第69回三重県高等学校演劇大会 中南勢地区大会 参加脚本

上演団体 三重高校演劇部

上演日時 2024年7月27日(土)

枠番6番 〔大会1日目6校目〕

 

ガラガラクラス!

 

山口 結愛 作

三重高校演劇部潤色

2024年7月29日 第4稿

上演した稿

 

登場人物

あやね→ 細川くるみ

なつき→ 川井志歩

おと → 河合乃愛

さや → 平山愛佳

そうた→ 東 篤布

 

 

    0 プロローグ

 

    幕が上がる。場は夜の教室のようだが、実際はくるみの部屋である。

    くるみは眠っている。しほが出てくる。

 

しほ        くるみ

 

             くるみは起きない。

 

しほ        くるみ、いつまで夢を見てるつもりなの?

 

    くるみは起きない。しほは諦めたように去る。

    のあ、あいか、あつのぶが出てくる。3人、くるみを囲む。

 

あいか    君は見た目だけ

のあ       君じゃ無理だ

のぶ       君じゃヒーローにはなれない

全員       君としほは違う、起きろ!

 

    同時に照明が変わる。その後、のあ と あつのぶ が去る。

 

あいか    夢に逃げないでよ

 

    あいかが去る。

 

    1 始まり

 

    場は明け方の教室になる。午前4時くらい。あやねが起きる。

 

あやね    んー…んー?…え…?どこ?……

 

    なつきが上手から出てくる。あやねを見つけて

 

なつき    あ!おー!!はじめまして!

あやね    え?

なつき    ようこそ!ゆめの学園へ!

あやね    え、え?

 

             あやね、現状を把握できない。

             そんなあやねをにこにこ見守るなつき。

 

あやね    あんた、誰?

なつき    私はここの校長をやってる宮本なつき!

あやね    は?校長?

なつき    そう、校長!

 

             あやね、じろじろ見回す。

 

あやね    ほんと?若くない?

なつき    悪い?

あやね    別に悪くはないけど。じゃあ、ここは?

なつき    学校。

あやね    学校?!

なつき    そう、学校!その名もゆめの学園!!

あやね    ゆめの・・・(あたりを見回す)ぼっろ。

なつき    はぁ…(やれやれと言った顔)…金が!ないの!わかる?This is 財政難!Repeat after me 財政難!!

あやね   

なつき    Repeat after me 財政難!!!

あやね    …財政難

なつき    OK!一応こんなんでも学校なの。

あやね    はあ…

なつき    とにかく、ここが君がこれから通う学校だよ

あやね    え?

なつき    ん?      

あやね    ん?

なつき    何?

あやね    いや、嫌なんですけど…

なつき    嫌!?君、望んでここに来たんじゃないの?

あやね    望むわけなくないですか?

なつき    え!?不登校だけど、ちょっとでも学校へ行きたいって。

あやね    いや不登校じゃないです。

なつき    えっと?

あやね    行ってますよ、学校。

なつき    どこの?

あやね    どこの高校

なつき    だから、どこの高校?

あやね    だから、どこの高校。

なつき    ・・・どこの高校…

あやね    そう。

なつき    …君は、細川くるみさん…だよね?

あやね    いえ、佐野あやねです

なつき    ……

あやね    ……

なつき    あのさ、白い紙なかった?(大きさを手で示す)こんくらいの。

             机の上とか、鞄の中とかに。

あやね    …あー!ありましたよ!

なつき   

あやね    え?それがどうかして

なつき    一言いいかな?!いいよね?!

あやね    いや、ちょっと

なつき    うん!ありがとう!やらかしたーーーー!!!!!!なんてこった!パンナコッタ!

あやね    ……(絶句)

なつき    ええ、どうしよぉ、なんで?なんで不登校じゃない人のとこに?

あやね    あのー、人違いなら帰ってもいいですか?

なつき    それなんだけどね、ごめん!

あやね    え?

なつき    実は…帰れないの

あやね    は?

なつき    ごめんね、私のせいで…

あやね    ……はあああ!?どういう事ですか、帰れないって!

なつき    いや!ここって、不登校の子が来る学校じゃん!?

あやね    知らないよ!!

なつき    うんうん、そうなんだ。で、不登校の子が学校来るって相当勇気いるじゃん!?

あやね    それとなんの関係が?

なつき    実は、他の子たちも万が一逃げ出さないように、学校に行けるようになるまで、出られないようなしくみになってて…

あやね    いや、私は学校に行ってるって!!

