第38回中南勢地区春季大会参加脚本
上演日:2022年3月27日(日)6校目
さらさら
【やわらかい不可視光線としての
(ことば)を捜すためのパフォーマンス】
山田淳也 作
上演団体:三重高校演劇部
2022年3月20日バージョン
山田淳也 小林さあや
詩 (後輩) 宇野はるか
ゆうか 未定
さなえ 未定
魂1 未定
魂2 未定
心の声 堀口るな
残酷 奥村まい
プロジェクター 未定
この劇では誰かが山田役を演じる。書き記された言葉からそれを書いた人の魂の、書いた時見た景色や、体の状態などを具体的に想像し、それを自分たちの体に投影する。魂は憑依させるのではなく、投影する。同一化するのではなく、信頼で結ばれた隣人になる。山田は主に観客に向けられたセリフではハンドマイクで話す。詩は朗読をハンドマイクで行う。プロジェクターは詩が読み上げる詩を映す。指定がない限り全員舞台上のどこかには居るようにする。漂う魂のように。
幕が開き、上手花道に山田が登場。遅れて上手花道から詩が登場。
山田 こんにちは。僕の名前は山田淳也です。三重高校演劇部の元部員で、ずっと脚本と演出をしてきました。もう引退しましたけどね。そして四月から大学へ進学するために兵庫県に行きます。ここから6時間くらいかかる兵庫でもすごく田舎のほうなので、三重県に帰ってくる機会も少なくなりそうです。そういうわけで、僕が一年生のころから本当にいろいろお世話になってきたこの地区の皆さんと、自分の後輩に対して、勝手ながらお別れの言葉を送りたいと思います。今から、と行きたいんですが、実はまだちょっと迷っていて
後輩 え?
山田 いや、せっかく高校三年間文章を書いてきたんだから、スペシャルなこと言いたいなーと思って 何言えばいいんだろうっていうのをずっと考えてるんですけどね
後輩 まだなんですか?
山田 ごめん
後輩 え、じゃあ今から何するんですか
山田 うーん。
後輩 うーんじゃないですよ。怒られますよいろんな人から
山田 まあ今からいろいろ話しながらかんがえるわ
後輩 この劇終わるまでに結論出してくださいね
山田 任せて
後輩 だいじょうぶかな、、、あ、てかそもそもあなた山田先輩じゃないでしょ
山田 山田ですよ?
後輩 いや、うそでしょ
山田 山田だってば
後輩 先輩はもっと背の高い、、うーん老け顔の眼鏡の男性ですよ
山田 的確な表現ですねえ
後輩 どう見てもあなたは三重高演劇部の新部長、小林ちゃんですよ
山田 じゃあこう考えて
後輩 はい?
山田 僕の名前は山田淳也です。だけど今僕の書いているこの言葉、セリフを話しているのは小林さんです。たまに目が怖い真面目な新部長です。言葉には魂的なものが寄り添っていて、今は小林さんの体の周りを僕の魂がうようよしている状態です。そしてこの状態はもはや僕がここにいる、ということとほぼ同じ
後輩 はあ
山田 これ読んでみて(詩の束を指さす)
後輩 「コノサカズキヲウケテクレ ドウゾナミナミツガセテオクレ ハナ二アラシノタトエモアルゾ サヨナラダケガジンセイダ」
プロジェクターに原文が映される。
山田 ウブリョウという詩人の漢詩、その有名な日本語訳ですね。1200年ほど前に中国で書かれたこの詩にも、きっと詩人の魂が寄り添っています。
後輩 私はこれを読めばいいんですか?(紙の束を見て)
山田 うん。いろんな人の言葉を参考にして考えてみたいから。別れの言葉。
後輩 てかそもそもそういう大事なことは自分自身で言った方がいいんじゃないですか?
山田 えっと大事だからこそたくしたいと思う。僕は信じています。想像力を。
後輩 どういう意味ですか?
山田 言葉のそばにある魂を想像してほしい。僕の言葉を含めた、いろんな人の言葉の、そのそばにあるものを。なんで自分を演じさせるのか、とかも。
後輩 うーん?
山田 それではとりあえず伝説の男の魂に登場していただきましょう。どうぞ!
後輩 ちょっと!え?なに?
山田 それ読んで
後輩 え、あ、はい
「Imagine there's no
countries
It
isn't hard to do
Nothing
to kill or die for
And
no religion too
Imagine
all the people living life in peace」
プロジェクターにイマジンの訳文が映される。
それまであまり動かずに座っていた魂1がジョンになり、歩き出して登場する。まるで詩の口から出た言葉(魂)が宿ったように ジョンはでかめのグラサンをかけている。通訳は魂2。通訳の魂。通訳はジョンの英語を日本語に、山田の日本語を同時通訳する。山田の言葉を訳するときはジョンの耳元で英語を囁く。詩はセリフが終わったら自分の椅子の位置へ行って座る
ジョン Hello.My name is John Lennon.
通訳 こんにちは。私の名前はジョン・レノンです。
詩 ジョンレノン!?
山田 イヒャア――本物だスゲー!
詩 いや絶対偽物ですよ 偽レノンですよ!
通訳 He must be
fake. Fake Lennon.
詩 おい!通訳すんな!
山田 こら!失礼やぞ
詩 だって英語へたくそですよこいつ
ジョン I was a rock musician.You know, I am the man who organized the rock band ,The Beatls. hahaha
通訳 私はロックミュージシャンです。ご存じのとおり、私はロックバンド、ビートルズを結成した男です。ははは
山田 初めましてジョン。僕は山田淳也です。お会いできて光栄です。
山田とジョンは握手する そのあと割と強めにジョンに背中をたたかれた後二人で笑う。謎の笑い。
山田 ああ、僕は演劇の脚本を書いているんですが、今日はいくつか聞きたいことがあってあなたをお呼びしました。ヒントをもらいたくて。
ジョン Ok. what?
通訳 オーケーですよ、なんですか?
山田 僕は今ある人たちへ送る最後のメッセージの言葉を考えています。だけど言葉が出てこないんです。だって考えれば考えるほど世界は複雑で、言い切れなくて。だから何かを伝える、という行為がすごく独善的に思えてしまうんです。まるで僕には正しさがわかっているようで。あなたはたくさんの平和へのメッセージを残してきましたが、そういう葛藤はやはりありましたか?
ジョン No I don’t have it. I perfectly believed my message for peace. In the
Foolish Vietnam War, about 300 people were killed everyday. I can affirm that all the people should hold hands each other and rise their voice for love and peace.
