないんで知らないんですけど。あ、マスク今私たちがしてないのとかも、別にこれコロナ前の話とかそういうんじゃなくて都合よく見えないマスクがあるっていう体でさせてもらいたいです。っていうことを言っておきます。あとなんか私たちたまに標準語でやってますけど、関西の人間なんで、正直言いにくいっていうか、違和感すごいんですよね。脚本家曰く普遍性を持たせるには標準語だ、とのことなのでやってますけど
ナレ10 かな子ちゃんの話に戻ります。学校終わってかな子ちゃんもう家帰りたくねえーって思いながら最寄駅から家までの道をゆっくりゆっくり歩いてました。ひとりで歩いていました。じゃあかな子ちゃんが家に着くまでかな子ちゃんの家族についてやります。
プロジェクターに「かな子ちゃんの家族について」と映される
ナレ11 かな子ちゃんの両親は東京で出会いました。お父さんもお母さんも大学生のころ。出会いはラーメン屋です。お父さんは左利きで、お母さんは右利きなんですけど、狭いラーメン屋で腕と腕がぶつかって、きゃっ あ、ごめんなさい あ、こちらこそすいませんってな感じです。そして二人は東京ラブストーリーを駆け抜けます。
音楽 la vie en rose ルイ・アームストロング
母3 孝太郎さん
父11 明美さん どうしたの
ナレ9 お父さんは孝太郎っていう名前で、東大卒なんですよ、すごいエリートなんですけど、
母3 そろそろまとまった休み取れるんでしょう?
父11 そうだね
ナレ9 まあずっとがり勉君だったんで、女の子とつきあうみたいなことがほぼなくて、っていうかなかったんですね。今まで一度も。
母3 じゃあ旅行に行きましょうよ
父11 いいね行こう
母3 箱根はどう?
父11 もうちょっと遠出したいなあ
ナレ9 で、初めてできた2こ下の彼女にもうのめりこんじゃって。
母3 えー私の浴衣姿見たくないの?
父11 そりゃ見たいけどさ
母3 もーすけべ
父11 君が言ったんじゃないか
二人 あはは
ナレ9 あ、大学でて、NHKに就職するんですけど、一応アナウンサーで。
次のペアに交代 加速していく。
父4 明美さん
母9 なあに孝太郎さん
父4 映画でも見に行かない?
母9 いいわね 何を見る?
ナレ5 お母さんは明美っていうんですけど、私立の大学で勉強してて、出身はすごい田舎で、田舎の人だったんですけど、大学のサークルとかで、影響されて、ボランティアとか好きで、
父4 これなんかいいと思うんだ。ゾンビVSなまはげ
母9 だめよ孝太郎さん そんなの怖いわ
父4 そっか じゃあこれはどう?
ナレ5 なんかそのころから結構意識高い系みたいな感じで、就職はそういう感じでのんびりしてたらバブル崩壊しちゃってできなかったんですけど。
母9 タイタニアン?どんなの?
父4 タイタニアンっていう巨大ロボットが氷山にぶつかって中に乗ってたアムロっていう男と、メーテルっていう女が恋人同士なんだけど、死んじゃうっていう話
母9 面白そうね
父4 よし、決まりだ
ナレ5 でもまあすぐに結婚したからよかったんですけど。
次のペアへ さらに加速。みんなで遊ぶ。
母 ねえ孝太郎さん
父 なんだい明美さん
母 私すごく不安なの
父 どうしてだい?
母 孝太郎さんが急にいなくなってしまうんじゃないかって
父 そんなことあるわけないじゃないか
ナレ1 二人は出会って一年ですぐ結婚しました。で、同棲し始めて、ラブラブな新婚生活をスタートさせるわけです。最初は東京に住んでたんですけど、お父さんの、ていうかさっきからすごいイチャイチャしてるんですけど(母役と父役のほうを見て言う)、あ、お父さんの転勤で静岡に行くことになって、それでしばらくそこで住んでて、で、私はそん時にまず生まれたんだけど。
母 じゃあ言って
父 何をだい?
母 愛してるって言って
父 、、、愛してる
母 ほんとう?
父 ああ、愛してるとも
母 どのくらい?
父 僕はずっと生きていることを憎んでた。だけど君と会って初めて、生まれてきてよかったと思えたんだ。君との未来は僕の希望さ。今ここにいることが嘘なんじゃないかってくらい幸せなんだ。愛してるよ。
母 じゃあ抱きしめて!
父は母を抱きしめる。
父 結婚してください!
母 喜んで!