なつき    君は特例だから。とりあえずくるみちゃんが入学するまで帰れないかな。

あやね    えっ、じゃあ、明日の学校は!?

なつき    ごめん、諦めて。

あやね    終わった…私の高校生活……

なつき    まあまあ、そんなに落ち込まないで元気出して!

あやね    今日は部活のない日だから友達と帰りに米粉たい焼き食べるって約束してたのに。どうしてくれるんだよ。

             私の米粉たい焼き!

なつき    まあまあ、落ち着いて。

あやね    (全然聞いてない)あ、それと、月末の三連休は、友達とユニバで「鬼滅の刃XRライド〜刀鍛冶の里を疾走せよ〜」に       一緒に乗ろうって約束していたのに〜。(その時に流行っているもので)

なつき    ごめんごめん。!そうだ!どうせ帰れないんだし、ここのみんなと友達になってみようよ!

あやね    めちゃくちゃだ。

なつき    まあ、君みたいな子がいてくれたら、生徒たちにもいい影響があるかもしれないし、私が紹介してあげるから、ね?

あやね    もう寝ます。

なつき    えー!友達になってあげてよ!!

あやね    学校あるし、寝る

なつき    じゃあ、一つ!一つだけお願い聞いてくれないかな?

あやね    いや。

なつき    ありがとう…それで、その、お願い、っていうのはね、みんなと仲良くなって、ここを卒業させてほしいんだ

あやね    卒業?

なつき    私じゃ無理なの…仲良くなったり、逃げ場をつくったりすることはできても…

             それじゃ、根本的な解決にはならない。

あやね   

なつき    ここの生徒たちにはあなたのような、外の世界にいた「友達」が必要なの。

あやね    ……

なつき    だから私には、何もできない。

あやね    …でも先生なんでしょ。

なつき    …逃げてばっかだったからなぁ

あやね    でもなんで私に

なつき    あやねちゃんは、みんなを助けるヒーローになってくれそうだから

あやね    いや、ヒーローなんて

なつき    あなたならなれるよ。くるみちゃんが来るまでの間だけ、お願い

 

             なつき、頭を下げる。間

 

あやね    ……じゃあ、クラスを見て決める。

なつき    (あやねの手を取りながら)ありがとう!

あやね    いや、まだ、ちょっと!

 

    あやねの手を引き両者退場。場転。

 

    2 出会い

 

    2人の女子が教室を走り回っている。おとはセーラー服、さやは私服である。

 

おと       あっはは、おもろー

さや       笑うな!!なんでLINEのステメ馬鹿にされなきゃだめなの!

おと       いや、でも流石にあれは(笑って話せない)

さや       また笑う!

おと       だって、あっははは

さや       おとのステメも見てやる!

おと       え、やめてよ!

さや       見るもーん!

 

    さや、スマホを持とうとするが、おとに先に奪われる。

    さやは立掛けてあった大きいコンパスを手に持ち、再び追いかける

    振り回されるコンパスを避けるおと。ドタバタ。

    ここには、デジタル化した平成では使われなくなった、どでかい分度器や三角定規などが懸かっている。

 

なつき    おはよー!

おと/さや あ!なつき/なっつー!!

 

    さや、コンパスを持ったままなつきに抱きつきに行く。

 

なつき    うわー!

 

             なつき、身をかわす。さや、地面と接吻。

 

さや       いったー!

なつき    ごめんさや!大丈夫?

さや       だ、大丈夫。おはよ、なっつー。

なつき    うん、それで、なんでこんなの(コンパス)振り回してたの?

おと       えーっと、さやがステメ馬鹿にされて

なつき    ステメ?

おと       LINEの

さや       おとのも見てやろうと思ったの!

おと       見ないでよ

さや       それさやのスマホ!

 

             なつき、おとの手からスマホを取る。

 

おと       あっ!

なつき    それで、 追いかけっこ?

おと/さや うん 

なつき    全然わかんない。とにかく、さやはこんなの(コンパス)振り回しちゃダメ。おとも人のもの取っちゃダメ

 

             さや、おと、お互いにお互いが悪いと主張する

             やり取りをあきれてみているあやね

 

なつき    (ぼーっとしているあやねに気づいて)あ、ごめん!あやねちゃん!

おと       なつき!この人(あやね)誰?

なつき    あぁ、この人は今度転校してきたあやねちゃん。

おと/さや あやねちゃん?

なつき    あやねちゃん、こっちがおとで、こっちがさや。あなたのこれからのクラスメイトだよ。

             それにもう1人、そうたって子がいるんだけど、遅刻かな?あ、あやねちゃん、自己紹介してくれる?