Don’t you have your belief? What are you afraid of?
通訳 いいえ。それはありませんでした。僕は完璧に信じていました。自分の平和へのメッセージを。バカげたベトナム戦争では300人ほどの人々が毎日死にました。僕は断言できます。人々は互いに手を取り合わなくてはならない。そして、愛と平和へと声を上げなくてはならない、と。君は信念を持っていないのですか?何を怖がっているんですか?
山田 そうか。確かに僕は断言するのを怖がっているのかもしれません。
ジョン How is the world
now? Has it already became peace?
通訳 世界は今どうですか?もう平和になりましたか?
山田 いいえ残念ながら。平和どころか、分断がひどくなっています。パンデミックで大混乱して、アメリカと中国がもめて、それに、これからウクライナとロシアが戦争を始めそうな感じです。またたくさん血が流れるかもしれません。こんな中で今あなたが生きていたならこの世界にどんな言葉をかけますか?
ジョン I will never
change. I will keep saying ideal theory because I want people to imagine
peaceful world. If everyone imagine such world, reality must change.
So
I will say Imagine! Strongly
imagine! Keep imagining!
通訳 僕はずっと変わらないと思います。僕は理想論を言い続けるでしょう。僕は人々に平和な世界を想像してほしいからです。もしみんながそんな世界を想像したら、現実は変わるに違いないのです。だから僕は言います。想像しろ!強く想像しろ!想像し続けろ!と。
山田 そうですね。僕もそうやって迷いのない言葉を言いたいです。でも自分にそれができるのか不安になります。あなたはスーパースターだけど、僕は何物でもない。自分に才能があるのかもわからない。
ジョン You’re all geniuses and you’re all
beautiful. You don’t need anybody to tell you who you are or what you are. You
are what you are.
通訳 誰でも非凡な才能を持っているし、すべての人が美しい。自分がいったい何者なのか、誰かに指摘してもらう必要のある人間なんて一人もいないんだ。君はそのままで君なのだから。
山田 ありがとうジョン。けどやっぱりまだ時間がかかりそうだよ。
ジョン Jyunya, there is one quick way to say
special phrases. Touch your death.
I
was finally killed shot by my enthusiastic fun. At that time my brain was so clear
and a lot of special phrases come up one after another. they were Really strong
and really kind. That was wonderful experience of my life.
通訳 淳也、一つすぐ特別な言葉を言える方法があるよ。それは死に触れることだ。僕は最期狂ったファンにピストルで撃たれて死んだんだけど、その瞬間僕の頭はさえて最高の言葉が次々浮かんでくるんだ。最高に力強くて最高にやさしい言葉が。あれはすげえ体験だったよ。
山田 そうなんだ。でもそれはちょっと怖いかも。本当に困ったらやってみるよ。
ジョン That’s ok. So,It’s about
time. I must get back. I had a great time.
通訳 そうしなよ。そろそろ時間だね。戻らなきゃ。すごく楽しかったよ。
山田 僕も楽しかったよ。ありがとう。
ジョン Good luck Jyunya! See you
again.
山田 See you again!
ジョンは舞台奥へ去っていく
山田 かっこいいなあ
後輩 ちょっと楽観的すぎるんじゃないですか?
山田 そうかな
後輩 Imagine all
the people living life in peace
プロジェクターに同じ文が映る
山田 でもこの言葉は世界に必要だと思う
後輩 まあそうかもしれないけど
山田 なんかジョンのマネみたいな言葉しか浮かばんくなってきた
後輩 それじゃだめですね
山田 うん。ちょっと自分の言葉で想像してみようかな
じゃあ次は物語です
詩 (紙を見て)向こうから二人の女の子がやってきます。二人は友達です。二人はいつも一緒にこの川沿いの土手道を通って学校から帰るのでした。
プロジェクターに詩が読んだ部分がト書きになっている脚本の画像が映される。
詩の読み上げているところにかぶせるように二人は話しはじめ、詩が話し終わると本格的にシーンが始まる。ゆうかとさなえが歩いてくる。
さなえ いやーはやかったな
ゆうか え、結局何か月?
さなえ あーまってな、4,4やとおもう
ゆうか え、まってそれは短い
さなえ だからそうやって
ゆうか 四は短いな だって季節一個分くらいやん
さなえ そういったんなって
ゆうか いや、エリカの目の前じゃ言わんよ 絶対言わんよ
さなえ 当たり前やろ またすねて無視してくるで
ゆうか いやートラウマ え、田淵君とは何か月やったっけ
さなえ 5か月
ゆうか あーそんなもんか
さなえ なんか、デートの時にひたすらプロテインの話ばっかしてきたんやって
ゆうか プロテイン?
さなえ うん筋肉ラブの人らしい
ゆうか ああそれはいやかもな
さなえ 付き合う前にわからんもんかなそれ あいつも運悪いけど
ゆうか え、で、今回の理由は?
さなえ なんか森本くんが元カノと連絡取ってたみたいなこといってた
ゆうか うわー
さなえ 泣きながら電話してくるからさ 運悪いねあんたは、って言ってさ
ゆうか かわいそうー
さなえ クリスマスって怖いな 焦って付き合うから悲劇がおこる
ゆうか たしかに
さなえ そんな楽しいもんかねえ
ゆうか 、、ちょっとさ、下降りようよ
さなえ え?
ゆうか いや、久々に
さなえ まあいいけど 川はいんの?
ゆうか いやそれは寒いって
さなえ いいよ全然遠慮しやんでも ほらほらどうぞ
さなえはゆうかの背中を押し川に突き落とすふりをする
ゆうか 誰か助けてえー
さなえ 死ねえー
ゆうか ひえー
さなえ いや、そんな悲鳴じゃ誰もこやんやろ
ゆうか え、そう?
二人は笑う
心の声 この土手を降りたところに公園があって、そこにはタイヤの遊具があって
さなえ タイヤジャンプしよタイヤジャンプ
ゆうか ジャンスポな
心の声 私たちはよく遊んだ。
さなえ あーそれどういう意味やったっけ
さなえはジャンプする
ゆうか ジャンプにスポットライトを当てる新スポーツってことで、ジャンスポ
ゆうかもジャンプする
さなえ なにそれあほやな
ゆうか これさなえが命名したんやからな
心の声 何も考えずに遊んだ。あの頃、終わりなんてなかった
夕焼けのサイレンが流れ、二人はタイヤの間をジャンプして往復して笑いあう。小学生に戻ったみたいに。さなえジャンプする
さなえ ほら、ここ来れる?