二人はぴたりと止まる。
ナレ1 結婚式の様子です
二人は手を取り、前に歩いていく。音楽が流れる。
父 未来永劫、あなただけを愛し、守り抜きます。
母 どんなことがあろうともあなたのそばに居続けます。
皆で超はやし立てる。紙ふぶきとかクラッカーとかいろいろ
ナレ2 結婚式の様子でした。それで、話に戻るんですけど、私はその静岡で生まれて、3歳までそっちで過ごしてからまたお父さんの転勤で引っ越すんですけど、その引っ越した年に妹が生まれて、かな子っていう妹なんですけど、私はすっごい嬉しくて、
姉 友達1 ほかの全員はランダムウォークしている。 全員のセリフの時に全員で一瞬走る。
友達1 うん
姉 そんなにはっきり覚えてるわけじゃないんだけどさ
全員 重力はんたーい
姉 いや、でも初めての妹だったからやっぱり
友達3 うん、わかるよ
姉 うん、そう。でもまあおっきくなってきたら憎たらしくなったり
友達3 うん。
姉 何もできないからさ、馬鹿だし
友達3 ああ
全員 不当な押さえつけはやめろー
姉 でも甘えんのだけは上手で甘えてきたり
友達4 うん。
姉 自分で言うことじゃないかもだけどさ、私は何でもできたから、割と
友達4 うん
姉 お姉ちゃんすごいねって言われるけどさ、でもできない子のほうがかわいいでしょ親って。多分。
友達4 あー
姉 じれったいから私がやるんだけどさ、全部。皿洗いとか、洗濯とか、料理とか。
全員 核兵器はんたーい
姉 妹がさ、一回、あ、小学校の頃の話なんだけど、学校で友達のリボンとったことがあって 盗んだことがあって
友達5 うん
姉 なんかおっきい赤いリボン。妹には似あいそうだったんだけど、私には全然だめなんだけど、なんか欲しかったんだって、どうしても
友達5 うん
姉 先生にも親にも怒られて泣いてんの。で、ちょっとざまーみろって思うんだけど、
友達5 うん
姉 でもさ、妹が起こられてる間ってさ、私一人なんだよね
友達5 ああ
全員 戦争はんたーい
姉 妹はさ、あほだったから。そうやって怒られてばっかでさ。私は手のかかんない子だったし、親としちゃあ楽なんだろうけど
友達6 ああ
姉 あと、すっごいちっちゃなことって思われるかもしんないけどさ、
友達6 うん
姉 誕生日プレゼントってあるじゃん あれのことなんだけど
友達6 うん
姉 私は中2の時から、なんかもう曖昧になってもらえなくなってて、でも、妹は普通に高1になってもねえこれ頂戴とかいってもらってんの
友達6 うん
姉 いや、別にいいんだけど。ほんと小っちゃいことだし
友達6 うん
全員 人種差別はんたーい
姉 だからさ、まあ悪いとは思うんだけど、家にはもうあんまり帰りたくない
友達7 悪いって?
姉 あーなんかもう、うちってひたすら複雑なことになってて、今。不倫だの離婚だの
友達7 ああ ごめん
姉 いや、全然いいんだけど。ほんとは私も家帰ってあげるべきなんだろうけどさ
友達7 そっか、ひとりで残されてんのか
全員 環境破壊はんたーい
姉 うん。でも、もういいやってなって。私もういろいろやったよ。押し付けられてきたよ。今度はあんたが苦労しろみたいな。
友達8 ああ、うん
姉 性格悪いんだけど。
友達8 そんなことないよ
姉 私ここでの活動あるし。みんなもいるし。もういいやって。
友達8 うん
全員 はんたーい はんたーい はんたーい
二人は退場
私1 っていう活動をしてるらしい。姉ちゃんは
ネコ5 そうなんだ
私1 そーだから全然帰ってこない
ネコ5 、、、あのさ
私1 なに?
ネコ5 何で離婚すんの?
私1 、、、ああ
ネコ5 これ聞いてよかった?
私1 いや、それはいいけど
ネコ5 ごめんやっぱいいよ
私1 いや、それはホントにいいんだけど、意外で
ネコ5 なにが?
私1 いや、ネコ君もそういうの聞くんだーって
ネコ5 まあ、まあ
私1 それだけなんだけど、
ネコ5 うん
次のペアへ
私5 、、、あーまずそもそもの原因はお父さんなんだけど、一年前、かもうちょっと前に、あ、一応私のお父さんってアナウンサーだったんだけど、NHKの、あの、おはよう日本っていうやつ。知ってる?
ネコ10 うん
私5 で、その一年くらい前に、そん時も生放送だったんだけど、お父さん放送事故起こしっちゃって、なんか盛大にやらかしちゃって
ネコ10 うん
私5 具体的に言うと、なんか、カメラに向かって突然叫んだんだけど、今までの私は本当の私ではなかった。私は本当の私になる。本当の自分らしく生きる。みたいなことを叫んで、で、ズラをばって投げ捨てたのね。私そん時初めてお父さんがズラだって知ったんだけど実は。
ネコ10 、、ああ
私5 で、宙に舞ったお父さんのズラがスタジオの床に着くかつかないかぐらいのとこで、画面がお花畑に代わって、愉快な音楽流れ出してさ
ネコ10 うん
次のペアへ
私10 で、その日からお父さんあんま家に帰ってこなくなって、でもなんかインスタのアカウントできてて、そこに大量にアップされてんの、女装したお父さんの写真。
ネコ6 は?