あやね    はい。今度、この学校に転校してきました、あやねです。よろしくお願いします。

あやね    えっと、さやちゃん?と、おとちゃん?

さや       さやで良いよー。

おと       私はなんでもいいよ。

あやね    じゃあ、さやとおと、よろしくね。

さや       よろしくー!あやねー!

おと       よろしく。

さや       そうちゃん、早く来ないかな〜

なつき    授業時間に間に合うかなあ。(時計を見る)もうあと3分だ。

おと       ほんとだ。

なつき    じゃあ私は仕事があるから戻るね。

さや       うん!ばいばい、なっつー!

おと       ばいばーい。

なつき    あやねちゃん。最後にちょっと

あやね    はい?

 

    なつきとあやね、教室の外に出る。

 

なつき    どう?

あやね    どう、とは。

なつき    そうたはまだだけど、2人どうだった?なんとかやってけそう。

あやね    まあ、友達にはなれそうかと。

なつき    じゃあ、お願いしてもいい?

あやね    まあここじゃできることないし、いいですよ

なつき    よかった!あ、私も敬語じゃなくていいからね。

あやね    あ、はい(と言いかけて)うん。

なつき    (笑う)そうだ!入学したんだから、ここのルール教えておくね。

あやね    ルール?

なつき    そう、ゆめの学園のルール。一つ、本当の学校に行けるようになるまで、毎日ここに来る。

             二つ、先生の授業はみんなで取り組む。 3つ、自分の昔の事は話さない。

あやね    昔の事は話さない?

なつき    そう。ここに来る子たちは、みんな昔の事話すのは辛いし、1人でも話し出したら話したくない人も話さないといけ            ない、みたいな雰囲気が出るでしょ?

あやね    まあたしかに…

なつき    ルールはこの3つだから、守ってね。それじゃあ後から来ると思うけど、そうたもよろしくね。

あやね    あ、はい、うん

 

             なつきは去り、あやねは教室に入る

 

             3 授業

 

おと       おかえり。

さや       おかえりー!何話してたの?

おと       そういうの聞かないよ

さや       えー、さやは気になるの!

あやね    何でもないよ。初めてここに来たから色々説明されたり?してた。

さや       なーんだ。

 

             チャイムが鳴る。

 

さや       そうちゃん、今日の先生なのに、結局間に合わなかったね。

あやね    今日の先生?

おと       ここは大人はいないから、生徒で日替わりで先生役回してるの。

あやね    へえ。

さや       先生になったら、好きな授業できるんだよ!

あやね    そうなんだ

おと       それで今日の先生そうただから

さや       先生変えちゃうー?

おと       ありっちゃありだけど

 

    そうたが教室に入ってくる。

 

そうた     おはよ。〔飛び込んできた方が面白いかな〕

さや       そうちゃんおそい!

おと       今日先生って事、忘れてたでしょ。

そうた     そんなことないよ。

さや       ほんとかあ?

そうた     マジで。ところでこの人誰?

おと       この子は今日からこの学校に来たあやね。

そうた     へえ、転校生。

あやね    よろしく。そうた、くん?

そうた     そうたで良いよ。よろしく。で、授業だよね?

おと       何するか考えてあんの?

そうた     あるある。

おと       じゃあよろしく

そうた     うっす。とりあえず準備しようぜ

さや       はーい

おと       んー

 

    さやが教科書を配り、おととそうたが授業の模造紙を貼る。

    あやねだけが混乱している。

 

そうた     はい、今日の授業は古文です。 

さや/おと えー!/おー!

そうた     じゃあ、教科書48ページを開いて。

さや       古文わかんないし、嫌い。

おと       文句言わないの。

さや       やだー。

おと       やだーじゃない。

さや       えーーーーー。

そうた     今日は俺が先生だから。

さや       そーだけどさあー。

そうた     じゃあ古文するぞ

さや       えー。

そうた     わがまま言うな。お前が授業するとき、俺が駄々こねるぞ。

おと       え「やーだ。やーだ。古文したいー!(子供っぽい声)」え、きも。

そうた     授業中の私語は禁止。

さや       あやねは国語得意?

あやね    私国語まじで得意だよ。

おと       ガチ?数学めっちゃ得意そう。

あやね    何それ、偏見。

おと       ごめんごめん。でもなんか意外だなーって。

あやね    よく言われるけどね、数学はめっちゃ苦手。

おと       まじかー、数学助けてもらおうと思ったんだけど。

あやね   

 

    少し照明が暗くなる。あやね以外はコロスに変わる。コロス立ち上がる。

    あやねはストップモーション。以下1、さや。2、そうた。3、おと。

 

           え、そーなの?

