モノクロふぁみりー

 

                          作 三重野鶯介

 

深田忠志 33歳 普通のサラリーマン。

 

 

 深田純子 33歳 専業主婦。

 

 

 深田明里 5歳 2歳の時に両親を交通事故で亡くし、父親の弟である深田家 

         養子としてやってくる。

 

 

 香織 15歳 大家の家に居候としてやってくる。

 

 

 大家   33歳 深田家が住んでいるマンションの大家。忠志の親友。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                     2

 

 

 

       緞帳前。                       

       舞台下手から深田明里が絵本を持ちながら登場。

       そして、読み始める。

 

 明里 むかーしむかし、ある村に白ヤギさんと黒ヤギさんがいました。

    二匹は白黒のおうちで一緒に住んでいました。

    しかし、白いおうちや黒いおうちがある中で、白黒のおうちは一つだけ・・・

    そのことを黒ヤギさんは気にしていたのでした。

    体の色はちがっても2匹は仲良く暮らしていました。

 

 

       明里、読み終わると、はける。

       幕が開く。舞台は深田家のリビング。

       時代は2002年。中央にはソファ。テーブルにはお菓子がある。

子供の使うような物などが棚に置いてある。

       純子、お茶を準備している。

       忠志、ソファでくつろいでいる。

 

忠志 はぁ。

純子 どうしたの?

忠志 いや、ちょっと会社で失敗しちゃって。

純子 えっ?

忠志 あ、別に大した問題じゃないから大丈夫なんだけど

純子 そっか、よかった。

忠志 うん、まぁそれ自体はよかったんだけど。

純子 何かあったの?

忠志 その後散々部長に説教されてさ。

純子 あぁ、原田さんだっけ?

忠志 そう。あの人言ってることは正しいんだけど・・・何ていうか、忘れっぽいっていうか。

純子 言ってることが変わるってこと?

忠志 まぁ、それもなんだけど。おんなじ話ばっかなんだよ。

純子 え?                               

忠志 説教もそろそろ終わりかなって頃に、最初に戻って何回もまた繰り返し。

純子 多いわよね。そういう人。

忠志 まぁ、仕方ないんだけどな。

純子 あ、そんなこと言ったらお隣さんも。

忠志 え、そうなのか?

純子 ええ、この前ごみ出しに行った時にね、「今からお昼の買い物行くんですー」ってそこから話してたら長くなっちゃって。ほら、お隣さんって彼氏で来たじゃない?

忠志 あぁ。

純子 その惚気話で3時間。

忠志 3時間!?

純子 えぇ・・・その時は違う人が来たから失礼したんだけどね、夕方私が出かけたら、まだ朝と同じ場所で今度は大家さんに惚気話。

忠志 何時間話してるんだ!?

純子 でね!私が挨拶したら「あぁー純子さんじゃないですか」「あれ、お昼は・・」「そうなんですよー結局お昼食べてないんですーあっ聞いてくださいよー昨日ダーリンがー」みないな感じよね。

忠志 よっぽど自慢したかったんだな。

純子 結局誰に話してるのか忘れてるのよね。

忠志 そういうもんなのかな?

純子 はぁ、次は大家さんにも付いててもらおうかな

忠志 ちょっと待て、それだと俺が

純子 え?何?

忠志 いや、まぁいいんだけど。

純子 あらそう、あっ(時計を見て)

忠志 ん?どうしたんだ?

純子 いや、もうすぐお迎えのバスが来るから。

忠志 あ、もうそんな時間か。せっかくの休みがほとんどダラダラで終わってしまった

純子 仕方ないわよ。一日なんてすぐ終わるんだから。・・・そう、人生と同じでね。

 

      純子、はける。

 

忠志 ・・・お前ってたまにそういうこと言うよな・・・ダーリン

 

      忠志、紙に何か書いている。                 

       すると、廊下から、大家の声がする。

 

大家 ごめんくださーい。お邪魔してもよろしいでしょうかー?

忠志 もう入ってきてるじゃないか。

純子 あら、大家さん。こんにちは。

大家 こんにちは。純子さん今日も相変わらずお綺麗ですねぇ。

純子 あら、ありがとう。

忠志 だんなの前で口説くのはやめてくれないか。

大家 なんでですか。本心を言ったまでですよ。あ、もしかして忠志君、嫉妬してます?

忠志 お前は何しに来たんだ?

大家 家賃の取り立てです。はい忠志君、100万円!。

忠志 お前が欲しいだけだろ!

大家 冗談ですよ。今月分払いました?

忠志 払っただろ、ってかなんでお前が?

大家 親父のパシリです。

純子 そうなの?

大家 親父が最近跡継げってうるさいんですよ。

忠志 おぉ、お前もとうとう真面目に働く気になったのか。

大家 まぁ親父が亡くなったらね

純子 大家さんもいろいろと大変ですね。

大家 まぁ、奥さんの笑顔あれば頑張れますよ!