ゆうか 楽勝 うわ
ゆうかジャンプして、失敗して転ぶ
さなえ ださー
ゆうか うるせー
さなえ はいはい
さなえは手を伸ばす
心の声 さなえは今何を思い出してる?ていうか覚えてる?
ゆうか ありがと
さなえ おう
心の声 ☆さなえ、あのさ
ゆうか ☆さなえ、あのさ
さなえ なに?
心の声 ☆私、もうすぐ遠くへ行かなあかんくて
ゆうか ☆私、(黙り込む) いや、なんかおなか減った
さなえ なにそれ
ちょっと沈黙。サイレンの音が鳴る。隣町の、ミサイル非難の避難訓練のサイレン
ゆうか え、うそ
さなえ 避難訓練やって 今日やるって言ってた
ゆうか そうやっけ
さなえ うん
ゆうか そっか
さなえ 中国ではもう始まってるらしいよ
ゆうか そうなんや
さなえ ここももうすぐ始まるかもな
ゆうか どうなんやろ
さなえ え、どうするミサイル飛んできたら
ゆうか ああ
さなえ やばいよなー逃げやな
ゆうか まあ、ここには飛んでこやんと思うけど
さなえ いや、そんなことないよ 来るよ
ゆうか そうかなあ
さなえ いや、わからんけどさ
ゆうか うん
さなえ 、、、そろそろいこか
ゆうか ああ、うん
さなえ 昨日さ、なんか変な夢見た
詩 「私が一番きれいだったとき」
ゆうか どんな?
さなえ なぜか私が演劇部の部員でさあ
ゆうか え?なんで?
詩 「街々はがらがら崩れていって とんでもないところから 青空なんかが見えたりした」
さなえ いやしらんけど、で、ステージたって、すっごいたくさんの人の前で泣きながら演技してんの
ゆうか すご 女優になってるし
詩 「わたしが一番きれいだったとき わたしの頭はからっぽで わたしの心はかたくなで」
さなえ そうそうそれで拍手浴びてめちゃめちゃ気持ちいいっていう夢
ゆうか いいなそれ
さなえ 演劇部はいっときゃよかったっすかねえ
ゆうか いまさらかよ
詩 「私が一番きれいだったとき 私が一番きれいだったとき」
さなえ じゃ、ばいばい
心の声 ☆あ、まだ
ゆうか ☆あ、 うんばいばい
さなえは自分の家の方向へ。優香は早苗の背中を見ている。
心の声 なんで?
ゆうか 、、、
心の声 昨日あれだけ覚悟決めてたのに。今日こそは言うって。そうじゃなきゃ裏切ることになるって、わかってるでしょ?もう時間がないこと。あさってには、もう
ゆうか わかってる
心の声 戦争が来る。大きい地震でいっぱい人が死んだ。またいつ何が起きるかわからない。私は、逃げたい。私は、助かりたい。みんなのろまなんだよ。
ゆうか そういうこと言うな
心の声 言ってるのはあなただよ わたしは奥底にいるあなただから
ゆうか しってる
心の声 私ともっと向き合えばいいのに みんな私のいない骨だけの言葉を使うよね おめでとうとか、好きとか ありがとうとか 私はそこにいないのに
ゆうか うん それじゃだめだ
心の声 大丈夫。ちゃんと言えるよ
ゆうか うん
心の声 早くしやな
ゆうか うん
山田 二人はなぜ離れ離れになるのだろう
詩 「私が一番きれいだったとき(プロジェクターも)」
山田 別れはいつでもどうしようもない
詩 「私の頭は空っぽで 私の心はかたくなで(プロジェクターも)」
山田 やっぱり僕はレノンになれない。どうしても悪い未来を想像してしまう。
ジョン How is the world
now? Has it already became peace?(プロジェクターも)
山田 今は本当に何が起こるかわからない。だから
詩 「私はめっぽうさびしかった(プロジェクターも)」
山田 だからこれが最後になる、かもしれない。だから僕は別れの言葉を大切にしたい。
詩 ちょっと心配しすぎですよ
山田 そうかな
詩 まあでも確かに、中途半端にお別れたしたくないですよね
山田 お、ちょっとわかってくれた?
詩 うーん、でも、率直な疑問なんですけど
山田 なに?
詩 いや、二年の先輩とは2年間で、私たちは1年だけじゃないですか、一緒にいたのは。何でそんなにこだわるんですか?
山田 それはさ、長さじゃないと思う。短くても濃い時間を過ごして、出会って別れるまでは一瞬やけど、一瞬やから意味があるって思うよ。お客さんとの出会いもそうやと思う。
残酷 虚しい
詩 え?
残酷 虚しい。お前お前に意味はない。お前のこと、ばにも意味はない。お前の心にも意味はな、ない。意味、は存在しない。
(人間存在を離れた動きをしながら)
山田 またお前か
詩 なんですかこの変な人
山田 うーんよくわからんけど、虚無感みたいな。(動きが縛られていく)
残酷 あと100年もしたらここにいる全員生きていないんだから。ここには跡形もないんだから。
山田 、、、
残酷 その短い一生のうちに大勢の人々がお前の横を通りすがっていく。お前たちは通りすがりの関係でしかない その虚しさに耐えられないお前は一つ一つの別れに意味があると勝手に思いたいだけだ じゃあな(去っていく
詩 あ、どっか行った
山田 助かった
詩 大丈夫ですか?てかあれなんなんですか
山田 なんか、脚本書いてると周期的に邪魔してきて、
詩 なんかキングボンビー的な?
山田 かなあ? よしもう大丈夫、続けよう
詩 ああ、はい
山田 次は二つの魂の対談です
魂1,2は丸椅子に腰かける
魂1 こんにちは
魂2 こんにちは
魂1 え、あこれは
山田 あ、対談をしていただければ
魂1 対談ですか?
山田 ええ
魂1 いや、私全然普通のあれですよ、魂ですよ
山田 まあまあそういわずに
魂2 まあいいんじゃないですかねとりあえずやっちゃえば
魂1 え、そんなもんですかね
山田 では
魂2 それにしてもあれですね、広いとこですねここ
魂1 ああ、なんか市民ホール的な
魂2 みたいですね
魂1 わあー生きてる人がいっぱい(客にお辞儀)
魂2 、、あ、はじめまして
魂1 こちらこそ初めましてよろしくお願いします
魂2 えっと、どちらからこられたんですか?
魂1 天国か地獄かみたいな話ですか?
魂2 あ、そうそう
魂1 あ、一応私は天国で、やらせてもらってます はい
魂2 そうなんですね、ええーいいなあ
魂1 ということは?