           へー。なんかいがーい。

           ね。なんか、ほらそういう見た目だしさ。

           意外にそんな感じなんだ。

           いや!まあ全然。そういう人もいるよなー。

           うんうん。別に、

全員       期待してたわけじゃないから。

 

    照明が戻る。コロスは座り、みんなに戻る。

 

あやね    ん?

おと       あ、ごめん、嫌だった?

あやね    え?いや、ぜんぜん。

おと       そう?じゃあよかった。

そうた     こら、言っただろ、私語!

おと       あ、ごめん。

あやね    ごめんごめん

そうた     さあ授業するぞ!

そうた     よし。まずな、このゆかしがりてってのは上人(しょうにん)が自分の発見に周りが反応してくれて、気をよくしてるか       らで、まあ調子に乗ってるんだよ。

さや       …。

そうた     で、この「ぬ」は完了の助動詞なんだけど、下に推量があるからここでは強意になって、さらにこの推量の「べき」は下        に体言があるから婉曲になるんだな。それでここの「たる」は存続で意味は…

さや       飽きた!

そうた     そこ!

さや       あーきーたー!

そうた     飽きるなよ!てか、飽きても言うなよ!

さや       えー?ねえおとー。

おと       んー?

さや       おとも飽きない?

おと       飽きてないけど。

さや       うっそだー!絶対飽きてるって!

おと       いや飽きないよ。古文好きだもん。

さや       それおとが勉強できるからでしょ?

おと       そりゃ、あんたよりはできるでしょ。で、古文は面白いでしょ。まあそうたの授業はつまんないけど。

そうた     おい。

さや       えー。そうちゃんは悪くない。古文が悪いだけで

おと       いや、逆でしょ

そうた     ねぇ、俺の話は〜?

あやね    2人とも、今はそうたの授業でしょ。

さや       あやね!ねー、やっぱ古文が悪いよね!

あやね    いや、古文は悪く無いと思う…

おと       ほら、やっぱりそうたの授業がつまんないんだよ

あやね    いや、そうたも悪いわけじゃ…

おと       それに眠くなるし

さや       そりゃ、あんまりうまいとは思わないけど。

おと       でしょ?ほら、そうたが悪い

さや       じゃあ、飽きる授業するそうちゃんがわるい!

おと       古文で一方的な授業とかセンスないよー

そうた     あのなぁ!

あやね    ま、まあまあ!古文って話聞いてるだけじゃ、自分がどんくらいできるかわかりにくいじゃん?だからー、

             試しに自分で解いてみる、とかはどう?

そうた     まあ確かに。じゃあ問題配るわ

 

    そうたは小さな紙を取り出し、全員に渡す。

 

そうた     今配った紙に、これ(模造紙)と同じ文章が書いてあるから、そこに品詞分解したものを書いて、共有しよう。

全員       おー!・/はーい など。

そうた     じゃあこの2行をあやね、次の2行をさや、最後の2行をおとでいいか?

全員       はーい

 

    そうたは机間巡視。

    みんな黙々と書いているが、さやは手があまり進んで無い様子。ちょっとして。

 

そうた     できたか?それじゃあ前に書いといてくれ。

 

    さや以外、黒板に自分が書いた事を書き込んでいく。

    さやは動かない。あやねはそんなさやに気付き。

 

あやね    さや?どうしたの?

さや      

あやね    さや?

さや       ごめん。

あやね    え?何が?

さや       なんにも書けてない…

あやね    仕方ないよ、私もぎりぎりだったし

さや      

            

    照明が少し暗くなる。さや以外はコロスになる。

    1があやね、2がそうた。3がおと

 

           平山さん。いけそう?

           平山、行けそうか?

           あいか、キツそうなら変わるけど?

           どう?行けそう?

あいか    (出来ま、せん)

                     ごめん、無理そうだからだれか書いてくれない?

           おっけー

あいか    (ごめんなさい)

           平山。謝らなくてもいいぞ。大丈夫だからなー。

           そうそう。だって

一同       仕方ないから

 

    照明とコロス、元に戻る。

 

さや      

あやね    さや?

さや       あ、えっと、大丈夫、大丈夫…1人で、できる…

あやね    さや?大丈夫じゃないでしょ。

さや       大丈夫、大丈夫…(呟くように。)

あやね    さや、出来なくたって仕方ないよ(さやに触れようとする。)

さや       (それを振りほどき)大丈夫!