純子 あらあら。お上手なんですね。また夕食にいらしてくださいね。

大家 奥さんは本当に優しいなぁ。もう!忠志君にはもったいないぐらいですよ!

忠志 あんまり調子に乗るな

大家 ひどいなぁ。僕が夕飯食べにくるの、結構楽しみなくせに。

忠志 今までそんなこと思ったことは一切ないよ。                          

大家 忠志君つめたーい。あれ、何書いてるんですか?

忠志 あぁ、もうすぐ誕生日だろ?

大家 僕への日ごろの感謝をこめて手紙を!?

忠志 ちがう!もう誕生日過ぎただろ。

大家 あっそういえばそうですねー

忠志 ったく

大家 毎年書いてますよね。

忠志 ん?まぁな。

純子 あっ大家さん、今日クッキー焼いたんですけど食べますか?

   いっぱい作りすぎちゃいまして。

大家 ……そ、そうなんですか

純子 ちょっと待っててくださいねー。今回の自信作なんです!

 

      純子、急いでリビングから出ていく。

 

忠志 ……お前甘いものって

大家 (左右に首を振る)

忠志 だよな

 

      純子、帰ってくる。

 

純子 おまたせしましたー

忠志 純子、あのなこいつ……

大家 ありがとうございます!僕クッキー大好きなんです!

純子 あらよかった!

 

      大家、純子が焼いたクッキーを食べる。

      だがやっぱり嫌いなので顔が引きつりせき込む。

 

純子 どうしたんですか?もしかして……あまり美味しくなかったとか……。

忠志 純子。もう食べさせない方がいいって。こいつ……

大家 もう美味しい美味しい!奥さんのクッキーが美味しすぎて、もう涙が。あと何かが出そう。

忠志 出すなよ。

純子 嬉しい!また作りますね

大家 あ……ありがとうございます

忠志 お前が決めた事だからな……

大家 (頷く)

 

      明里が廊下から登場。

 

明里 ただいまー

純・忠 おかえり。

純子 今日も早かったのね

明里 んーそうかな?

純子 みきちゃんたちと一緒じゃないの?

明里 みきちゃんピアノ……(腕をさわる)

純子 ピアノ始めたの?

明里 (頷く)

純子 そうなの、残念ね。

大家 おかえり。明里ちゃん!

明里 大家さんだ!今日はどうしたの?

大家 今日は明里ちゃんと遊びに来たんだよ。

明里 遊んでくれるの!?

大家 もちろんだよ!

純子 良かったわね。明里。

明里 うん!

純子 明里、連絡帳は?

明里 えっと……なんか今日は先生お休みだった……の!(腕をさわる)

純子 嘘ついちゃだめでしょ?

明里 ……

純子 怒らないから

明里 幼稚園に忘れてきた……

純子 そっか、正直に言ったら怒らないわよ

明里 ……うん!

大家 なんで嘘ついてるってわかったんですか?

忠志 あー、明里嘘つくとき目逸らしながら腕さわるんだよ。

大家 そうなんですか?僕も明里ちゃんの癖探してみようかな。

忠志 なんか気持ち悪いな。

明里 大家さん

大家 ん?どうしたの?

明里 今日絵描いたんだー

大家 幼稚園でかい?

明里 (うなずく)

大家 上手だねぇ。

忠志 上手く描けてるじゃないか。

純子 うん。明里、良くがんばったね。

明里 これがね、お母さんで、これがお父さん、この人が大家さんでこれが

   明里なんだ。

純子 本当。大家さんが着てる服アロハシャツだ。

忠志 おまえ常にアロハシャツ着てるもんな

大家 え?あぁ、いつのまに!?

忠志 無意識かよ

明里 うん

大家 明里ちゃん早く遊ぼうよ

明里 うん!

純子 ご飯食べてからにしなさい

明里 えー。じゃあご飯できるまで

純子 しかたないなぁ

明里 やった。

純子 ご飯何がいい?

明里 親子丼!

忠志 明里はほんとに親子丼が好きだな。

明里 うん、大好き!おなかすいたー早く早く!

純子 はいはい、すぐ作るからね。

大家 奥さん!僕の分も是非!

純子 あら、ごめんなさい。三人分しか出来ないわ

大家 ショック!(倒れる)

純子 あっでも豚肉があるから他人丼ならできるわよ

大家 ショック!!

明里 大家さん                              

大家 え?

明里 ちちんぷいぷいいたいのいたいのとんでけぇー。

忠志 明里、それちょっと違う……

明里 違うの?

大家 ありがとう、明里ちゃん!

明里 元気出た?

大家 (高速でうなづく)よし!早く遊ぼう!

明里 遊ぼ遊ぼ。

大家 何して遊ぶ?

明里 んー、あ、(棚のところから絵本取り出す)これ読んで。

忠志 それ、明里が作った絵本じゃないか

大家 明里ちゃん絵本作ったの?すごいね

明里 幼稚園のみんなで作った

純子 でもそれまだ続きがあるって言ってなかった?