私10 なんか、今まで気づかなかったけど、自分は女かもしれないって。
ネコ6 、、、なるほど
私10 しかも、なんかこれ不倫っていうのかな、なんか女と一緒に住んでるらしくて、
ネコ6 え、待って、お父さんは、女ってことになったんだよね
私10 そうそう
ネコ6 え、で、女と不倫?
私10 あーなんか女装して、さらにそのうえでレズビアン?みたいな らしい
ネコ6 、、、なるほど、いや、よくわかんないんだけど
私10 うん私もわかんない
ネコ6 あ、うん
私10 いや、わかんないとか今言ってるけど、ほんとはもうだめなんだろうけどね、そんなこと言っちゃ
ネコ6 そっか
私10 そんで、これからは自分らしく生きるんだって
ネコ6 、、へえ
私10 、、、私の人生という物語は今始まったんだって
ネコ6 、、、
次のペアへ
私6 あーそうですかーとしかいえないよね
ネコ9 はあ
私6 で、お母さんもともと心弱い人だから、もうおかしくなっちゃって。メンタルクリニックとか通いだして。私らにもすごい当たってきたりするから。
ネコ9 うん
私6 で、なんか最近よくいうんだよね、体があるから女とか男とかできていけないんだって。女とか男とかいらない。女でいたくないし男でもいたくない。女はずっと苦労してきたのよ。男に虐げられてきたの。だからもう体を捨てて自由になりたい。ていうか人類はそういう風に進化しなくちゃいけないのっていってて。
ネコ9 なんか聞いたことあるな
私6 って言ってなんか男と電話してるし。絶対不倫してる。
ネコ9 、、、さらにややこしくなったけど
私6 じゃあ結婚とかすんなよって思うんだけど、初めから
ネコ9 たしかに
私6 こういうの見れば見るほど、非現実的だよね、結婚とか、愛とか
ネコ9 うん。わかるよ
次のペアへ
私9 ドラマとかでよく言うけどさ、愛してるとか、ずっと一緒にいるとか
ネコ7 ああ、うん
私9 なんか、ありえねー、みたいな
ネコ7 うん、わかるよ
私9 そう
、、、
私9 まあ、そんな感じ
ネコ7 、、、あの、一つ聞きたいんだけど、
私9 え、なに?
ネコ7 えっと、なんかすごい失礼かもしんないけど、他人事みたいな、感じだから。なんか、ないの?おもうこととか
私9 、、、うーん、
ネコ7 いや、そう見えないだけなのかもしんないけど
私9 、、、他人事だから?だと思う。
ネコ7 え?
次のペアへ
私7 いや、こんなこと言って何こいつやベー奴だって思われるかもしんないけどさ
ネコ8 うん
私7 今さ、戦争やってるでしょ。ガザで。パレスチナとイスラエル。紛争。ニュースそればっかりでしょ。
ネコ8 うん
私7 いや、こんなのも一週間もしたら、え、なにそれ知らないってなって、それより芸能人のだれだれ結婚しましたおめでとう、みたいになってると思うんだけど、
ネコ8 うん
私7 そのテレビで見てる、ミサイル飛んでたり、子供泣き叫んでたりする戦争とさ、うちの親のことがさ、そんなに変わらないんだよ。私ん中で。
ネコ8 、、、うん
私7 現実感ないんだよ たぶん。最初はかわいそうとか思って泣いたりするんだけど、泣いたってどうにもならないでしょ?離婚も、戦争も。だからおんなじ世界で起こってるって考えれないんだと思う。どっかテレビの中の出来事なんだよ、どっちも。だからあんまりどうでもいい。
ネコ8 うん
私7 でもひとつ違うのがさ、戦争はひとしきり泣いたらはい終わりって、一週間もすればまた芸能人結婚してみんなハッピーってなってんだろーなーって思うんだけど、両親の昼ドラはさ、終わんないんだよね私の人生に直接影響及ぼしてくんのね。
ネコ8 、、、そうだね
次のペアへ
私8 ごめん長々しゃべって
ネコ11 いや、聞いたのこっちだし。いいよ。
私8 、、、
ネコ11 あのさ、止めたいとか思わないの?離婚
私8 あ、その、止めたいってよりはずらしたい。誕生日から
ネコ11 ああ、明日か
私8 別に誕生日だからどうとか全然ないんだけど。なんか、なんとなく。え、どうすればいいかな
ネコ11 、、、あー、うーん、まあドラマチックなことを止めるにはさ、自分がドラマチックなことに飛び込まないと
私8 え、どういうこと?
ネコ11 泣いて説得するとか。超キレるとか。自殺するって言うとか。遺書書くとか
私8 えーそんなことできるかな
ネコ11 フリでいいんだよ。
私8 あーでも遺書とかいいかもな。ガチっぽくて。
ネコ11 やってみれば?