 

    さや突然立って、教室の外へ走る。

 

あやね    さや!

おと       さや!?あやね!どうしたの!

あやね    わかんない!さやの様子がおかしくってそれで…

おと       とにかく行こ!

あやね    う、うん!

 

    おととあやねが探しに行こうとする。そうたはびっくりして固まっている。

 

おと       そうた!あんたも探す!!

そうた     うぇっ、あ、おう!

 

    みんな「さや!」と叫びながら探し回る。

    おととそうた、あやねが必死になって客席などを探す。

   

4 さや

 

    誰もいない教室。少ししてあやねが帰ってくる。

 

あやね    まさか、戻ってきたり、はしないか…

 

    あやねは何かを探す。

 

あやね    うーん。ここ広すぎでしょ…迷子んなるって…

 

    あやね、教室で掲示物から地図を探している間に、さやが帰ってくる。

 

あやね    あ!

さや       あ、

あやね    さや、大丈夫?みんな心配してるんだよ。

さや       ねえ、なっつー見なかった?

あやね    校長?見てないけど。

さや       そっかぁ。

あやね    何か私にできることがあれば手伝うよ?

さや       …じゃあ、ちょっと話聞いてくれる?

あやね    もちろん。

さや       迷惑じゃない?

あやね    ううん。全然。

さや       うん…(深呼吸)えっと、さやさ、人に迷惑かけるのが嫌で。

あやね    迷惑?

さや       でも、また迷惑かけちゃったじゃん。

あやね    ん?

さや       それで、どうしたら良いかわかんないから、いつもさやの悩み聞いてくれるなっつーに相談しようって

あやね    んー。別に迷惑じゃ無いと思うけど。それにさっきだって古文の内容、分からなかったんでしょ?

             そしたら逃げたくもなる。仕方ないよ。

さや       …仕方ないが、嫌。

あやね    え?

さや       さや、昔から人に迷惑かけてばっかで…あ!

あやね    あ…

さや       ごめんね…

あやね    …さやは言いたくない?

さや      

あやね    …さや、言いたくないの?

さや       …校則、だから…

あやね    あのね、校長が言ってた。ここは逃げ場だって。多分、昔の事は話さないってルールもここに来る人たちが楽になる         ために決めたんだと思う。でも、ルールを理由に逃げてばかりじゃダメ…だと思う。自分に立ち向かわないと。だか        らさやが話したいって思ったら、昔の事だってなんだって、言っても大丈夫。私は、誰にも言わない。約束する。だか      ら。

さや       あやね…

 

             魔法がかかったようにさや、話始める。

 

さや       ……さや、こんなだからさ、いつも人に迷惑かけてきた。授業で当てられたり、みんなで何かしよーってなっても、出       来ないことばっかりで。でも、みんな「いいよいいよ、大丈夫。仕方ないね。」って。怒ってくれたらよかったのに、みん      な笑ってて。仕方ない、仕方ないって。さやが居たら、迷惑かかるんでしょ?だから、だから…

あやね   

さや       迷惑かけたくないから頑張った、けど、頑張ろうとしたら誰かに迷惑かけちゃう。迷惑かけなきゃ生きてけない。だ          けど仕方ない。仕方ない。さやの全部、仕方ない。

あやね    さや…

さや       ホントはここに来るのも嫌だったの。ここでも迷惑かけちゃうから。だけど、がんばった。それでもやっぱりこうなっ          た。だから、なっつーにどうしたら良いか聞きたくて

あやね    そっか。ありがとう。話してくれて。

さや       ううん。ねえ、ほんとになっつー見なかった?

あやね    うん。会わなかった。

さや       そっかぁ…

 

             間。

 

あやね    校長見つけてどうするつもりだったの?

さや       みんなに迷惑かけちゃったし…もう学校来たくないなって言おうと思って

あやね    私は今日来たばっかりだけど、さやのこと一度も迷惑なんて思わなかったよ。だから、私よりずっと長くいる2人が迷惑なんて思わないんじゃないかな。

さや      

 

    そうたが教室に入ってくる。

 

そうた     うわ!え、さや!おーい。居たぞー!

 

    さやはびっくりして振り向く。

 

おと       いたー!?(遠くからって感じ。)

 

    おとが走ってくる。

 

おと       ホントじゃん!見つかったんだったら教えてよ、あやねー!

あやね    あーごめんごめん。

おと       さや、どうしたの大丈夫?

さや       あ、うん。多分…

そうた     ごめん!俺の授業が悪かったんだよな?

さや       ううん!そうちゃん悪く無い!