明里 あーうん。じゃあ続き一緒に考えて!

純子 でも夕飯……

明里 まだおなかすいてない!

純子 さっきすいたって……

明里 すいてないすいてない!

純子 もーわかったわ

大家 もう僕何でもします

忠志 じゃあ俺は聞いてよっかな

純子 何言ってるの。二人には絵本のキャラクターをしてもらわないと

忠志 え……

大家 なんと心躍る展開!

純子 普通に読むだけじゃ楽しくないでしょ。

忠志 そんなことしたくねぇよ。

明里 えぇー、してくれないの?

大家 いやいや、ここは、可愛い可愛い明里ちゃんのために一肌脱ぐしかないですよ。

忠志 ……わかったよ。

純子 ほら、早く準備しなさいよ。今から読むんだから。

大・忠 (互いにうなずく)

 

       純子、手作り絵本を取り出す。そして、女2人ソファに

       座る。

 

純子 じゃあ、読むわね。

明里 うん。

純子 むかーしむかし、ある村に白ヤギさんと黒ヤギさんがいました。

    二匹は白黒のおうちで一緒に住んでいました。

    しかし、白いおうちや黒いおうちがある中で、白黒のおうちは一つだけ・・・

    そのことを黒ヤギさんは気にしていたのでした。

    体の色はちがっても2匹は仲良く暮らしていました。ある日白ヤギさんと黒ヤギさんは喧嘩してしまいました。はい!喧嘩して!

忠志 こんな突然はじめるのか!?

大家 なんで、君はいつも問題を起こすんだ。そんなんだからみんな黒ヤギ君の悪口言うんだ

忠志 ぼ、僕は悪くない……

大家 言い訳をするな!!

忠志 えっ

大家 いっつもいっつもその真っ黒な毛、家中に落としやがって……この剛毛ヤギが!!

忠志 お前こそ、最近抜け毛増えてきたんじゃないか!?まだ若いのに。

大家 最近の1番の悩みを!!言っとくけどな、おまえが結婚できたのなんか、ただのまぐれだかんな!!

忠志 まぐれでも出来ないやつに言われたくないな!(ひらめく)・・・君とはヤギが合わないようだ。実家に帰らせていただきます!!

大家 おぉ、出て行け。

 

      忠志、出て行く。

 

純子 こうして、黒ヤギさんは出て行ってしまいました。(本を勢いよく閉じる)

忠・大 すみません。ふざけすぎました。

純子 もー適当じゃダメよ。

忠志 だって大家が……

大家 忠志君も楽しそうだったじゃないですか。君とはヤギが合わないようだって!!別にうまくないですよ。

明里 それってどーゆーいみ?

純子 覚えなくていいのよ。

 

ドンドンという音が聞こえてくる。

 

お隣さん ちょっと!もうちょっと静かにしなさい!近所迷惑でしょ!

大・忠 はーい。

 

      少しの間

 

大家 あはは……最近彼氏に振られたお隣さんですねぇ。

忠志 やっぱり振られてたのか。

 

大家 忠志君!ここに来られても面倒だから先に謝罪しにいきましょ

忠志 なんで俺まで

大家 だから言ったでしょこの前。あの人めんどくさいんだって!

忠志 あぁそうだったな……ついてってやるよ

純子 まぁお隣さんのことは任せたわ。あなた頑張って。

忠志 ひとごとかよ

大家 ほら、奥さんもそう言ってるんですから行きましょ

 

      男二人はける

 

明里 やっぱお父さんと大家さん仲良しだね。

純子 ふふ、そうね。

明里 ……

純子 あら、どうしたの?

明里 仲良しなのいいなぁと思って。

純子 何言ってるの?みんな仲良しでしょ?

明里 うん……そうだね。

純子 ……大家さん遊んでくれなくて残念だったわね

明里 うん。明里お部屋行ってくるね。

                                     

      明里、そそくさとはける。

      純子、明里が出て行った方を見てから絵を手に取り眺める。

      チャイムの音が鳴る。

 

純子 はーい

 

明里戻ってくる。

      純子、はける。

      棚に置いてあるオルゴールを見つけて、床に置き寝転びながら聞く。

      間

      すると下手から純子の声がする。明里はそれに気付きオルゴールのふたを      

      閉じて聞いている。

 

母  こんにちは。ごめんなさいね?突然来ちゃって。

純子 いえ……

母  私がなんで来たかって

純子 あっはい、さっき幼稚園から電話が

母  じゃあ話は早いわね。そのことでうちの子が明里ちゃんのこと怖がっちゃてて。

純子 申し訳ありません

母  いや、いいのよ。別に責めてるわけじゃないのよ。

純子 はい。

母  でもね、母親になるのって大変なことなの。本当の親でもね?それをわかって引き取ったんだから。

純子 はい、ありがとうございます、本当にすいませんでした。

母  いいえ、じゃあお邪魔しました。

 

      間

      純子、下手から戻ってくる。

 

純子 はぁ……

明里 お母さん……

純子 ん?あぁ、大丈夫よ。夕飯すぐ作っちゃうからね。

明里 ……うん。

 

   忠志、登場。                               

                                     

忠志 ただいまー。

明里 おかえりなさい。

純子 おかえり。大家さんは?