私1 うん考えとく。っていう会話をしたのは誕生日の前日だったんですけど、そしてそろそろかな子ちゃん家に着いちゃいそうです。家に着いたらおそらく地獄の気まずさが待っているので、これからのシーンは超重くなりそうです。なのでその前にパーッと明るくいきたいと思います。
皆 いえーい
1 じゃあ私モノマネします。
など、みんなで物まねしたり、インタビューしたりして遊ぶ。
ナレ7 じゃあ話を戻します。かな子ちゃん家に着きました。私がかな子です。
かな子7カバンを背負って家に帰ってくる。
私 ただいま
父と母、食卓テーブルを囲んでいる
母 おかえり
父 おかえり
私 、、、ひさしぶり
父 ああ、うん
母 鞄おいといで。先
私 うん。あ、姉ちゃんは?
母 まだ
私 そっか
父 言った?
私 言ったよ
父 そうか
私 うん。
部屋に行きかけて、振り返り、鞄を置く。
私 あ、お茶とか、沸かす?
母 いや、いい
父 うん
私 、、おっけー
間
私 えっと、姉ちゃん帰ってきてから?
母 うん、まあ
間
母 あ、かな子。誕生日おめでとう
私 あ、どうも
父 おめでとう
私 ああ、はい 覚えてたんだ
母 そりゃあね
私 うん、、、どうも
姉が帰ってくる
姉 ただいま
母 おかえり
父 お帰り
姉 、、、ひさしぶり
父 ああ、うん
姉 荷物おいてくる
母 うん
姉は荷物を自分の部屋へおきに行く。姉が戻ってくる
姉 で、なんですか
父 うん。まず、お金の話なんだけど
姉 は?
父 あ、そうか、うん、ごめん
母 あの二人とも、お母さんたち、離婚することになったから
姉 ああ、うん、はい、で?
父 お金は、二人が大学でるまでは出すから、心配しなくていいから
姉 、、、どうも
私 え、今日?
母 今日
私 あの、ほんとに?
母 そうよ
私 えっとさ、
母 なに?
私 あのーほかの日じゃダメ?
母 なんで?
私 いやーあの
母 え、どうして?
私 一応さ、そのー誕生日だから、私の
母 それだけ?
私 え、うん まあ
母 ごめんお母さんもう無理だから
私 ☆あ☆
母 ☆無理だから☆
私 、、、うん
母 あんなの書いて 何考えてんの
私 ごめん
母 私ただでさえすっごく苦しいの わかるよね
私 ごめん そんなつもりないから 死ぬとか
母 いい加減にして
間
姉 ☆あのさ☆
父 ☆えっと☆
父 あ、先言いな
姉 あ、うん、いや、今日また夜集まらなきゃいけないから大学。終わりならおわりで早くしてほしいなって話
父 ああ、うん。だけどもうちょっとあるから
姉 わかりました
父 お姉ちゃんはさ、もう大学でたら働けるし、いいんだけど、
姉 、、、うん
父 かな子はまだ無理だから。その話。
しばらくして、父は電話を取る。
父 じゃあ、ちょっと呼ぶから
父は電話をするとマリリン3が入ってくる
マリ こんばんは
私 え、
マリ 孝太郎!
父 マリリン!
二人は抱き合う
父 、、、うん。あ、かな子は知ってるだろ
マリ かな子 お邪魔!
私 、、、あ、えっと、はい よく知ってますけど
父 もう母さんには話したけど、父さん、この人と生きてくから
私 、、、まじすか
マリ 黙っててごめんね
私 いや、いや、うそ
父 お父さんが嘘ついたことあるか?
私 ないから怖いの え、夢じゃない?
マリ ハッピーバースデーかな子!
私 いったん黙って!
母 どうもこんにちは え、待って、マリ?
マリ え、うそ、明美?
母 久しぶり!
マリ ほんと、ひさしぶり!
私 え、え、どういうこと
母 大学でてからだから、もう30年くらいか
マリ うんそうそうそのくらい
父 え、なんか☆友達とか
母 ☆黙って
母 え、でも、何で?
父 、、、それは私から
母 黙って。マリに聞いてるの
マリ 、、、この人が苦しそうだったから。ほんとは女の子なのに
私 いや56歳のおっさんだよ?
マリ あのね、歳とか性別とか、まだそんなくだらないもん気にしてんの?自分が女の子だって気づいた時、だれもが女の子になれんのよ 私の言ってること間違ってる?
父 かな子、そういうことだ
私 ああ、はい、そうですか
マリ 可愛くなりたいならかわいくならなきゃ。自分を偽って生きて何の意味があるの?本当の自分にならなきゃ
父 かな子、そういうことだ
私 もうわかったから!
母 ずいぶん変わったね
マリ まあ、そうかもね
母 、、、もういいけど。勝手にしてください
マリ そのほうがいいわ
母 話は終わり?じゃあ私も呼んであるから
母は電話する ナカス4が入ってくる
ナカス お邪魔します
私 え、
母 紹介します。ナカスさんです。
ナカス 初めましてナカスと申します。
私 この人、テレビで、
ナカス あ、みてくれたんだね ありがとう
私 いやいや、え?
父 どうも
ナカス どうも ご主人ですか
父 ええ、まあ
母 今お付き合いさせてもらってるから、ナカスさんと
父 、、、そうですか
母 うん。私たち、もうここには戻らないつもり
父 どういうこと?