そうた     え…

さや       逆に、さやが迷惑かけてごめん!

おと       え、迷惑なんてかけてないよ!

さや       ほんとに?

そうた     そりゃ、走り出したときはびっくりしたけど、一度も迷惑だなんて思ってない。

さや       …仕方ない?

そうた     そうそう、出来なくたって仕方ないじゃん。

おと       うん、仕方ないんだから、私たちを頼ってよ。

さや      

あやね    さや…

さや       …さや、迷惑かけたくない、みんなに。

おと       …さや?

 

    照明が少し暗くなる。おと以外はコロスになる。

    1、そうた。2、あやね。3、さや。

    テスト期間

 

           で、この二つの式を連立して、yの値を求めて、代入する

のあ       (なるほど)

           のあ〜次古文教えて〜

           私も〜

 

             場変。塾

 

           まじ塾の先生わかりやすくない?

           えそれな

           古文得意になりそうだもんー

          てかこのプリントが優秀すぎ

          全部わかるよな

          そういえばのあは塾行かないの?

のあ       (うん)

          すっごー

          さすがだね

 

             場変。結果発表

 

       もうじき9時かぁ。 ひーどきどきする。

       どうか神様。合格してますように。

        せーので見ようね

        こえー、いよいよ発表だ。行くぞ、せーの

        わ!

        やったー!!

        合格!

        え全員?!のあは?!

        え、まさか。

        …のあ?

        大丈夫?のあ。

       大丈夫だぞのあ

       そうだよ、離れたって私たち

全員       友達だから

 

             照明とコロス、元に戻る

 

さや       さや、こんななのに、みんな仕方ないって許してくれて、それが、しんどくて、だからもう、誰も頼りたくない…

             ごめん。

おと       さや…

そうた    

さや       もう、迷惑かけたくないから、なっつーに言う。

おと       どうするつもり?

さや       もうここに来ない。

そうた     そんなのダメだろ!

さや       でも、これ以上ここに居たら、さやも、みんなも辛いから…

おと       私は辛くないよ。

あやね    でも、おと、さやが辛いなら…

そうた     そう、俺達には何もできないし…

さや       …みんな、ありがとう。最後まで迷惑かけちゃってごめんね。なっつーに言ってくる。

 

    さや、行こうとする。が、あやねが止める

 

あやね    さや!

さや       何?

あやね    最後にさ、パーティしようよ!

全員       パーティ?

あやね    さや、校長に感謝してない?

さや       それは、感謝してる。けど…

あやね    どうせここ来なくなるなら、最後に校長に感謝の気持ち伝えるパーティしようよ!?

さや       どういうこと?

あやね    題して、「校長に感謝の会」!教室飾り付けして、サプライズなんかしたりして!

さや       でも、飾り付けってさや達で作るんでしょ?そんなのいつやるの?

あやね    そうたが先生なら、そうたのやりたい授業して良いんでしょ?

そうた     え、あー…お、俺、なんか…美術?したくなってきたなぁ〜…

あやね    授業はみんなで取り組まないと!

さや       さや、また迷惑かけるよ…飾り付けなんて、出来っこないし…

おと       それ、良いアイデア!面白そう!やってみようよ!

あやね    ほら、みんなやる気だよ?

さや       …みんなが良いなら、最後にやってみよう…かな。

おと/あやね/そうた やったー!/よっしゃー!

そうた     飾り付けってどんなの作る?やっぱ、わっかとか?

おと       いいじゃん、みんなで頑張って作ろ。

さや       うん。

あやね    いいね、なんか学校行事って感じだね!

 

    照明が暗くなる。そうた以外はコロスになる。

    1、あやね。2、おと。3、さや。

 

           みんなで力を合わせて、文化祭盛り上げるぞ!

全員       おー!

 

    文化祭準備期間

 

           でさー!

           あっははは!まじ!?

           まじまじ!バカだよねー!?

           バカすぎでしょ!

           あのさ、準備とか、しない?

           …ああ〜、する?

           するか。

           うん。

           (1が遠ざかってから)あいつだるくね?ww

           まじだるww

           飾り付けとか、やりたい奴がすればいいじゃんw

           まじそれww

 

    文化祭当日

 

           え、隣のクラスやばくね?

           やっば、めっちゃ気合入ってんじゃん

           待って、あっちもやばくね?

           すご、めっちゃ凄いじゃん

 

             事後

 

           いやー他んとこみんなヤバかった

           けどうちらも頑張ったくね?

           多少見劣りしちゃったけど

全員       みんなで頑張った時間は宝物だから!