魂2 そうですねー私は地獄ですね
魂1 やっぱりそうなんだ、え、私初めて会いました地獄のほうの方
魂2 見た目全然変わんないでしょ
魂1 ほんとですね。
魂2 あの、天国ってどんな感じですか?
魂1 ああ、えっとね、なんか巨大な洋式トイレみたいな建物があって、そこに皆暮らしてますよ。たまにウォシュレット的なものが作動して、それが噴水みたいになってます。
魂2 あ、なんか、想像と違いました
魂1 ええ私も最初戸惑いました
魂2 ああ すいませんなんか 聞いといて
魂1 いえいえいいですよ そちらはどんな感じですか?
魂2 うーん、ずっと駅のホームみたいなとこにいるんですよ。で、電車乗らされて着いた先のホームで色々されますね
魂1 いろいろ?
魂2 なんか画鋲の上あるかされたり
魂1 わー痛そう
魂2 痛いですよー
微妙な笑い
魂1 あちなみに私は自殺した魂なんですよ
魂2 あれ自殺って殺人カウントにならないんですか?
魂1 なんか、ギリノーカンらしいです
魂2 ああ
魂1 なんかあの判定曖昧ですよね 天国か地獄かのやつ
魂2 まさか面接形式とは思いませんでしたよね
魂1 なんか就活みたいですよね
微妙な笑い
魂1 対談って何したらいいんでしょうね
魂2 なんか、慣れないですねこういうの
魂1 ですね まあとりあえず自分のこと話していく、ってかんじでやってみますか?私先やるんで
魂2 あ、じゃあお願いします
残酷が出てきて魂1の後ろのちょっと離れたとこに立つ。立ち続ける。会話の内容を聞きつつ少しづつ体を反応させる。
魂1 はい。あのーですね、私死ぬ前に、っていうか私は結局電車飛びこんだんですけど、めちゃくちゃ痛くて。その死ぬ前は死ぬのが怖かったんですよやっぱり
魂2 そりゃそうですよ
魂1 安楽死がよかったんですよ 安楽死ってホントに楽に死ねるらしくて、
魂2 そうなんだ
魂1 そうそう それで、でも日本って安楽死ダメじゃないですか だから何でダメなんだっていうのいうのを抗議する、みたいな活動をしてて、あ、そういう団体があるんですけどそこに入って活動してたんですよね
魂2 ああ、
プロジェクターにツイッター上の自殺をほのめかす投稿や反出生主義的な言葉が移る。魂1立ち上がる。残酷徐々に距離を詰める。二人の像は重なり始めて
魂1 え、だっておかしいと思いませんか?おかしいですよね。何で死ぬことが全面禁止なんですかねって思うんです私。生きることに希望を見出せなくてもう死にたいって言ってる人が大勢いるわけですよ実際。生きることイコール正しいみたいに思い込んでるんですよ皆 そう思うことありませんか?
魂2 ああ、あんまりないと思います
魂1 そうなんですね。まあ世界にそういう人しかいないとしたら安楽死も何もいらないと思うんですけどね。でも生きるのが苦しいんだって本人たちが言ってるんですよ。そうやって苦しんでる人たちに対して「生きてればいいことあるよ」とか「生きてほしい」とかなーに言ってんだって思うわけですよ。だいたいそれあなたのエゴですよねって話ですよ。そういう言葉ではもう救われない人のほうが多いですよ実際。
魂2 ああ、そうかもしれないですね
魂1 大体言葉なんかで救われるくらいならとっくに人生バラ色って話ですよ。そういう詩とかあるじゃないですかなんか
詩 「私は無駄にこの世に生まれてきたのではない また人間として生まれてきたからには無駄にこの世を過ごしたくない」 相田みつを
魂1 ほらこういうのあるでしょ でもこういうの言ってる人ってすごい成功してだいたい勝ち組ですよね 有名じゃないですか。だから、残りますよね。
私みたいな人が言った言葉なんてどうせすぐ消え去って、キラキラした言葉だけ残ってくんですよ。 私なんかそれが許せなくって
魂2 そうですか
魂1 それでまあ、もう死んでやろうと思って夜の駅にいってホームで電車来るの待ってたんです。そしたらいつの間にか隣に誰かいて、
残酷 死ぬ?
魂1 はい
残酷 みんな死ぬ。あなたは10秒後。あなたたちは平等だ。
魂1 止めないんですか?
残酷 止めない。あなたが生きるか死ぬかは、どっちでもいい
魂1 そっかあ
残酷 さようなら
魂1 さようなら ありがとう
10秒後、魂1はゆっくり足を前に踏み出す
魂1 誰なのかわからないんですけど、その言葉はすごく優しく感じて、だったら死のうって思えて、そんな最後でした。
魂2 そうなんですね。
魂1 ごめんなさい一気にしゃべっちゃった
魂2 いえいえ
魂1 あの今度はあなたのことを聞かせていただいていいですか
魂2 いいですよ
魂1 なになさったんですか?生前
魂2 あ、殺人です
魂1 、、、
魂2 ああいや、そんな怖がらなくてもいいですよ全然
魂1 いや、怖がってないですよ
魂2 そうですか?
魂1 ええ全然
魂2 ならよかったです
魂1 はは、
魂2 大好きな人だったんです
残酷が魂2の後ろに立ち、肩に触れる。二人はコンタクトを取り始める。
魂1 は?
魂2 死んでほしいくらい好きだったんですよ
魂1 ああ
阿部定の自供文章などがプロジェクターに映される。残酷は寝そべる。
魂2 あの人と交わした最後の言葉は今でもはっきり覚えていて。その日私たちは戯れにお互いの首を絞めあったりしたんです。息が詰まるくらいまで強く抱きしめあったり。そのとき彼はこういったんです。
残酷 今なら死んでもいい お前の好きにしておくれ
魂2 その言葉を聞いた時に私は言葉が出ないくらいの幸せな心持に襲われて、「好きよ」といいました。いつの間にか朝になっていて、私は動かなくなった彼の体に寄り添い、窓からさす日の光を浴びました。その瞬間、私はこの世の何よりも美しかった 私は美しい瞬きをして 美しい深呼吸をしました
魂1 はあ
魂2 この感じをあじわいたくて何度か別の人で同じことをしたんですけどこの一回きりでした。この感覚は。
魂1 なるほど
魂2 こういうことをしたから生きている間私はひどい言われようでした。変態性欲者とか、色欲狂いとか、でも私は自分がしたことのほうが世間で言われる正常な恋愛より自然に思えて
魂1 そうなのかもしれませんね
魂2 ええ。私たちは動物ですから。
大量の犬の鳴き声が聞こえてくる やがて音は去っていく。
魂2 なんだろう?犬?