母 体を捨てるの。二人で。かな子もつれて
私 え?
母 苦しいだけだから、こんなとこにいても。体なんてあっても、幸せなことないから。
父 どういう意味?
ナカス 体という制約から精神を解き放つんです。人類にとっては不必要だ。私は精神を救う道具を持っているのです。
母 肉も骨も内臓も、私たちには必要ない。
父 え、でも性器はいるだろ?
母 なんで?
父 だって、、ほら、、あの、、セッ、、できないじゃないか
母 何でそんなことする必要があるの?
父 え、でも
母 私たちにはそんなもの必要ない
ナカス 男性、女性、人種、障害、個体差、すべては差別を助長するだけの人間にとって必要ないものですよ。
マリ え、でもいいの?セックスできなくて。付き合ってんでしょ?二人は
ナカス 精神の世界では真の意味で一つになることができる。そんなものは現世の遊びでしかないんです。
父 ちょっとさっきから何を言ってるかわかりませんよあなた
ナカス わからないのはあなたが性に執着しているからです。
父 わかったもういい。でもかな子まで巻き込む必要ないだろ かな子はこっちで引き取る
マリ 私かな子の親友だから絶対うまくやってける
母 そんな正気じゃない格好してる人たちのもとで幸せになれるわけないでしょ。頭おかしいんじゃないの?
マリ 頭おかしいのはそっちでしょ。かな子のこと考えなさいよ。宗教くそ婆
母 はあ?
母はナカスが持っていた掃除機を奪い取りマリリンに襲い掛かる。ナカスが止める。
マリ やってみなさいよアバズレ
母 アバズレはそっちでしょ
ナカス ダメダメむやみに使っちゃ
母 はなして
父 目を覚ませ明美
母 それはこっちのセリフ
姉 もうみんな黙れ!
間
姉 あんたら無理。もうなにがなんだかわかんない。かな子は私が面倒見るからもう黙ってて
父 、、、さや
母 あのねえ、さや。あんたまだ働いてないでしょう。何でそんな無責任なこと言えるの?
姉 どっちのはなしだよ
母 大体あんたここんとこ家にもよりつかないで、かな子一人だったのよ?
姉 原因お前らだろ アホ親ども
母 はあ?母親に向かってその口のきき方はなんだ
姉 もうなんでもいいんだよ
姉はかな子の鞄を母に投げる。私はヘッドホンで音楽を聴く。ゆらゆら帝国「ユラユラウゴク」が流れる。
母 投げたね
母は姉に投げ返す
姉 投げたよ馬鹿野郎
姉は投げ返す。父が止めに入る
父 やめろ二人とも落着け
姉 あんたもだよバカ
姉は父に投げる
父 止めただけじゃないか
父は姉に投げ返す
姉 何黙ってみてんだよあんたら
姉はマリリンに投げる
マリ うっさいわこのガキ
ナカス もうやめましょうみなさん
マリ あんたも悪いでしょハゲ
マリリンはナカスに投げる
ナカス 剥げてねえよこの厚化粧!
マリリンに投げ返す
マリ さっぱりメイクじゃ!
大混戦。
バックに日の丸のような、火山の噴火のマグマのような赤い楕円形が上がってくる。それは次第に大きくなる。
後ろをデモ隊が「重力反対」を叫びながら走り抜ける。
姉 てかさ、姉ちゃんは大丈夫とかさっき言ってたけどさ、かるーく。何が大丈夫なの?いっつもそうでしょ私だけ。私は大丈夫だろとかいつも勝手に。
父 お前どうせそいつの金目当てだろ。結局金なんだよ。心から愛してなんてなかったんだ。
母 どうでもいいけどあんた生理的に無理だから。
マリ 変わんないよねあんたはずっと。男に甘えてばっか。言ってることとやってること違うでしょ
ナカス こうやって争うから人間はくだらないんだ。絶望した。心底絶望した
姉 あんたが絶望したかどうかはどうでもいいんだよハゲ
ナカス ハゲはお前の親父だろ
父 なんだとてめえ
かな子は「ユラユラウゴク」を口ずさんでいる。その声はだんだんと大きくなる。ゆっくり立ち上がり、鞄から落ちた筆箱の中のボールペンを取り出す。そして父親の背中にボ ールペンを刺す。
父 え、かな子?
父は倒れる みんな黙る
かな子7 どいつもこいつもくだらないんだよ!私今日誕生日なんだけど!もう帰る。
母 、、帰るって、どこに?
かな子7 しるか!生まれる前に帰るわ!
姉 、、、何言ってんの?
私 誕生日だから!ハッピーバースデーだから!
かな子は走って行ってしまう。姉が追いかける
姉 かな子!