 

             照明とコロス、元に戻る

 

おと       ねー。中学校のとき思い出す。

そうた     …たしかに、な。よし!じゃあ次は美術だ!みんな、やるぞー!

みんな    おー!!

あやね    じゃあ、まず机動かそうよ。

 

             おと、さや、あやねが机を動かす。

             そうたは何かを思い出したように、教室を出ていく。

 

    5 準備

 

             ダンボールを持ったそうたが教室に入ってくる。

 

そうた     ふふふ、見てこれ。

あやね    え、なにこの大量の輪っか。

そうた     俺の魔法。

おと       へー、で、なんで?

そうた     ここに来た日のこと覚えてる?

おと/さや うーん

そうた     そん時、教室飾り付けされてなかった?

おと       あ!あの時の。

そうた     おれ、片付けるとき取っといた。

おと       そうだったんだ。

さや       思い出した!なっつーが「私一人で飾り付けたんだ」って。

そうた     そうそう。だから、これ使おうぜ?

おと       いいじゃん

そうた     だろ!

 

    みんな急いで飾り付け、そうこうしている内に準備が終わる。

    みんなで飾り付けを見るが何か物足りない。

 

そうた     んー、この輪っかだけだと物足りないよな。他なんかある?

あやね    うーん。

おと       なんか…

さや      

そうた     まあ、急だったしな。

おと       そうたなんかアイデアない!?

そうた     それだったら、前に作ったやつがあるんだよな。

 

             そうた、教卓の中から大きな鶴を取り出し、羽を動かして、みんなに見せる。

 

全員       ・・・うーん・・・

さや       …はい!

そうた     お!はい、さや!

さや お花、作りたい…

そうた     良いじゃん!

あやね    あ、じゃあさ!さやは校長にお花わたそうよ!飾りは私達が作るから!

さや       え?

あやね    えーっとねぇ(スマホで調べる)ほら!これなんかどう?

おと       これなら、いけるんじゃない?

あやね    さや、どう?

さや       …うん。やってみる!

そうた     よし!じゃあ、みんな、さっそくやるぞ!

みんな    おー!

 

    口々に話しながら飾りを作る。

    あやねとそうたが輪っかを繋げる。

    おとは机の飾りを作る。さやは花をつくる。

 

さや      

あやね    さや、どう、つくれる?

さや       うん大丈夫。

おと       こっちが終わったら手伝うからね。

さや       …うん。大丈夫、大丈夫。

 

    さやは泣きそうな感じで呼吸が乱れる。

 

おと       さや…

さや       大丈夫、大丈夫…うぅー。

 

    さやは立って教室の外に走って行こうとする。

 

あやね    さや!

 

    さやが教室のドアから出ようとした時。

 

そうた     ストーップ!(ドアの前に立ち塞がり。)

 

    それでもドアから逃げようとする。

 

そうた     落ち着けって!

 

    暴れるさやの手をおとがつかむ。

 

おと       さや!

あやね    一旦落ち着いて!

さや       大丈夫、大丈夫だから!!

おと       大丈夫じゃ無いでしょ!

さや       大丈夫!大丈夫だから!!!

おと       さや!

さや       大丈夫!!大丈夫なの!!!

おと       さや!!!

さや       大丈夫だって!!

おと       さや、きいて!

 

    さやはまだ暴れ続けるが、おと肩をつかんでさやの動きが止まる。

 

おと       …私、高校受験失敗してるんだよね。

さや      

おと       私達今まで学校に行ってない理由言うの、タブーだったじゃん。校則だし

そうた     まぁ。

おと       私も、言う気無かったけど、さやの力になれるかも、だから、聞いてくれる?

さや      

おと       ありがとう…それで、私、志望校落ちたんだよね

そうた     頭良いのに?

おと       中学の時、頭良い人とつるんでて、勉強のコツとか、そういうの、教えてもらって、そしたら一気に学力上がって、

             あ、私って頭良いかもって調子乗って。一緒にこの地域の1番の進学校に行こうねって言って、

             でも私、勉強してなかった。絶対受かるって思ってたし、わからない事があっても聞かなかった。

             他の人に迷惑かけたくなかったし、なんか、プライドが許さなかった…で、結果は散々。

             けど私、その高校に受かる未来しか見えてなくて、それ以外何も考えてなくて。落ちて落ちて、結局今いる高校に流         れ着いた。

あやね   

おと       それでそのまま、入学式だけ出て不登校。そんな高校通えなかった。だから、今着てるの中学の制服。

あやね    そうだったんだ

おと       私はさやと違う理由で学校にいってない。けど、その気持ちはちょっとわかる。それに人に迷惑かけたくないって気         持ちも。

さや       おと…

おと       だからさや、わかんないなら頼って良いからね。

さや      

おと       さ、次そうただよ。

そうた     え、俺?