忠志 あぁ、そこで別れた。

純子 あら、夕飯いらないのかしら?

忠志 あとで来ると思うぞ。

 

      明里、はける。

 

忠志 喧嘩でもしたのか?

純子 そういう訳じゃないんだけど。

忠志 ……そうか。そういえばさっき明里の友達のお母さんとすれ違ったけど。何だったんだ?

純子 いや、幼稚園で明里がお友達の工作壊しちゃったみたいなのよ。

忠志 明里がか……

純子 えぇ、その話でみえてたの

忠志 ……なにか嫌なことでもされたのかな。

純子 なんで?

忠志 何もないのにそんな事する子じゃないだろ

純子 でも前にもお友達と同じようなことあったし。

忠志 え、いつ?

純子 あなたはその時仕事で家あけてたから

忠志 あぁ。

純子 前は担当の先生からの電話だけだったけど

忠志 まぁ小さい頃はいろいろあるからな。

純子 ……そうね。

 

      明里、やってくる。

 

明里 鞄置いてってない?。

忠志 あ、あるぞ。

純子 じゃ私買い物行ってくるわね。

忠志 え、なんでだ?

純子 大家さんだけ他人丼はかわいそうでしょ?

忠志 そんなの気にしなくていいのに。

純子 でもやっぱ悪いわ。すぐ戻るから。                 

忠志 そうか、いってらっしゃい

純子 行ってきます

 

      純子、はける。

 

明里 ねぇ、なんで他人丼だとかわいそうなの?

忠志 ん?あぁ、そりゃあ……他人だから……かな。

明里 ふーん。

 

      明里パズルをし始める。

      なかなかピースがはまらない。

 

忠志 明里、ちょっと貸してごらん

明里 うん

忠志 パズルはなぁ、はしっこからだはしっこ。

明里 はしっこ!

忠志 こうまっすぐのとこがあるのを探して

明里 これとか?

忠志 そうそう

明里 ほんとだ!

忠志 出来たら飾ろうなー

明里 うんっ

忠志 あっそうだ、明里の書いた絵どこにはろうか。

 

      忠志、飾る場所に悩んでいると。

 

明里 ねぇ、お父さん。

忠志 ん?なんだ?

明里 お母さんって明里のこと嫌いなのかな?

忠志 ……

明里 お父さんも……明里のこと……

忠志 何言ってるんだよ。お父さんもお母さんも明里のこと好きだぞ。

明里が幸せになってくれればお父さん達も幸せなんだからな(明里の頭をなでて)

 

明里 そっか……あっお父さん!明里の絵そこがいい!

忠志 お、いいな。そうしよっか。

 

 

      照明半分暗くなり、音楽。

      明里はけて、純子がやってくる。

      照明戻る。純子が電話で対応している。

      忠志はソファに座っている。

 

純子 はい……えぇ、申し訳ありません。はい…あの子ともちゃんと話してみますので。

はい、失礼します。(電話を切る)

忠志 やっぱり幼稚園からか?

純子 えぇ

 

      明里、帰ってくる。

 

明里 ただいまー

忠志 明里、ちょっとこっちへ来なさい。

      明里、少し戸惑いながらもソファに近くに行く。

 

忠志 お父さんが話したいことわかるか?

明里 ……

忠志 明里。

 

      純子、明里のそばにしゃがんで

 

純子 園長先生から電話があったんだけど、みきちゃんに怪我させたんだって?

明里 ……

純子 みきちゃんと仲良かったんじゃないの?

明里 ……

純子 明里

明里 ……

純子 何も言わなかったらわからないでしょ。

明里 ごめんなさい。

純子 何したの

忠志 純子。……明里何があったんだ?

明里 明里のぬいぐるみにみきちゃんが酷いことしてきたから……明里の大事なものだったから……おしちゃって……そしたら。

忠志 友達に怪我させるのは、しちゃいけないだろ。

明里 だってだって!明里の大切なぬいぐるみだもん!

忠志 ……でも自分が悪かったとは思ってるんだろ?

明里 ……悪いのはみきちゃんだもん。

忠志 あのな、明里。

純子 なんでいつもそんなことするの?

忠志 おい。

純子 お友達や……他のお母さんたちだって怖がってるし・・・

忠志 純子!明里、部屋に戻ってなさい。

明里 ……ごめんなさい

 

       明里はける

忠志 おい、大人の話なんて子供に言うもんじゃないだろ

純子 ……

忠志 純子?

純子 問題起こすようになったのは私のせい?