私8が出てきて、遺書をもって朗読。
私8 かな子ちゃんの遺書を読みます。
私8 お父さん、お母さん。姉ちゃん。さとみ、けい。私、本永かな子は5月12日の誕生日を持って死にます。理由は、家族がバラバラになりそうだからです。っていうのは嘘です。いや、嘘ではないです。嘘ではないんだと思いますが噓かもしれないのはやっぱりあるっちゃあるので、完全に嘘ではないと言い切っちゃうとそれは嘘になっちゃうんだけど、まあ本当の理由は結構曖昧で、あの、よくある現実の不自由に対する不満とかじゃ、全然ないんだけど。
映像に切り替わる
私8は舞台をはける。
私8(映像) いやでもみんな嘘ついてるでしょ。これ最近よく思うんだけど、海外ってあるでしょ。でも私海外って行ったことないから、みんなが私に嘘ついているだけで、本当はそんなとこ存在しないんじゃないかなーみたいな。写真とか全部CGで。そしたら日本っていう国も嘘なんじゃないかなーって。みんなが信じているだけで本当はもうこの国は取り返しのつかないくらいに、バラバラになっているんじゃないかなって思ってしまう。だって私日本っていうものを見たことがないから。そうだとしたら戦争だってきっとない。あんなものは嘘で、爆撃音でかき消される悲鳴も、血を流す子供も、倒れていくビルも、全部嘘。だってそれはただの映像。平面上に動く光を見ているだけ。だからきっと私も嘘だ。
映像の画面が抽象的な人のマークになる。
私8(映像) 私は、かな子っている人間は本当はただのバカな女子高生の書いたあほらしいお芝居の台本の登場人物の一人でしかないのかもしれない。だから本当はどこにも存在しないし、、いまだに生まれてきてもいないかもしれない。
画面が黒くなり、合成音声に切り替わる。
合成音声 その方が楽だな。重力を感じないから。自分のすべてが散らばって、どこにもいなくてよくなるんだ。海に浮かんで、穏やかな波に揺られて、目を閉じている時みたいな、そんな感じなんだ。きっと。そして私は。
画面「透明になる」
明るくなり、私8が現れる。
私8 でもやっぱり私の体はほっといたらゆらゆら揺れてしまうんだ。だから体はここにある。このパイロンは私が小学生のころ、友達とよく行った、竹藪の前に置いてあったものだし、この地球儀は従妹のお兄ちゃんにねだってもらったもの。あの歌は雨の真夜中、布団にくるまって聞いた歌。あの光は夕立の後、ねーちゃんと見た真っ赤に染まった夕暮れの光。そんな記憶が私には詰まっている。だから私はここにいるし、家族だっているし、戦争だって、ある。そんな当たり前のことが、耐えられないくらい嫌になって、だから私はもう死のうと思う。一人静かに海にでも入って。本永かな子。18歳
ナレ1 かな子ちゃんは午後8時半ごろの国道沿いを歩いていました。はだしでした。靴はく暇がなかったからなんですけど、もう足の裏にアスファルトの粒粒が刺さってめちゃくちゃ痛いはずなんですけど、不思議とあ、これなんか全然痛くないっていう感じで。しかもなんか地面に足がついてる感じがしなくて、空中浮遊?みたいな。あたまんなかは結構冷静なんですけど、体がずっと熱くて、ふわふわしてて、あれここどこだっけ、あ、そうだ、塾だ。塾の前だここ。って思いだして、そしたらそこにネコ君が立ってて、
ネコ3 どうしたの?
私1 ついてきて
ネコ3 ☆でも
私1 ☆いいから
ネコ3 あ、うん
私1 自分でも自分で言ったことが意外だったんですけど、それより意外だったのはネコ君が都合よくいたことで、え、やっぱこれ全部お芝居なんじゃないかなーとか馬鹿なこと考えて、そんで、このまま私たちは夜9時の道を海まで歩いていくんですけど、私は裸足のままで。
次のペアへ
ネコ8 足、痛くないの?
私2 痛いよ
ネコ8 、、、
私2 うそ
ネコ8 は?
私2 なんかわかんないけど思ったより痛くない
ネコ8 そうなんだ
私2 、、、ネコ君、私昼ドラの中に入ったよ。
ネコ8 、、、そっか
私2 だから、もう普通に生きられそうにない。
ネコ8 、、、うん
私2 ネコ君とも帰れない
ネコ8 、、、うん
私2 刺しちゃったら、ねえ
ネコ8 刺しちゃったかあ
私2 うん。刺しちゃった。
ネコ8 、、うん、そっかあ
私2 、、、うん
ネコ8 どこまで行く?
私2 海
ネコ8 わかった
私2 夢じゃないよね、今
ネコ8 夢じゃないよ
私2 現実だよね
ネコ8 現実だよ
私2 体、あるよね?
ネコ8 体?
私2 うん なんか感覚なくて、重力なくなったみたいで
ネコ8 あるよ ちゃんと
私2 よかった。よかった?
ネコ8 よかったんじゃない?
