『職務質問』 2006/03/16                 作 : コマダナル・タカ & Co.

 

登場人物(男2女1)

 

佐藤(私服の刑事。)

女(宮里キョウカ。女子高生。服部の彼女?)

服部(忍者。忍者服。)

 

※ 台詞の前の名前にいろんなものがありますが、佐藤=刑事、女=宮里、服部=忍者 で読んでください。また途中で行間隔が変わりますが、整えられなかったのですいません。

 

 ME・OP。ライトオープン。

 夜の公園。センターには街灯があるのか、円状に灯りが落ちている。灯りの当たるところにベンチがふたつ。下手側のベンチの下手側にゴミ箱がひとつ。上手側のベンチにトレンチ・コート(ジャンパーでもジャケットでも)の男がたたずんでいる。佐藤刑事である。缶コーヒーを飲んでいる。飲みきって、すする。ゴミ箱に空き缶を投げ入れる。(失敗したら、拾いに行って、またベンチまで戻って、また投げる。しょうもなく静かな時間をすごす。ゆったりした時間をつくる。)

 思い出したように、携帯電話を取り出す。着信を確認。部下に電話をかける。

 

佐藤   もしもし佐藤です。……ああ、今終わったとこ。そっちは? ……そうか。なんとかなりそうだな。……ああ。もう帰るわ。……いや、家じゃなくて署のほうだよ。……まだやっておきたい仕事あるから。今夜も署に泊まるよ。……()そっちこそな、お疲れさん。

 

 佐藤、携帯をしまう。伸びをする。少しぼーっとして、帰ろうとする。下手側の気配に気づく。

 女が(携帯をいじりながら?)下手から入ってくる。見たところ未成年である。女である。佐藤には気付いていないのか、無視。そのままベンチに座る。

佐藤、しばらく様子を見ているが、やがて女に近づく。。

 

佐藤   ……ちょっと。

 

 女、佐藤の方を怪訝そうに見る。

 

佐藤   何してるんだ? こんな時間に。

     ……。

佐藤   高校生、だな?

     ……おじさん、ダレ?

佐藤   ああ、こういう者なんだけど。(ごそごそ)

     あ、変質者。

佐藤   違う。

     ホームレス。

佐藤   違う。

     変なおじさん。

佐藤   だから! 警察だよ警察!(ごそごそ)

     いいや、その顔は変質者だ。

佐藤   (むっ)……(手帳を出しながら)ほら!

     ……へぇ〜。(見ようとする。)本物?

佐藤   本物だよ!(手帳を渡す)

     へぇ〜。(ためつすがめつしたあと、鞄にしまう)

佐藤   しまうな。返せ。(取り返す)

     てことは刑事?(指差し)

佐藤   そう。

     カツ丼出す?

佐藤   出さないよ。

     (ふっ)じゃあ偽者だ。

佐藤   手帳見ただろ! 警察手帳よりカツ丼で判断するのか!?

     マアマアそう熱くなるなよ。大人気ない。

佐藤   ……とにかく、高校生はこんな時間に出歩いてちゃいけないの。早く帰りなさい。

     変質者も出たし。

佐藤   俺は変質者じゃないぞ。。

     またその話?(うんざり気味)

佐藤   それはこっちのセリフだ。

 

 ME「きゃぁぁぁぁっ!」絹を裂くような女の悲鳴。驚いて周りを見渡す刑事佐藤。

 ME・火サスのテーマ。

 

     (携帯ピッ)もしもし。

佐藤   着メロかよ!

     (電話口で)……うん。今、公園。うん平気。あでも、変なおじさんに声掛けられた。

佐藤   誤解されるような言い方するなよ。刑事だよ。

     刑事のコスプレしてる人に。

佐藤   コスプレじゃないよ! 本物だよ!

     あーとにかくカツ丼は出さない。

佐藤   いや、持ち歩くもんじゃないだろ!

     うん。じゃあもうじき着く? 待ってる。じゃ。(携帯切る)

佐藤   いや、待ってちゃ駄目だって。

     ……おじさんうるさい。マナーがなってないな。

佐藤   ……(悔)。

服部   ごめーん(御免)!

 

 舞台下手奥から、忍者走りで男(服部)が出てくる。赤い忍者服。腰に忍者刀。背中にナップサック。刑事、ぎょっとする。女、振り向く。服部、女に近づく。

 

服部 只今参上!(ポーズ)

     ……多少、遅い。

服部   多少、ゴメン。

     でもまあ、思ったより早かった。

服部   そりゃあ、忍術だから。(その場走り)

     あそっか。

服部   じゃあ、参るか。

     うん。

 

 二人、下手に出て行こうとする。

 

佐藤   ちょっと待てぇー! 