忠志 別に誰もそんなこと言ってないだろ

純子 さっきみきちゃんのお母さんから電話があって、引き取ってもちゃんと育てられないのならやめたほうがいいんじゃないか、って言われたの

忠志 そんなの                             

純子 本当の親でもないんだから、施設に預けた方が明里ちゃんもいいだろうって。

忠志 そんな他人のいうことなんて気にするなよ

純子 またお友達に怪我させるかもしれないのよ?

忠志 俺たちでなんとか。

純子 なんとかって……今までずっとそうしてきたの!

忠志 ……

純子 いつも家にいないからそんな事言えるのよ!

忠志 ……

純子 今まで通りじゃだめなの!

忠志 ……もう少し考えよう

 

 

       忠志、はける。

 

 

 

美希 明里ちゃんたぬーかしてー

明里 何でー?

美希 美希もたぬーで遊びたい

明里 えー

美希 ねぇ貸してよー

明里 たぬーはだめだもん

美希 いいーじゃんー(引っ張り合う)

明里 だーめー

美希 貸してくれないなら言っちゃうからね。

明里 なにを?

美希 明里ちゃんのお母さんとお父さんニセモノだーって!

明里 な……なんでそんな事言うの?

美希 だってママが言ってたもん!貸してくれないならみんなに言っちゃうよ

明里 ……(離さない)

美希 ……じゃあ言っちゃお。みんな聞いてー。明里ちゃんのねー

明里 いやぁっ!!(突き飛ばす)

美希 うわぁぁん、痛いよぉ(泣く)

先生 何してるの!

美希 せんせぇ、明里ちゃんがまたおしてきたー

明里 ちがうもん

先生 美希ちゃんに謝りなさい。

明里 明里わるくないもん!わるくない!

 

       ゆっくり暗転。明里にtopがあたる。

 

明里 黒ヤギさんは「ぼくはわるくない」と言いました。白ヤギさんは言いました。「黒ヤギくんがみんなに悪口を言われるのは、ぼくと一緒にいるからなのかな・・・みんなのおうちと違うから……白色と黒色の僕たちは……別々に暮らした方が幸せなのかな。きっとそっちのほうが笑えるようになる。

 

 

      溶暗後、時計のSE。音楽。

ニュースの音

十年後

 

 

部屋の中。忠志、新聞読む。家事をこなす純子。

 

忠志 おい、お茶くれ。

純子 私は忙しいの。それくらいできるでしょ。

忠志 入れてくれたっていいだろ

純子 だから無理だって言っているでしょ。あなたがすればいいじゃない

忠志 はぁ……もう頼まん。

 

      忠志、新聞読み終わり、そこらへんに投げてお茶を入れに

 

純子 ちょっと!散らかさないでよ。

忠志 後で片付けるよ。

純子 ……そう言っていつもしないんだから。

忠志 いつもって、片付けてるだろ。

純子 片付けてないから言ってるんでしょ

忠志 ガミガミうるさいなー、まったく。

純子 あなたがそうさせてるんじゃない。

忠志 はいはい、すいませんでした。

 

忠志、めんどくさそうにしながら、新聞紙をゴミ箱へ。その後、一言も口をきかず。間。

チャイムなる。

 

大家 ごめんくださーい。

忠志 おい。人の家に勝手に入ってくるな。

大家 なにもそんなに怒らなくてもいいじゃないですか。あ、もしかしてお取り込み中でした?

純子 いえ、大丈夫よ。

忠志 大丈夫なことあるか。お取り込み中だから失礼してくれ。

大家 忠志君最近冷たいですよ。ねぇ……あれ?

忠志 どうかしたか?

大家 いや、新しい住人さんを連れてきたんですけど。

純子 住人?

大家 ほらほら、こっちこっち。

 

     香織入ってくる。

 

香織 失礼します。

大家 やぁやぁ、じゃあ改めて、この度このマンションの新しい住人になった香織さんでーす!

香織 ……どうも。香織です。

忠志 あ……。

大家 忠志君どうしました?あっ!まさかあまりの可愛さに見惚れたんですか!?やめてくださいよ、彼女はまだ高校生なんですからね!

忠志 そんなわけないだろ……深田忠志です。よろしくお願いします。    

純子 妻の深田順子です。よろしくお願いしますね。

香織 ……はい

純子 香織さんは高校何年生なの?

香織 ……一年生です。

純子 そうなんだ……ご両親は?

香織 いや、その……。(腕をさわる)

 

香織、助けを求めるような眼でチラッと大家の方を見る。大家苦笑。

 

大家 それじゃあ、そろそろ行きますね。他にも挨拶に回らないといけないので。

純子 あらそう。あっそうだ、洗濯機まわさないと。すいません。

 

純子はける。香織、ペコリと頭を下げると、間をおいて出て行き。大家も出て行こうとする。

 

忠志 大家、ちょっといいか?

大家 ん?どうしましたか?

忠志 あの香織って子は、元々ここら辺に住んでいたのか?