次のペアへ
私4 私、ちゃんと生きてるかな、今。
ネコ11 生きてると思うよ。
私4 こないだの三月の話なんだけど、夜、塾の帰り道で、繁華街の裏の狭くて暗い道で、、雨がしとしと降ってて、そこに1匹の猫が倒れてて、私は最初寝ているんだと思った。だけど近づいても逃げ出さなくって首だけ動かしてて。その瞬間私には全部分かった気がした。ああ、この猫はもうすぐ死ぬんだなって。手を伸ばして触れようとしたとき、丸い目が私をにらんで、かすれた声で威嚇した。そんでそれっきり動かなくなった。繁華街からは愉快な酔っ払いたちの歌が聞こえて来た。私はカバンを捨てて、冷たくてビロビロに伸びた体を抱きかかえて、動物病院までの道を走りだした。雨が痛くて、涙が止まんなかった。もう死ぬんだってわかってた。だけどこうするしかなかった。私だけはこの猫が死ぬのを悲しんでやるんだ、って思った。私が死んだらさ、ネコ君は悲しんでくれる?
ネコ11 、、、
私4 ごめん、変なこと聞いて。
そういう話、こうやって歩いて、海につくまでの間、私たちはずっとしゃべってたんですけど、そうしたらもうこれ昨日しゃべったことだっけ、いつだっけ今、っていう感じになってきて、あ、そうだネコ君、そういやね、私今日誕生日なんだよ。
次のペアへ
ネコ5 そうなんだ。おめでとう
私6 うん。ありがとう。でね、私バイトの友達、って言っても先輩なんだけど、結構面倒見てもらってるんだよね、いろいろ。まあ、ちょっと変わった人で、まあ、マリリンモンローっていう名前なんだけど、その人は。すごいいろいろなんていうかぼかーん、みたいな、はっちゃけた、というかはっちゃけすぎてそのまま漫画の世界へダイブ!みたいな人なんだけど。その人に誕生日を祝ってもらったんだよね。歌ってもらって。
ネコ5 そうなんだ
私6 でも、なんか恥ずかしいよね
ネコ5 なにが?
私6 いや、もう高3だしさ
ネコ5 ああ
私6 そんな年でもないし
ネコ5 そうかもね
私6 夜で、塾の帰りに、そんな話になって、駅までの数百メートルの道なんですけど、もうあと五十メートルくらいのとこまで来てて、私はあと何キロだって続いてていいよって感じで、え、ネコ君っていつだっけ、誕生日
ネコ5 さあ
私6 さあって
ネコ5 忘れた
私6 なにそれ
ネコ5 いつだろうね
私6 えー教えてよ
ネコ5 てかさ、ほんとに興味ある?それ
私6 え、いや、あ、彼は、ネコ君っていうんですけど、塾で一緒の人で、私たちはだいたい一番遅くまで残ってたりするから、帰りが一緒になることがあってしゃべるようになったってだけなんですけど、
次のペアへ
ネコ3 、、、あのさ、いや、俺こんなこと言って何こいつやベー奴だって思われるかもしんないけどさ
私10 うん
ネコ3 今さ、戦争やってるでしょ。ガザで。パレスチナとイスラエル。紛争。ニュースそればっかりでしょ。ビルとか倒れて人バンバン死んで
私10 うん
ネコ3 いや、こんなのも一週間もしたら、え、なにそれ知らないってなって、それより芸能人のだれだれ結婚しましたおめでとう、みたいになってると思うんだけど、でも俺それ見てさ、信じられなくて、今現実でこんなことが起こってることが。何でこんなこと知らずに生きてこられたんだろう今までって思って。俺らの現実ってなめられてる先生が生徒をドロップキックしたことが大ニュースになってるくらい平和で、そんなんでいいのかなみたいな。いや、何もできないんだけどね、べつに。でもさ、なんかどーでもいいってなれない、なりたくないっておもって
私10 うん わかるよ
ネコ3 でもそんなこと言って空爆の映像見たらさ、ミサイルいっぱい飛んでビルとかどんどん崩れてく映像ね。それ見たら、なんかガザの空って青くて、そこにミサイルが飛んで、それをアイアンドームっていう迎撃ミサイルも飛んで、ミサイル同士が空で爆発してて、なんか俺それ見て、あーすごいきれーだなーって思ったんだよね。やばいかな。もし今ここにミサイル飛んできても俺そんなこと思っちゃうと思うんだけど。
二人で空を見上げる。
ネコ3 そういう自分に吐き気する。結局どーでもいいのかよって
私10 あーでもちょっとわかるかも
ネコ3 えーじゃあ俺らやばい奴同士だね
私10 いや、ネコ君はまともだよ。やばいのは私だけ。私もう無理だもん。まともとか、そういうの。もう私未来ないから。どーでもいい。
ネコ3 わかんないよそんなの、未来なんて
私10 、、、
ネコ3 未来ばっかあてにしてきたから今この国はこんな風になるんだよ。未来なんて誰にもわかんないくせに。
私10 、、、うん
ネコ3 好きでしょ、騒ぐの
私10 そこまで
ネコ3 そう
私10 うん