魂1 ええ。天国へ行く途中なんです
魂2 天国には犬も来るんですか?
魂1 たいていの動物が来ますよ。一日に何回もああやってまとまってくるんです。
魂2 死んでも群れ行動なんですねえ
魂1 いや、というよりは、たぶん
魂2 はい?
魂1 まとめて殺しますから こういうのは
魂2 ああ
次は大量の猫の声 次は大量の牛の声 鶏の声 豚の声 しばらくの間ふたりで声を聴いている
魂1 毎日これですよ
魂2 なんか動物園みたいですね
魂1 私たちもその中の一匹ですか?
魂2 ええ そうですそうです
二人は少し笑う 乾いた笑い。
魂1 でも、こういうものを見てるとますます思うんですよ私 生まれてくることのかなしさ、のような、、
魂2 ああ
魂1 そう思いませんか?
魂2 私はけっこう楽しかったですよ
魂1 そうですか
魂2 生きるか死ぬか、ねえ
山田 生きるか死ぬかはどっちでもいい。そんなことない。命は平等に重い、と先生は言ってました。僕が小学生のころの話をします。昼休み僕は友達と校庭で遊んでいました。たしかうんていで遊んでいたんだと思います。すぐそばに大きな木があって、その下に一匹の毛虫が歩いてて、僕はその毛虫をじっと見つめていました。全身をうねらせながら、砂漠みたいに広い運動場を彼が歩いていく姿を、僕は見詰めていました。必死で生きる姿を。そこへ突然低学年の男の子が走ってきて、「なにみてるの?」といいました。
残酷 何見てるの?
山田 毛虫
残酷 ふーん
心の声は突如毛虫を思い切り踏み潰す
山田 え?
残酷 きもちわるい
山田 次の日の朝、ニュースでは、どっかの障害者施設で入所者が19人殺されたって報道がされてて、その犯人は寝てる人たちの首を包丁で次々さして、1時間で45人刺して19人死んだ。首を刺せば人は簡単に死ぬらしい。初めて知った。毛虫を踏み潰すみたいに、人は人を殺せる。気持ち悪いってだけで、何でも殺せる。先生が言ったことは間違いでした。☆命は平等に軽い
残酷 ☆命は平等に軽い
詩 またでた
残酷 自由はそこに落ちている。人権も法律も不完全な人工物。それに気が付いた人間たちは本来のように殺すまで執着し、殺すまで憎しみ、自らを殺す。どうせすぐ戦争がはじまってまた殺しまくる。狂っていると思うか?善良なあなたたち。無害なあなたたち。なぜあなたは人権を守る?なぜあなたたちは黙って座っている?演劇にそんなルールはないのに。
山田 生きるか死ぬかは、、、
心の声 そいつにのまれないで
山田 え、?
残酷 お前はこころか
心の声 あなたはいつも私と対話をしながら脚本を書いてきたでしょう 心の奥底と向き合ってください
山田 そう そうだ いつもそうだった
詩 え、あんたはゆうかちゃんの心じゃないの?
山田 いや、あの子は俺が想像した人なんで もともとは俺の
詩 そういうことか
心の声 さあ腹を割って話しましょう
山田 そうしよう じゃあ質問しようか
心の声 はい
山田 君は、俺は死ぬのが怖い?
心の声 、、うーん 怖い、と思う。
山田 何につまづいてる?死ぬことへの恐怖?
心の声 いや、そうじゃない。多分、自分が死ぬってことを想像できないこと 自分が安全なこと、それにつまづいてるんだと思う
山田 うーんそうかもな。俺はいつも健康で、俺はいつも安全で、でも俺の脚本の中の人たちは人を殺しかねなかったり、自殺するかもしれない人で なのに俺はいつも安全なところにいた
心の声 そう!それが嫌だった。自分が健康で、安全で、幸せなことが嫌だった。
残酷 それを考えてどうなる?
山田 それをもっと考えてみよう
残酷 無意味だ。
心の声 そうしよう
山田 そもそもなんでそんな過酷な境遇の人たちを主人公にしたんだっけ?
心の声 そういう人が演劇部には結構いて、そういう人たちにちゃんと言葉を届けたくて 大丈夫だぞ!って
山田 それはでも、余計なお世話になるかもしれない
心の声 それはずっと考えてた
山田 でもやったのはなんで?
心の声 脚本を書くときに自分の精神を追い詰めて、自分の見たくない部分をみて、つらくなる。でもそのときつらい人たちの気持ちとつながれる、気がして、いちばんやさしい言葉が言えるから。気がするだけなんだけど。
山田 自分を追い込むほどいい作品が作れる?
心の声 他にも方法はあると思うけど、今はこれしかなくて
山田 そうかあ。でもそういうことするから俺の作品はだいたい暗いし重いな
心の声 そう。そしてメッセージがなくて わかりづらい
残酷 宇宙すら世界のすべてではない 宇宙には外側があり、その外側にも外側がある お前の自己内対話は誰のために?何のために?自分には価値があると思っている?かわいそう 涙がでる 出ない
詩 はいはいちょっと黙ってて
山田 そんな個人的なことに人を巻き込んでいいんかな 俺の言葉しか話すことを許されずに、ましてや俺自身を演じさせるってやっぱりちょっと暴力的な気がする
心の声 確かに。だけどそうしないと伝えられないことがある、気がするから
山田 そこまでする俺の作品に価値はある?誰かを助けることができる?
心の声 あってほしい としか
詩 、、、めんどくさい性格ですね
山田 よく言われます。でも考える価値はあると思うから
残酷 また価値を捏造する 自分が世界の中心だと思っている 世界に中心なんてないのに。フラクタル世界はお前の言葉も心もなくても存在してしまうのに
詩 お前のセリフいちいち小難しい!
山田 ええー ということなので、実際に僕の作品を見た部員の保護者の一人に感想を聞いてその価値を判断して行きましょう。
インタビュー1流れる。プロジェクターに質問が映る。山田は質問を読み上げ。
「三重高校の演劇 山田淳也作『ゆらゆら。』はご覧になりましたか?」
「率直な感想をお願いします。」
インタビュー音声が流れる
山田 おお褒めてもらってる
詩 えーでもお世辞入ってるんじゃないですかあ?