服部   何か?

佐藤   ……ツッコミどころがありすぎて、まずどこからツッコめばいいか分からない……。

     ……じゃあ無理しなくても。

佐藤   そーはいかない。だって怪しいから! 怪しすぎるから!

     いや、泣かなくても。

佐藤   泣いてないよ!

服部   この人誰?

     ほら、さっき言ってた……。

佐藤   変なおじさんじゃないぞ。

服部   ああ、カツ丼出さないひと。

佐藤   そこ?!

服部   何でカツ丼出さないの?

     さあ。

佐藤   ええ!? カツ丼出す人って普通か?

服部   だってカツ丼屋でしょ?

佐藤   違う!

     服部君、この人はカツ丼屋じゃない。変なおじさんよ。

服部   変質者か。じゃあ仕方ないな。カツ丼ださなくても。

佐藤   ここで戻ってくるとは思わなかった。

服部   変質者が何か御用ですか? もしや、彼女に変なことをしようと……。

佐藤   いや、君らの方がよっぽど変だから。

服部   何が変だって言うんですか!?

佐藤   まずその服装……。

 

 互いの服装を見る間。

 

     (自分を指差し)どう見ても普通の女子高生。

服部   (うなづく)

     (服部を指差し)どう見ても普通の忍者。

服部   (うなづく)

     (佐藤を指差し)おじさんは……刑事には見えない。

服部   で、それは何のコスプレなんですか?

佐藤   違うって!

     変質者?

服部   ああ。

佐藤   ああじゃない!

服部   もういいですか? 僕ら、いくとこあるんで。

 

 二人、下手に出て行こうとする。

 

佐藤   ……ちょ、ちょっと待てぇー! 

服部   またですか?

佐藤   あのさ……「普通の忍者」……って……何?

 

 間。

 

服部   それは「普通の刑事って何?」という問いと本質的に同じことなのでは?

     レーゾンデートルのことね?

佐藤   そういう小難しいことは聞いてないから。

     じゃあ何?

佐藤   「忍者」って! 「忍者」っておかしいでしょ今の時代!? 何その中途半端なコスプレ!

服部   ……コスプレじゃないですよ! あなたと一緒にしないで下さい。

佐藤   だからコスプレじゃないって!

服部   僕は、本物の忍者なんです。

佐藤   もぉっとおかしいし!

服部   ともかく、中途半端とは聞き捨てならないな。

     おじさんは信じられないかも知れないけど、彼は本物の忍者なのよ。

佐藤   本物って……。だとしてもおかしいだろ、その私服と忍者服の中間の服装!

     そういわれればそうね。

服部   え!? どこかおかしいか?

佐藤   やっと気づいたか……。

     顔は、もっと隠したほうがいいかもしれない。

服部   成程、正体を隠すためにね。

佐藤   そういうことじゃなくって。

     ま、私はあなたの顔がいつも見えた方がいいけど。

服部   ふっ。だから顔を出しているのさ。

     まあ。

佐藤   「まあ」じゃねぇぇ!

服部   この人は何を怒っているんだ?

     さあ。変質者の考えることは。

佐藤   君たちに聞きたいことがある。正直に答えるように。

服部   なんでそんなこと答えなきゃいけないんです?

佐藤   俺は刑事だ。(警察手帳見せる)市民の君たちには、警察の活動に協力する義務がある!

服部   ……(警察手帳を見て)え、本物の刑事だったんだ。なら最初から、

佐藤   最初から言ってます!

服部   何でカツ丼出さないんです?

佐藤   そこかよ……。お願いだからカツ丼から離れてくれ。

 

     ともかく、なんで質問に答えなきゃいけないの?

佐藤   怪しいからに決まってんだろ。

服部   どこが怪しいんですか?

佐藤   とりえず、その服装がおかしいでしょうが。

服部   ……は?

佐藤   いや、お前、それ、コスプレだろ?

服部   あなたと一緒にしないで下さいよ。

佐藤   だからコスプレじゃないって! お前と一緒にすんな!

服部   この人は何を言っているんだ?

     わかんない。

佐藤   え!?

服部   誰がコスプレしてるって?

佐藤   いやだって……おかしいだろ、その服! 

 

 再び、変な間。

 

     あ、そういわれれば……。

服部   え!? どこかおかしいか?

佐藤   今頃気づいたか……。

     ちょっと……色が地味?

佐藤   ぇえ!?

服部   御免、前のは洗濯しちゃったんだ。

佐藤   いや充分派手だって。つかもっと他につっこむ所があるだろ。

服部   えー?