ネコ3 誕生日なんてただ生まれただけの日なのになあ
私10 それは確かに
ネコ3 まあ、どうせ生きていかなくちゃいけないんだったらさ、たまには騒ぎたくなるからな
私10 そうだね
ネコ3 そのための日だよ。誕生日なんて
私10 ネコ君はかなり、けっこう、ひねくれたやつなんですけど、ま、いいところもあったりするんですけど。で、私たちはこういう日はだいたい駅前のコンビニでなんか買ってから、じゃあバイバイってことになるんですけど、別にそうやって決めてるわけじゃなくて自然にそうなってるだけなんですけど、っていうかもう私とネコ君、もうどっちが私でどっちがネコ君なのかとかわかんないくらい、なんかでろでろに溶けちゃって、もうよくわかんないんですけど、
次のペアへ
私9 あのさ、私腕に小さい痣あるんだけど、
ネコ1 そうなんだ
私9 うん、それでその痣が、すっごいいやで、小学校も中学校も、人に見られるの恥ずかしくて、
ネコ1 うん
私9 何でこんなのあるんだよってずっと思ってて、だからできる限り制服は冬服着てたし、体育も長袖だったんだ
ネコ1 そうなんだ
私9 けど、中学卒業する前、ねーちゃんにこのあざのこと言ったら、なんか、これは私らのお母さんのおなかン中にあんたがいた時、あんたがこーんなちっちゃいときに、自分で噛んでた跡なんだよ。って、あんたは馬鹿だから自分で自分のこと噛んでたんだよって言ってて、ちょっとむかついたんだけど
ネコ1 そうなんだ
私9 そう。でもそれ聞いてから私、不思議なんだけど、全然平気になった。半袖でも。
ネコ1 そうなんだ
私9 ちょっと好きになった。、、、ごめん興味ないよねこんな話
ネコ1 そんなことないよ、、、
私9 どんなやつだった?ケーキ
ネコ1 え?
私9 誕生日ケーキ。どんなやつだった?
ネコ1 ああ、うーん、普通にショートケーキ
私9 そうなんだ
ネコ1 そっちは?
私9 なんか果物のタルトケーキみたいな
ネコ1 おいしそう
私9 おいしかったよ、、、
私9 全然普通でいいんだけど
ネコ1 え?
私9 私さ、全然普通でいいんだけど。ていうか普通がいいんだけど
ネコ1 、、、それさ、一番難しいやつだよ
私9 、、、だよね もう無理だしね私には。普通。私はもうおかしい奴だよ。もう一生普通の人にはなれないんだよね。立派な大人になれるわけないよね。こんなやつ。
ネコ1 、、皆どっかしら変だよ
私9 それさ、フォローになってないよ。多分。
ネコ1 え、うん
私9 ごめん。って感じで私たちはたぶん2時間くらい歩いて、海に着いたんですけど、結構寒いね
ネコ1 そりゃそうだよまだ5月だし
私9 そっかあ
私は浜辺へ駆け出し、浅瀬に足を浸らせる。
私9 つめてー
ネコ1 あ、船
私9 違うよ灯台だよ
ネコ1 いや、そのもっと横
私9 あ、ほんとだ
波の音だけが聞こえる。私は海で遊んでいる。ネコ君は腰を下ろして海を眺めている。
私9 ネコ君
ネコ1 なに?
私9 結婚式ごっこしよ
ネコ1 は?え、なんで?
私9 、、、いや、いや、あのごっこだけね、
ネコ1 ああ、うん
私9 どんなもんかなーと思って
ネコ1 、、、
私9 フリだけでもしてみようかなーって
ネコ1 うん
私9 すごい照れるんだけど
ネコ1 うん
私9 、、お願い。
ネコ1 いいよ
二人は手を取り合って歩いていく。
私9 私、どうなるかな
ネコ1 大丈夫だよ
私9 大丈夫かな
ネコ1 、、、うん
私9 何で離婚なんてすんだよ、
ネコ1 、、、うん
私9 、、、どーでもいいわけない
ネコ1 未来は明るいよ
私9 未来、明るいかな
ネコ1 うん。絶対。
私9 そっか
ネコ1 ずっと愛してるよ
私9 私も、ずっと愛してる
二人は気恥ずかしさで笑ってしまう
ネコ1 なんか発狂しそう
私9 わたしも
ネコ1 誕生日おめでとう
私9 ありがとう。
波の音だけが聞こえる。
私9 帰ろっか
ネコ1 うん
私9 もう終わるんだねえ 現実逃避
ネコ1 そうだね
ナレ7 違うよ。逃避じゃないよ。
私9 え?
ナレ7 逃げてないよ、逃げてなんかないよ。かな子ちゃんは戦ってるよ。今はゆらゆらしてるけど、いつかしっかり立つために戦ってる。私たちも。
私9 うん。
ナレ7 ごめん
私9 ううん。ありがとう
ナレ7 うん。そのあと私とネコ君は近くのカラオケに入って一曲だけ歌おうってことになりました。
カラオケボックスになる。二人で「歌うたいのバラッド」を二人で歌う。最後は全員で大合唱。
全員が肩を組んで歌う真ん中にかな子が現れる。
歌の最後に、かな子が世界に向かって飛び出していく。
1 かな子!生きろ!
みんな口々に「がんばれ」と叫ぶ。存在しない「かな子」を応援する。 幕