山田 そうかなやっぱり
心の声 それはあるでしょ
山田 うーん もうちょいぶっちゃけた話きいちゃうか
「娘さんが演劇部を続けることをどう思っていますか?」
音声が流れる。
詩 うれしそうですね
山田 嬉しいよ 初めて後輩が入った時からずっとこれを目標にしてきたから
詩 これって?
山田 演劇やってよかったって思ってもらうこと
詩 ああ、
山田 ずっと薄暗い狭いトンネルを歩き続けるような人生なんですけど、たまにこうやって嬉しいことがあって明かりになってくれて。だから僕は想像し続けることができるんだと思います。また、懲りずに想像を続けます。大切な人に別れの言葉を伝えるお話、続きです。
音声が終わり、さなえとゆうかが歩いてくる
さなえ 昨日のことやって。ちょうど私らが帰ってる時くらいのことなんやって
ゆうか え、それは謝ってきたってこと?むこうから?
さなえ そうめちゃくちゃなっがい長文送ってきたんやって 三スライドぶんくらいの こう、このくらい
ゆうか 反省したんやなー
さなえ 要約すると、告白されることが多くて調子に乗ってた 向こうのラインは消した もう連絡取らないしこういうこともしないから許してほしい って感じやってさ
ゆうか なんかモテる人の気持ちってわからんわ
さなえ 調子乗るんやって顔がいいから
ゆうか そうなんや
さなえ ってか最後まで聞いて
ゆうか なになに
さなえ いや、そんで結局より戻したんやって
ゆうか えええ
さなえ ってなるよな
ゆうか だってあんなにきっぱり言ってたのに 絶対別れるって
さなえ これが女心だ
ゆうか はあー
さなえ まあでもすっごいちゃんとした文章でびっくりしたんやってさ
ゆうか 謝罪文?
さなえ そうそ。この言葉は信用できると思ったってさ
ゆうか そうなんや
さなえ なんか嫌な臭いしたけどな私は
ゆうか ああ
さなえ まあわざわざ言わんだけど そんなことは
ゆうか っていうか言葉って信用できるもんかな
さなえ え?どういうこと?
ゆうか あ、いや、そんな深い意味ないけど
さなえ あ、そう
ゆうか うん
さなえ あんたたまに哲学的になるよな
ゆうか え、そう?
さなえ すっごい難しいこと言うときあるよ
ゆうか あーなんかごめん
さなえ いや別にいいんやけど
ゆうか いや、でもなんか恥ずかしいわ
さなえ なにが?
ゆうか 別にそんなにちゃんと考えてるわけでもないのにさ そういうこと言って
さなえ いやゆうかはちゃんと考えてる方やと思うけど
ゆうか そんなことないよ
さなえ いやいや
ゆうか いやほんとに
微妙な空気 さなえが鼻歌歌いだす
さなえ あーなんかカラオケ行きたくなってきた
ゆうか ああ、カラオケ
さなえ ゆうか好きじゃないもんな
ゆうか まあ嫌いではないんやけど 閉鎖空間がちょっと
さなえ そうなんや 私は楽しいんやけどな
ゆうか 歌うのは楽しいよ
さなえ そうやなあ、、、☆「ねえ、大好きな君へ」笑わないで聞いてくれ
詩 ☆「ねえ、大好きな君へ」笑わないで聞いてくれ
ゆうか あ、愛唄
さなえ せいかーい
さなえと詩 「ねえ、大好きな君へ」笑わないで聞いてくれ
「愛してる」だなんてクサいけどね
だけど この言葉以外 伝える事が出来ない
ほらね!またバカにして笑ったよね
君の選んだ人生(ミチ)は僕(ココ)で良かったのか?
なんて 分からないけど…
ただ 泣いて 笑って 過ごす日々に
隣に立って 居れることで
僕が生きる 意味になって
君に捧ぐ この愛の唄
途中からゆうかも歌に入る 三人で歌う夢のような時間が流れる。詩は僕たちの日常に入り込んで、いつも何かをくれている。心の声は静かにそれを聞いている。さなえが笑いだす
ゆうか なに?こわいこわい
さなえ ああ、ごめん ちょっと思い出して
ゆうか なになに
さなえ いや、りこっちとえりかと三人でカラオケ行った時にさ、あ、そんときエリカ失恋中やったんやけど、私とりこっちがこの曲を無神経にも歌いまくるから エリカが怒っちゃってさ
ゆうか かわいそうに
さなえ あれは悪いことしたな
ゆうか わー反省してなさそう
さなえ 失礼やなしてるわ
ゆうか ほんとかな
さなえ ほんとほんと じゃあなー
ゆうか あ、ちょっと
さなえ うん?
ゆうか 、、、えっと
ゆうかは手を伸ばしたり小さい声で何かつぶやいたりしてさなえを引きとめながら立っている。さなえは待つ 心の声見ている
さなえ なに?
ゆうか えーーーーーーーーーーと
さなえ ん?
ゆうか かい
さなえ かい?
ゆうか くっ、くっ、くっ えっとお あー はい(かい、といいたいが途中で息を止めてしまう)、
さなえ どうした?
ゆうか 、、、海外行くわ
さなえ そっか
ゆうか 私
さなえ うん
ゆうか 日本、でるわ
さなえ うん そっか
ゆうか うん
さなえ あ、そういうこと?
ゆうか うん
さなえ そっか
ゆうか 、、、なんか もっと怒るかと思った
さなえ え、なんで?
ゆうか いや、わからん
さなえ はあ?(笑)
ゆうか うーごめん(笑)
さなえ なんやそれ(笑)
ゆうか わからん(笑)
さなえ いやー知ってたけどな
ゆうか え?
さなえ うん
ゆうか え、え?
さなえ 知ってたよって
ゆうか 、、、なんで?
さなえ うんまあ、テレパシー
ゆうか 、、は?
さなえ いや、だから テレパシー
ゆうか いや、そうじゃなくて
さなえ なによ テレパシーつかえやんのかお前は
ゆうか さなえ
さなえ おらおら!テレパシー
ゆうか なあ
さなえ テレパシー攻撃!
ゆうか なあって
さなえ 攻撃!ゆうかは撃沈!
ゆうか さなえ
さなえ テレパシー恐るべし
ゆうか さなえ
さなえ なんだ顔が怖いぞー
ゆうか さなえ!
ゆうかはさなえの腕を強くつかむ さなえは強く払いのける 沈黙
さなえ なに?
ゆうか 、、、なんで、ふざけんの?
さなえ 、、、
ゆうか 、、、なんで?
さなえ 、、、もうなんも言わんのかと思った
ゆうか 、、、それは☆ないって
さなえ ☆何で今までいってくれやんだん?