     うーん……顔は、もっと隠したほうがいいかもしれない。

服部   成程、正体を隠すためにね。

佐藤   そういうことじゃなくって。

     ま、私はあなたの顔がいつも見えた方がいいけど。

服部   ふっ。だから顔を出しているのさ。

     まあ。

佐藤   「まあ」じゃねぇぇ!

服部   この人は何を怒っているんだ?

     さあ。

佐藤   ……何で忍者なの?

 

 間。

 

服部   なんでって言われても……。

     なんでおじさんが刑事なの? ってのと同じでしょ?

佐藤   同じじゃない!……「忍者」って! 「忍者」っておかしいでしょ今の時代!? 何その変なコスプレ!

服部   コスプレじゃないですよ。僕は、本物の忍者ですから。

佐藤   ……はあ?

     (うなづく)

 

佐藤   ええ!? カツ丼出す人って普通か?

服部   うん。カツ丼屋なら。

佐藤   違う!

     服部君、この人はカツ丼屋じゃないわ。……変なおじさんよ。

忍者   変質者か。じゃあ仕方ないな。カツ丼ださなくても。

佐藤   ここで戻ってくるとは思わなかった。

服部   変質者が何か御用ですか? もしや、イチコに変なことをしようと……。

佐藤   いや、君らの方がよっぽど変だから。

服部   何が変だって言うんですか!?

佐藤   まずその服装……。

服部   これはコスプレじゃないし……。

佐藤 (警察手帳開いてメモ)名前は? (このあたりから女、ベンチに座る)

服部   服部。

佐藤   服部、何君?

服部   服部はんぺい。

佐藤   ……え?

服部   服部はんぺい。

佐藤   ……微妙だな。

服部   親がつけてくれた名前に何ケチつけてるんですか。

佐藤   本名?

服部   当たり前ですよ。失礼な。

佐藤   ごめんごめん。じゃあ年齢は。

服部   十八歳。

佐藤   じゃあ、職業は学生?

服部   忍者です。

佐藤   え?

服部   忍者です。

佐藤   ……ぇえ?

服部   忍者ですが、何か?

佐藤   職業、忍者って何だよ! じゃあれか、手裏剣とか投げんのか!?(激しく投げマネ)

服部   違いますよ。手裏剣は「投げる」じゃなくって「打つ」もんですよ。(正しいポーズ)

     さすが! そうやって打つんだ。

佐藤   投げ方の話? 

服部   直打法と回転打法があって……。

佐藤   そんなことはどうでもいいんだよ。

服部   そんなことってなんですか。怪我しますよ!

     素人は黙ってた方が。

佐藤   投げ方なんて質問してないんだよ! じゃあ、職業忍者だって証拠は?

服部   ありますよ。(ごそごそ)

刑事   あるって、そんな免許とかあるわけじゃなし。

忍者   はい、忍者一級免許。(カード出す)

刑事   忍者に国家資格あんの!?(カード見る)

     刑事のくせに知らないの?

刑事   いや、……こんな、何処が発行してんだ?

忍者   自分で印刷しました。

刑事   (カード叩きつけて)証明能力なし!

忍者   何するんですか! 失礼な人だなー。

     (はっ)忍者に国家資格なんかあるわけないでしょ。

刑事   バカにしたような目で見るなー!

忍者   陰の仕事だからね。

 

刑事   そういうことじゃないだろ。

忍者   しょうがないなー。じゃあ忍法を見せてあげますよ。

刑事   お、そんなことできんの?

忍者   (口パク)あれ(口パク)声が(口パク)遅れて(口パク)出てくるよ。

刑事   腹話術じゃん! しかもできてないし。

忍者   忍法・軽身功!(走り出す)

刑事   別に速くないし。

忍者   忍法・死んだふり!

刑事   忍法じゃないし。

忍者   ……(ゆっくり立ち上がる。すごく不満げ)。

刑事   いや、すねるなよ。悪かったよ。

     忍者道具を見せてあげたら?

忍者   ああそうだな。(切替はやい)

刑事   そういえば、その刀は銃刀法違反だろ、明らかに。模造刀だな?

忍者   いえ、本物ですよ。(刀すらっと抜く)本物のたくあん。

刑事   なんで!?

忍者   おなか空いたときにいつでも食べられます。

     忍者食ってやつ?

忍者   よく知ってるね。

刑事   たくあんが忍者食かよ!