大家 なんですか?もしかして本当にあの子狙っているんですか?とんだロリコンですね

忠志 俺は真面目に……

香織 大家さん、まだですかー。

大家 おっと、呼ばれていますね。ここら辺に住んでいたかどうかは僕は知りませんね。では、呼ばれているので……はいはい!今行きますよ!

 

大家、はける。廊下、大家と香織

 

香織 遅いですよ。

大家 いやはや、申し訳ない。あはは。

 

そのまま二人とも、はける。

 

忠志 もう終わったのか?

純子 新しい洗剤持ってくの忘れちゃって。そういえば大家さんと何か話してなかった?

忠志 たいしたことじゃないよ

純子 そう。

忠志 ……なぁ純子、あのこなんか

純子 何?

忠志 いや、何でもない

純子 なによ、まぁいいけど

 

      照明うす暗くなる。

      純子、はける。

      忠志、壁に貼ってある絵を眺める。

 

 

大家 色々まわって疲れたでしょ?

香織 ……別に大丈夫ですけど……

大家 そっか……あぁ!無性にアイスが食べたくなってきだぞー!

香織 えぇっ!

大家 よし香織ちゃん、コンビニまで競争しましょう!僕に勝てたらアイスおごってあげますよーっ!

香織 えっ、でも悪いし……

大家 いいからいいから!さぁ、この僕に勝てますかね?うりゃあああああぁっ!

(大家走り去る)

香織 ちょっ、大家さん!……近所迷惑ですよー!

そして香織も走りだす。香織、心なしか楽しそうで

 

 

      香織、はける。

       前のTOPが消える

       リビングでは忠志が新聞を読んでいる。

       大家つまようじをくわえながら入ってっきて、そろそろと近づき

 

大家 忠志君!

忠志 なんだよ!

大家 いや、びっくりするかなと思って。

忠志 びっくりしたよ。なんだよもう。

大家 大成功!

忠志 ばか。で、なんなんだ?

大家 いやね、今日駅前にできた新しいそば屋、初めて行ったんですけど、もう、美味しくって美味しくって!これはぜひ忠志君にも教えようと思いましてね!

忠志 わざわざそんなことのために…

大家 いや、それだけじゃないですよ!

 

       純子、入ってくる。

 

忠志 一緒に食べてきたのか?

大家 いやいや、駅でたまたま会ったから送りに来たんですよ。

純子 大家さん、お茶でいいかしら?

大家 いえ、結構ですよ。そんな長居しませんし。

純子 あら、気にしなくていいんですよ?

大家 いえいえ、そろそろ時間なんで。

忠志 なんの時間なんだ?

大家 もう忠志君、大家さんのプライベートをそんなツンツンしてこないで下さいよー

忠志 やめろ、気色悪い。

大家 あははーではまた。

 

      大家、立ち上がる。

 

純子 またいらっしゃってね。

大家 はい。

忠志 こなくていいよ

 

      大家、少しいじけながら早々とはけていく

      忠志、ソファに座って

 

忠志 いつもならもっといるのにな

純子 いてほしかったの?

忠志 そういうわけじゃない!

純子 どうかしらねー?あれ、どうしたの?

忠志 ちょっと出てくる。

純子 どこに?

忠志 大家のとこ。ちょっと聞きたいことがあるんだ

純子 そう、いってらっしゃい

 

       2人、はけていく。暗転。

       リビングの前の廊下が明るくなる。リビング転換。

下手から、大家と香織が歩いてくる。

       

 

香織 わざわざいつも迎えに来てくれなくてもいいんですよ。

大家 いーのいーの。僕がそうしたいだけだから気にしないの。

香織 なら、いいんですけど。

 

 

大家 最近学校どう?楽しい?

香織 別に……普通ですよ。

大家 普通!?高校生っていったら毎日が青春なんじゃないの!?

香織 そんな楽しいものでもないですよ?

大家 みんなで缶けりだー!みたいな

香織 ないです。

大家 そっか……

香織 あ、でも今日は調理実習しましたよ。

大家 へぇ、何作ったの?

香織 カップケーキです。

大家 あ、それはぜひ食べてみたいな。

香織 そうですか?じゃあ今日作りましょうか。

大家 あ、いや、今日は……あれだよ。うん、無性に辛いものが食べたいっていうか

香織 そんな遠慮なさらなくていいんですよ?カップケーキ得意ですから。

大家 そ、そうなんだ。じゃあ今日食べようかな。

香織 じゃあ作ります。砂糖抜きで。

大家 え?

香織 私が大家さんの苦手なもの、知らないと思ってました?

大家 思ってました。

香織 ひどいですよ。そんなことぐらいわかってました。

大家 さっすが、香織ちゃん。

香織 でしょ?じゃ私準備してきますね

大家 うん。

 

      香織、はける。

      大家リビングに入る(大家の部屋)

 

忠志 おじゃまします。

大家 なんで勝手に入ってきてるんですか!?

忠志 お前に言われたくない

大家 あっ聞いてくださいよ忠志君、香織ちゃんがカップケーキ作ってくれるんだそうです。

忠志 おまえ甘いもの大丈夫になったのか?