ゆうか ごめん
さなえ もう時間ないのに
ゆうか うん
さなえ そっちの方がいややった
心の声 、、、簡単に言うよな
ゆうか 簡単にいうよな
さなえ え?
心の声 あのさ、 ☆そんな簡単なことじゃないから
ゆうか ☆そんな簡単なことじゃないから
さなえ 、、、なにそれ
ゆうか 、、
さなえ まあ、いいやん別に一生の別れでもないし
ゆうか 、、、まあ
さなえ ここはどうなるかわからんけどさ
ゆうか 、、、うん
さなえ 、、あーもうごめんごめん
ゆうか いや、大丈夫
心の声 うそつけ
さなえ ほんと?
ゆうか うん
さなえ じゃあな
ゆうか まって
さなえ 何?
ゆうか 、、、(言葉を探す)
心の声 早く 早く なにか言葉 特別な
さなえ いいよーもうそういうの
ゆうか いや、うん、、、
さなえ 無理すんなよ
心の声 無理してない
ゆうか 、、、 元気で、
心の声 これだけ?
さなえ うん
ゆうか ありがとう
心の声 これじゃない 本当にいいたいのは
さなえ うん
ゆうか ばいばい
心の声 ちがう これで終わり?
さなえ ばいばい
沈黙ののち、ゆっくりさなえは踵を返し、歩き出す。
心の声 何でうそつくの?
ゆうか 、、、
心の声 なんで私の声を聴かんの?
ゆうか うるさい
心の声 私のことちゃんと見ようとしてない
ゆうか バカじゃないの あんたが余計なこと言うから ダメになった
心の声 ちがう!あれでいいよ けんかになってもいいよ ほんとのこと言い合えばいいんだよ
ゆうか 無理 無理 無理
心の声 もっとちゃんと私を見てよ 自分が今何を感じてるかすらわかってない 自分の心すらわかってあげようとしない だから何も言えないんだよ
7 ことばをめぐって
心の声はゆうかにすこし寄りかかるってはなれる。ゆうかは走り出す。
詩 「翼はあるのに 飛べずにいるんだ ひとりになるのが 恐くて つらくて
優しいひだまりに 肩寄せる日々を越えて 僕ら 孤独な夢へと歩く
サヨナラは悲しい言葉じゃない それぞれの夢へと僕らを繋ぐ YELL
ともに過した日々を胸に抱いて 飛び立つよ 独りで 未来(つぎ)の 空へ」
心の声は詩のもっている紙を奪い、びりびりと破き始める。他の紙も破き始める。詩は一瞬あっけにとられたがやめさせようとして、二人はもみあいのようになる。
詩 やめて!
心の声 わかったような口きくな
詩 、、、
心の声 、、
詩 なんなの?
心の声 心はあの子のものなんだよ 苦しいのも悲しいのも全部あの子だけのものなんだよ 他人の言葉で慰められていいわけない
詩 でも、
心の声 、、、
詩 でも寄り添うことはできるから
心の声 、、、
詩 それが役割だから
心の声 、、、役割
残酷 こころ こころ こころ
心の声 なに
残酷 お前は振動する 振動するお前は人間にとって激しすぎる あの子を苦しめているのはお前お前でしかない
心の声 ちがう!、、、ちがう
残酷 違わないよ。
心の声 じゃあ人間に心がなければいいのか
残酷 根本的にずれているな。いいか。すべてのものはあってもなくてもどっちでもいい 人も、心も、言葉も あってもなくてもどっちでもいい 全てはどうでもいい
心の声は残酷によってゆっくり横たわらされる
詩 違う。心は言葉じゃ受け止めきれないほど激しいけど、でもだから喜びもあって、私はそこに寄り添うことができるからわかる。私たちには意味がある。言葉は心に寄り添って、それで時間も場所も超えて書いた人の魂を伝えてくれる。そこには意味がある。
残酷 じゃあお前は、そのセリフを書いた山田という人間のことを完璧に理解できるか?
詩 、、、
残酷 人間は世界の中心じゃない それに気づいた人間が生きることの虚しさに耐えられずお前たちに意味を求めただけだ
残酷はゆっくり詩に近づく 詩も飲み込まれていく
残酷 ことば お前はもっと虚しい 不完全で軽薄で、この無限に広がる世界も、自分の心でさえ正確に表すことができなくて、ただあふれかえっている。別れの言葉も増えすぎた。言葉 ことば お前は安すぎる。
ゆうか あなたは誰ですか?
残酷 お前はだれかの夢だ。お前が現実だと思っているここは舞台の上だ。二人の絆ももどかしい気持ちもエモーショナルな別れもすべては人工物だ。虚しいな。
ゆうか わたしが?
山田 もういいよ
二人は黙って山田を見る
山田 そろそろ答えを出すから すいません 僕はいつも頭の中で迷子になっています。いつか迷わなくなるのかな。大人に聞いてみたくなってインタビューをしたんです。
詩と心の声ははける。インタビュー2 プロジェクターに質問 山田は質問読み上げる。
「一番印象に残っている別れの言葉は何ですか」
「そんなにきれいにはいきませんか」
山田 そうですか。でも僕はできると思うんですよ。なぜならこれはドラマだから。これは演劇だから。だからもう少し、迷子の頭で言葉を探します。きっと僕が後輩たちに期待してしまっていることもこういうことなんです。ちゃんと迷子になって、ちゃんと言葉を捜すこと。
音声1流れる。山田は歩いていく。舞台上を円を描いて歩く。途中から走る
魂1 なぜ、自殺してはいけないのですか?生きることは正義ですか?
山田 だって人生はいいときもあれば悪いときもあって、だからたぶんずっと悪いなんてことはないから、それで今すぐ死ぬっていうのはもったいない、から。多分。いや、よくわからんけどとりあえず死んでほしくないなーって。生きろ―って言っても虚しいかな これ俺のエゴかな。
残酷が山田の腕を引き音声1止まる。山田止まってから逆方向に走る。巻き戻し。山田が止まったら次の音声2へ。山田走る。
魂2 なぜ、人を殺してはいけないのですか?こんなに殺しながら生きているのに。
山田 人は、同じ種属同士やから、でもほんとは他の動物も殺されるべきじゃないけど、人間同士ってほら、しゃべれるし、動物より優先されなきゃあかんから、で、その人の人生とかあるわけで、それは奪われていいはずないし、やから 動物はさ、動物はある程度はしかたないよ
残酷が山田の腕を引き音声2止まる。山田止まってから逆方向に走る。巻き戻し。山田が止まったら次の音声3へ。山田走る。段々テンポアップしていく。だんだん残酷の引き止め方は乱暴になっていく。
詩 言葉に意味はありますか
山田 あるよ。確かに空っぽの言葉ばっかかもしれやんけど。どっかで助けてくれてるんやと思う。いや、どうなんやろう。こっちが勝手に助かってんのかな。言葉の中身なんて、もうないんかな。でもひとつわかるのは、自分の心を言葉にすんのは滅茶苦茶難しいよ。正直に書くほど虚しくなるよ。
残酷が山田の腕を引き音声3止める。山田止まってから逆方向に走る。巻き戻し。山田が止まったら次の音声4へ。
心の声 何で心はこんなに人を苦しめるんですか?