忍者   何食べようと忍者の自由じゃないですか。略してにんじゅう。

刑事   略す意味あんのか? 他には何かないの、忍者道具。

忍者   あぁ……(ナップサックあさる)この黒布で、隠れ身の術ができます。

刑事   へぇ。

忍者   (大黒の前まで行って、)忍法・隠れ身の術!

 黒い幕の前、黒い服の男が、中途半端な大きさのド派手な風呂敷をもって立っている。

 

刑事   ……表裏逆。

     芸術だわ。

刑事   えっ、そういう話だったの!?

忍者   あえて、新しいストリートパフォーマンスに挑戦してみました。

刑事   素直に表裏間違えたって言えばどうだ?

忍者   じゃあ、まきびしはどうですか?(ごそごそ)

刑事   スッと話変えるな。どうですかって、食べるわけじゃなし。

忍者   え、あなたまきびし食べるんですか?

刑事   食べねぇよ!

忍者   (取り出す)これです。

刑事   へぇ、これ、踏んだら痛いやつだろ?

忍者   それは昔のまきびしですね。これは最新式です。

刑事   え、どう違うの?

忍者   踏んでも痛くないんです。

刑事   使えねぇだろ!

     安全設計ね。

忍者   バリアフリーです。

刑事   意味ないじゃん!

忍者   そんなことないですよ。足の裏が気持ちいいんです。

     ツボ刺激ね。

刑事   もういい……。

忍者   こっちは、煙玉なんですけど。

刑事   最新式の?

忍者   そうです。なんと、煙が出ないんです。

刑事   やっぱり!? 使えないよね!?

忍者   そんなことないですよ。これ、ガスが出るんです。

刑事   ああ、マスタードガスみたいな? 涙が止まらなくなるとか?

忍者   いえ、ラヴェンダーの香りです。

     芳香剤ね。

刑事   持ち歩く意味あんのか!?

忍者   これは、水遁の術用の竹筒です。

刑事   最新式?

忍者   ええ。リレーのバトンに使えます。

刑事   ただの竹!?

忍者   ……今はちょうどいい忍者道具を持ってきてないんですよ。

     任務中じゃないしね。

刑事   そういうもんなのか?

忍者   まあ、今はオフですから。

刑事   任務って、どんなことするの?

忍者   うーん、まあ色々です。潜入調査とか。

刑事   潜入調査?

忍者   家に忍び込むんです。シノビだけに(笑)

     (笑)

刑事   いやそこ、笑うとこじゃないだろう。不法侵入だぞ。

忍者   いえ、ちゃんと先方に許可とってから入ります。

刑事   忍者が許可取んの!?

忍者   ええ。浮気調査とかですから……。旦那さんが依頼者で、奥さんの様子を見張れって。

刑事   私立探偵みたいだな。奥さんには秘密なんだな。

忍者   いえ、ちゃんと許可とって。挨拶します。

刑事   意味ねえ!

忍者   ご飯作ってもらったり。

刑事   なんで!?

忍者   犬を散歩に連れてったり。

刑事   持ち場離れんなよ! 奥さんは!?

忍者   ……さあ?

刑事   さあ、じゃねぇだろ! つまんないこと聞くなって顔すんな!

忍者   まあ、他にも色んな仕事がありますよ。0点の答案を隠したり。

刑事   小学生か。

忍者   机の中でくさったパンを捨てたり。カブトムシ捕ったり。

刑事   完全に小学生レベル。

忍者   まあカブトムシは自分のにするんですけどね。

刑事   お前の趣味かよ!?

佐藤 もういい。次。

    服部、クナイを取り出す。

佐藤 あー、これはわかるわ。あれだろ。敵に向かって投げる奴だろ。

服部 違いますよ。

佐藤 えっ、でもこれクナイだろ。

服部 違います。これはこうして、孫の手になるんです。

宮里 へー、便利だなー。 

佐藤 長くないから背中に届かないだろ

服部 あとこうしてからだのつぼを押す事ができる。

宮里 これは効くなー。

佐藤 先が鋭いから刺さっちゃうだろ。

服部 さらに、こうして扇風機になる。

宮里 気持ちいいー。

佐藤 風が来るわけないだろ。

服部 さらに今ならこれがもう一本ついて、なんと値段は十万円。

宮里 まあ、安い!

佐藤 高い!ていうか、なんでショッピング番組になってるんだ。

服部 電話番号は0120―☓☓☓☓☓☓(声になってない)

佐藤 わからないだろ。

服部 今すぐお電話を。

佐藤 だれがするんだよ。

宮里 0120―・・・。

佐藤 するのかよ。

宮里 あー、番号わからない。

佐藤 おい。

服部 はい。

佐藤 お前の持ってる道具はどれもこんないい加減なものなのか。

服部 いい加減とは何ですか。どれも素晴らしい物ばかりじゃないですか。

佐藤 ガラクタばかりだろ。もういい。次は君だ。

服部 ちょっと、もっと僕の道具を見てくださいよ。

佐藤 何で自分から道具を売り込んでんだ。とにかく、君はもういい。(宮里に)名前は?