大家 ちゃんと甘くないようにしてくれるんですって

忠志 そうか、香織ちゃんと、仲いいんだな。

大家 そうですか?まぁ懐いてはくれてますね。それが何か?はっ、忠志君……まさかまだ香織ちゃんの事ねらってたんですか!?

忠志 ちがう!

大家 いやいや、冗談ですよー。

忠志 ったく。

大家 で、なんですか?

忠志  お前に聞きたいことがあったんだ
大家  はい
忠志  ……
大家  どうしました?
忠志  香織ちゃんって明里なんじゃないのか?
大家  ……
忠志  どうなんだよ
大家  どうでしょう
忠志  真面目に話してくれ
大家  ……前に忠志くん、自分で言ってませんでした?明里はもういないんだって。
忠志  それはあんな事故があったらそう思うだろ!
大家  じゃあ明里ちゃんはもういないんじゃないですか。
忠志  でも……
大家  何年前でしたっけ?大型の台風が、養護施設を襲ったのは。
忠志  ……十年位前になるか
大家  ニュースになりましたよね。新聞も一時期はその事ばっかで。
忠志  ……
大家  確か生存した人がいく施設も書いてありましたよね?
忠志  あぁ……
大家  被害にあった施設の子の中には、記憶障害になった子もいたみたいですね……
忠志  ……ずいぶん詳しいんだな
大家  はい、気になって調べていたので。おっと、話がずれちゃいましたね。忠志くんは香織ちゃんが    明里ちゃんだったらどうしたいんですか?

忠志  そんなの決まってる……もう一度一緒に暮らしたい。
大家  でも、それは忠志君の気持ちでしょ?
忠志  ……
大家  あの子の言葉はちゃんと聞いてあげたんですか?
忠志  俺たちはあの時、明里の事を思って!

大家 じゃあ、なんであの子はお前たちに、自分は明里だと名乗らないんだ!

忠志 それは……

大家 わからないのか?

忠志 ……

大家 ……もういい、帰ってくれ

忠志 いや、まだ……

大家 帰ってくれ!

      忠志、はける

暗転

      深田家のリビングに転換

      純子、帰ってくる 

 

純子 どうだった?

忠志 大家に聞いたよ。

純子 ……何を?

忠志 落ち着いて聞いてくれ。

純子 なによ、急に改まっちゃって

忠志 あの子は生きてたんだ。

純子 なんのこと?

忠志 明里は生きていたんだ

純子 ……

忠志 純子?

純子 うん。

忠志 え?

純子 わかってた。

忠志 なんで

純子 あの十年前の記事にのってたでしょ?

   生存者が移った施設の事が。

忠志 ……。

純子 私、見にいったの。でも生きてたとしても、どんな顔して会ったらいいかわかんなくて。全部私たち大人がきめたことであの子は……

忠志 ……

純子 香織さんが来た時、もしかしたらって思ったのよ。だって……昔と同じなんだもん。

忠志 あぁ、そうだな。

純子 でも何も言えなかった。

忠志 純子……

純子 私たちは……

忠志 ……明里に会いに行こう。

純子 ……(頷く)

 

      暗転。

      次の日、リビングに夫婦がいる。そこに香織入ってくる。

 

純子 いきなり呼びだしてごめんね

香織 いいえ、大丈夫です。それで話ってなんですか?

純子 香織ちゃんに聞きたいことがあってね

香織 聞きたいこと……ですか。

忠志 ……明里なんだよな?

香織 ……何のことですか?

忠志 大家とこの前話したんだ。

香織 ……

純子 香織ちゃん?

香織 そうですよ。

忠志 そうか、良かった。

香織 それを確かめたくて呼んだんですか?

純子 違うの。私たち明里と話がしたくて。

香織 話……ですか.

忠志 明里……本当にすまなかった

香織 ……

純子 あの時私たち明里の気持ちも聞かずに…

香織 別に気にしてません。それだけですか?

忠志 いや……

香織 言いたいことがあるならはっきり言ったらどうですか。

夫婦 ……

香織 何もないんだったら帰りますよ。

忠志 待ってくれ!

香織 なんですか!?

忠志 お前ともう一度暮らしたいんだ

香織 ……

香織 本当にそう思ってますか?

忠志 どういうこと?

香織 本当に私と暮らしたいと思ってるんですか?あの時の事気にしてるだけなら

やめてください。

 

香織 あの台風で私は一時的な記憶障害になりました。

   施設の子たちが死んだことも、記憶が戻ってからわかって。

   それから新聞を見たんです

忠・純 ……

香織 会いに来てくれるって……思ってたのに。

忠志 明里 

香織 だからもう見捨てられたんだって思った。……私の事なんてもう!

忠志 明里!