山田 それは、心がずっと独りぼっちだから。誰かの心と一つになりたくて、なれたかもって思えても、すぐ別れが来て、私達はそんなことをずっと繰り返してる。ありのままの心で愛されたくて、むき出しの心で愛したくて、でも無理やから苦しくて、それをどうにかする方法を全然知らんくて
残酷が山田の腕を引き音声4止まる。山田は逆方向へ走る。止まる。息が切れている。無音のまま走る。
ゆうか この別れに意味はありますか?
山田 あるよ。私たちが生きてきた時間とあなたが生きてきた時間が重なり合って、それはいいことばっかじゃないけど、輝いて見える。でもそんな時間はすぐに終わって、通りすがりの誰かになってく。私たちもあと2年したら他人になっていく。100年もしたらみんな死ぬ。でもこの脚本はずっと残るから。そのために別れの言葉を。
残酷は山田の腕を引っ張る。
さなえ 未来は明るいですか?
山田 わからん。多分そんなにあかるくない。でも誰かのせいにして文句言ってるのが嫌で、なんかやるしかないなって思う。ジョンレノンは明るい未来を想像しろって、言い続けた。でも私は言えない。勇気がないから。
山田とジョンを残しはける。山田は無言で走り続ける。どこかで倒れる。
山田 勇気がないから
ジョン What are you
afraid of?
山田 あの子は遠くて、もう私にはわからない でもわかりたい
ジョン touch your death,
山田 私はいつも健康です
ジョン touch your death
山田 私はいつも安全です だから、私は、死に触れる すこしでもわかるために
ジョンがイスを持ってきて舞台中央に置いてはける(これからのシーンはある程度本気で体張る必要あり。でもほんとにケガしないで。)プロジェクターに文字映る。
山田椅子に登っては飛び降りて体を地面に打ち付けるのを繰り返しながらセリフを言う。
山田 私にはある友達がいて、その子はだれも想像できないくらいつらい目に合っていて クリスマスの日その子にはまた「いろんなこと」が起きました。
自主公演の日でした。私はそのまま舞台にたちました。何も知らずに。
別にクリスマスの日に限ったことじゃなかった。
いつもいつも私が幸せな時間を過ごしている間に友達は苦しんでいました。
私はこれまでも助けたいと思っていたはずで、でもどんどん世界が離れていって自分が何を思っているのかすら分からなくなって、
なあ、私は逃げてるだけなんかな。今起きている現実から。わからんくって。自分が本当にあなたのためを思って考えているのかも。全部、言い訳かな。
その後無音のまま3回ほど同じことを繰り返す。一回目より二回目といった感じで段々スピードアップしていく。終わったら床に寝そべって待つ
インタビュー音声が流れる。質問の内容は文字として映る。山田は倒れながら質問を読み上げる
「明日私が必ず死ぬという状況を想像してください。」
「そのときどんな言葉をかけますか」
音声流れおわる。
「私はどうですか?もし明日あの子が死ぬとしたら」
「本当に?」
「それでも、それでもことばを伝えるとしたら?」
音声おわる
小林 お別れの言葉を言います。
皆は舞台上に出てくる。
小林 すべてのことはどうでもいい。
あってもなくてもどっちでもいい。
生きるか死ぬかはどっちでもいい。
だから、だからこそ生きていける この無責任な世界を
迷ったら自分の心と真剣に向き合って、何となくの答えで安心しないで
大切な誰かの心にとって一番優しい言葉を言えるように
そうやって懲りずに生きていこう
今までありがとう さようなら
先輩、みてますか?言いましたよ、別れの言葉。これで本当に終わりですね
スピーチが終わると山田(本人)が舞台上に上がってくる。他のみんなも舞台上へ。
山田 おひさしぶりです
ここで後輩たちと山田で言葉が交わされる。山田が言いたいこと→後輩が言いたいこと→山田からの質問の順。内容は互いに用意しておくが、本番まで互いに内緒にしておく。5分以内
小林ととさなえ以外はける。
小林 じゃあ最後にひとつ、演劇部らしく劇をやって終わります。それではどうぞ
さなえが歩いているところへゆうかが走ってくる。小林はける。
ゆうか さなえ!
さなえ わっ、え、ゆうか?
ゆうか うん
さなえ なに、はしってきたん?
ゆうか うん
さなえ 、、、なに?
ゆうか 、、、元気で
さなえ うん
ゆうか さなえ、
優香は確信をもってその言葉を言う
ゆうか ありがとうな
さなえ うん こっちこそ ありがとうな
ゆうか ごめんこんな普通の言葉で
さなえ いや、いいよ。多分それが一番いいよ。
ゆうか うん そう思った
さなえ また会おな
ゆうか 絶対やで
さなえ うん
二人は少し笑って、少しふれ合って
さなえ ばいばい
ゆうか ばいばい!
二人はバイバイと呼びかけ続ける。照明だんだん暗くしていき、音楽もそれと同じで落としていく。
完全に暗くなったら全員ステージ上に出てきてカーテンコール。
幕
引用・参考など
1 井伏鱒二「于武陵 勧酒 の和訳」http://ogikubo-bunshi.a.la9.jp/toku-kanshu.htmlより
2 ジョン・レノン「Imagine」Google search より https://www.google.com/search?q= 以下略
3 茨木のり子「私が一番きれいだったとき」声「非戦」を読むHP
http://www.haizara.net/~shimirin/on/akiko_03/poem_hyo.php?p=27 より
4 相田みつを「わたしは無駄にこの世に生まれてきたのではない…」先人の知恵に学ぼう!驚くほど役に立つ「名言集HP https://maxim.no1wizard.com/240 より
5 阿部定「第一訊問より」:昭和ガイドHP https://showa-g.org/wremarks/view/1128より
6 水野良樹(いきものがかり)「YELL」:歌詞https://lyricjp.com/ats/a04c814/l019beehより
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