宮里 宮里 キョウカ。

佐藤 年齢は?

宮里 十七。

佐藤 君は学生じゃないか。こんな時間に外を出歩いていたらいけないだろう。

宮里 別にちょっと位いいじゃない。

佐藤 そのちょっとがいけないんだ。君はお父さんやお母さんの存在を忘れてないか?御両親が君の帰りが遅いのを心配しているかもしれないだろ。

宮里 誰にも迷惑なんてかけてないよ。

佐藤 それは君が決めることじゃないだろ。子供がいつも勝手な事をするから親は苦労するんだ。誰に御飯を食べさせてもらっていると思っているんだ。

宮里 刑事さんには関係ないでしょ。

佐藤 だからってほっとけないだろ。何かあったらどうするんだ。君は責任をとれるのか?自分の行動に責任を持てない子供がくちごたえするんじゃない。

宮里 ・・・刑事さん。

佐藤 何だ。

宮里 トイレ行ってきて良い?

佐藤 へっ?

宮里 トイレ。ずっと我慢してたんだ。行っても良いでしょ?

佐藤 ったく、真剣に聞いていたのか・・・。ちゃんと戻って来るんだぞ。

宮里 わかってるって。

    宮里、下手にはける。

佐藤 なんか、話の腰を折られたような感じだ。

服部 刑事さん、なんでそんなに怒ってるんですか。

佐藤 俺は別に怒っているわけじゃない。ただ、彼女の勝手を叱っているだけだ。

服部 刑事さんの言う事もよくわかるけど、別にいつも遊んでるわけじゃないし。

佐藤 ああいうのはいつも遊んでるに決まってんだよ。

服部 そんなの、刑事さんにはわからないでしょ。

佐藤 雰囲気だよ、雰囲気。

服部 そんな、見た目で判断して。外見と中身を一緒にしないでください。

佐藤 お前はどうなんだよ。

服部 僕は最初から忍者だって言ってるじゃないですか。

佐藤 ああ、そうかよ。

服部 刑事さん、おかしいですよ。なんで彼女が悪いってわかるんですか?

佐藤 俺の娘もあんなんなんだよ。

服部 はい?

佐藤 娘がいるんだ、あの子くらいの。

服部 そうなんですか?

佐藤 これが凄く生意気でさ。俺がたまに家に帰っても、自分の部屋からあまり出てこないし、出てきても俺を無視するんだ。あの子も同じだろうよ。

 

 間

 

服部 刑事さん、僕はヒーローになりたいんです。

佐藤 何わけのわからんことを言ってるんだ。笑わせるな。

服部 嘘じゃありません。

佐藤 どうして?

服部 父親は子供に何かを教えるものじゃありません。自分の生き様を見せるものでしょ。そこから、良かれ悪かれ影響を受けるんです。

佐藤 そういうもんかな。

服部 だから、僕が彼女の父親ができなかったことをしてあげたいんです。他の人ならできない事を、僕はしてあげたいんです。

佐藤 それじゃ、誰もお前がヒーローだなんて気付かないだろ。

服部 彼女が僕の背中に父親の背中を見えてくれれば、それで満足です。忍者は陰の存在ですから。

佐藤 ・・・ひとついいか。

服部 なんですか?

佐藤 なんで忍者なんだ?

服部 まあ、親が忍者ですから・・・。

佐藤 ・・・たく、なんでこんな変な奴にとやかく言われるんだか。

服部 変な奴じゃありません。

佐藤 ああ、そうかよ。

    宮里、下手から戻ってくる。

宮里 ただいま。

佐藤 ちょうど良かった。質問は終わりだ。もう行っていいよ

宮里 えっ、いいの?

佐藤 もう疲れた。さっさとどっか行け。

宮里 なんか適当な感じが・・・。

服部 じゃ、行こうか。

宮里 えっ、あ、うん。じゃねー、刑事さん。

服部 さようなら。

佐藤 はい、さいなら。

    二人、下手にはける。佐藤、しばらく見送る。佐藤、携帯をとり、電話をかける。

佐藤 もしもし、俺だ。今日、家に帰るから。マイはどうしてるんだ?・・・そうか。なんか買って帰ろうか?・・・。

    佐藤が電話をかけながら音響が大きくなっていく。

                           ― 幕 ―