   

                明里宛ての誕生日の手紙十年間分を渡す。

 

香織 え……

忠志 忘れたことなんてない。誕生日じゃないけど許してくれ。

香織 え、これって……

忠志 毎年誕生日に手紙書いてただろ

香織 ……うん

純子 あなたがこの家からいなくなってから毎年誕生日になるたびに書き続けてたの

香織 ……

忠志 お前を施設に預けてからしばらく経った日に、やっぱりもう一度引き取ろうって思ったんだ。でもちょうどその日に施設が被害にあってしまった

純子 明里はもう死んだんだって思ったの。でもあの時どうしても信じられなくて、そのうちあの子は帰って来るんじゃないかって思ったら無意識のうちにね

香織 そうだったんだ……

忠志 ……忘れることなんてあるわけないだろ

純子 うん……ずっと、ごめんなさい

忠志 ごめん

 

      香織手紙を1枚取り読む

 

香織 ……私も忘れたことなんてなかった。

   私にとっての家族は二人だけだから。

 

純子・忠志、香織をつつみこむ

 

純子 明里

忠志 明里

香織 私は……。

 

 

      暗転。明かりがつく。香織が体操座りで部屋を見渡している。

      純子、ジュース持ってくる。

 

香織 ありがとう……うん、変わってない。

純子 変わってない?

香織 この部屋……よく見たら昔のままだなって。

忠志 そうか?昔より殺風景になったと思うけど。

香織 そんなことないよ。あの棚も、テレビも、このテーブルだって……

忠志 あぁ……

香織 懐かしい……変わってなくて嬉しかった……あっ

忠志 ん?

 

      香織、オルゴールを取りに行く。

 

香織 これ……まだあったんだ……

純子 うん。

香織 懐かしい…

純子 でもこのテレビもそろそろ寿命ね。

忠志 そうだな、この前も映らなかったしな

純子 買い換えないとね。

忠志 アナログ終わる前だったから高かったんだけどなぁ。

純子 短かったわね

忠志 1年の命か・・・いや!でも映る!

 

      忠志、テレビの電源をつける。

 

純子 映らないわね。

忠志 ・・・反抗期なんだよ。

純子 機械が反抗期なんてないわ

香織 あいかわらずおもしろいですね。さすがです。

忠志 あ、ありがとう。

純子 あなた、そこお礼いうとこじゃないわよ

忠志 あっそうか。

純子 明里

明里 はい

純子 おかえり

忠志 明里おかえり

明里 …ただいま

 

       3人笑いあう、そのとき大家が登場。

 

大家 ごめんくださーい

香織 あ、大家さん……あの、私……

大家 あぁ……うん。

香織 あの……すみま……

大家 いいって!別に謝らなくてもさ!……自分で決めたんでしょ?

香織 ……はい

大家 じゃあもう、僕が口を出すことじゃないよ。それに、こっちの方が僕も安心できる

   し。ね?

香織 ……はい!

大家 よし!奥さん!今日の夕飯、一緒にご馳走になってもよろしいですか!

純子 あら、でも2人分の食材しかないわ

大家 ショック!!!(ぶっ倒れる)

忠志 お前ダイナミックだな

純子 じゃあ買い物に行かなくちゃね。明日は親子丼にするから、あなたの食器も買わないと。

香織 ……うん。

大家 あの!僕のは!

純子 それはいらないかな。

大家 ショック!!

忠志 何回倒れるんだよ!

純子 あ、そうだ。その前に。

香織 はい?

純子 ねぇ。あのときの約束まだ覚えてる?

香織 約束……?

純子 (本を持ってきて)一緒に考えましょ。

香織 ……うん!

大家 これは、もう僕の出番なんじゃないのか。

忠志 俺もだな。

純子 もちろん。

香織 うん。

 

       4人それぞれ、絵本のアイデアを話しあい、わちゃわちゃ

       している。

暗転。

       明かりがつく。香織がいる。パジャマ姿で絵本をよんでいる。

       オルゴール鳴る

 

香織 「ぼくはわるくない」と黒ヤギさんは言いました。白ヤギさんは言いました。「黒ヤギくんがみんなに悪口を言われるのは、ぼくと一緒にいるからなのかな・・・みんなのおうちと違うから・・・白色と黒色の僕たちは・・・別々に暮らした方が幸せなのかな。きっとそっちのほうが笑えるようになる」2匹は別々に暮らすことに決めました。それから何度も季節が過ぎたある日白ヤギさんと黒ヤギさんは出会いました。

 

純子 明里―?。明日学校なんでしょ。早く寝なさい。

香織 ちょっと待って、あともう少し。

香織 白ヤギさんは泣き出しました。黒ヤギさんが笑っていないことに気づいたのです。白ヤギさんは、泣きながら黒ヤギさんを抱きしめました。

黒ヤギさんも泣き出しました。そしてこれかは何があってもずっと一緒に暮らすことを約束しました。そして……

 

純子 明里―。

忠志 明里―

香織 はーい。

 

       香織、絵本を本棚に戻す。

       部屋の電気を消しに行く。

                            幕