おと       うん。

そうた     やっぱ俺に回ってくるよなー!!いやだ!

おと       なんで!今かんっぜんにそう言う流れだったでしょ!

そうた     いやだって、俺そんな大層な理由無いし!

おと       なくていいよ!何で不登校になったの!

さや       なんで?

そうた     んあー、もう。一言で言うと、めんどいから!

おと       え?

そうた     なんか、めんどいってか、嫌っていうか。俺は別に、学校のことで悩んだこともないし、人並みに友達もいた。

             普通に過ごしてたよ。でもさ、なんか、なんかなーって。学校に行かなくなったきっかけは、文化祭。

             最初はみんなで盛り上げよーとか言ってんの。何にもしないくせにな。俺も何もしてない側の1人。

             で、まあ俺のクラスは酷かったし、頑張って準備してた他のクラスは凄かった。文化祭終わって級長、

             みんなになんて言ったと思う?「みんなで頑張った時間は宝物です」って。正直気持ち悪いって言うか

おと       うん

そうた     そっからなんか、全部面倒くさくなって。俺は学校行ってない。はい、終わり終わり。

さや      

そうた     …でも俺は、さやと一緒に居て迷惑とか面倒なんて思ったことは一回もない

あやね    ほら、みんな迷惑なんて思ってないでしょ?私たちみんな、さやが頑張ってること知ってるよ

さや       …うん。さやがんばった。がんばったよ!

 

             おとがさやを抱きしめる。

 

おと       さやはえらい!ずーっとずっとよくがんばってた!!えらいよ!

さや       うん!

そうた     よくがんばったな

さや       うん!

 

             さやが泣く。そうたとあやねが近くで見守っている。

 

あやね    次は…私、かな?

おと       あやねは、来たばっかりだし無理しなくても…

あやね    いや、それが私みんなとだいぶ違ってて

さや       違うって?

あやね    私、不登校じゃないんだよね

おと/さや/そうた   えぇ!?

そうた     じゃあなんで?

あやね    私もよくわかっていないんだけど、なんか人違いらしくて…要するに校長のミスが原因で。

さや       じゃあ、帰らなかったの?

あやね    私も最初は帰ろうと思った。けど、みんなと会って…その…友達に…なりたいなって。だから、しばらくここにいても       いいかなあって。

おと/さや あやね〜!

 

             おと、さや、あやねの手を取る。

 

あやね    じゃあ気を取り直してやろっか!

さや       おー!

 

             さやがお花を作っていく。みんなでそれを見守る。

             途中でなつきが入ってくるが、みんな気づかない。

 

さや       できたー!!

みんな    やったー!!

おと       良かった良かった!

 

             さやの持っている花はとても綺麗とは言えない。折り目がたくさんありぐちゃぐちゃ。

            

なつき    みんな、何があったの?

全員       なつき!?/なっつー!?/校長?

なつき    さっきこのクラスの人が廊下走ってたって苦情が来たんだけど?

さや       あ、ごめんなさい!

なつき    まったく。一回校長室に呼び出し(て説教でもするか。)

おと       なつきー!!!!ごめん!!!一回出てって!

なつき    え!?

そうた     頼む、ちょっと出ろ!

なつき    なんで!?

さや       ごめんなっつー!出てって!

なつき    さやまで!?

全員       でーてーけ!でーてーけ!

なつき    えぇ…?普通に傷付くんだけど…

あやね    じゃあ一回校長室行こうか。どこか知らないけど

なつき    は、でかー!引っ張るなあ!助けて!

 

             なつき、大きなあやねに引きずられながら退場

 

そうた     どうする!?

おと       どうするもなにも飾り付けるしかないでしょ!?

さや       とにかく急ご!!

 

             三人で急いで飾り付ける

 

おと       できた…!

さや       さや、2人呼んでくる

 

             さやは舞台袖に行く。

 

             6 パーティ

 

             さや、急いで戻ってくる。遅れてなつきとあやねがやってくる

 

なつき    なに!?出てけっていったり、来いっていったり!?

 

             教室のドアを開ける。

 

三人       なつき/なっつー!いつもありがとう!

なつき    え?何これ。…「なつきに感謝の会」?

さや       そう!なっつーいっつも私たちのためにがんばってるから、なっつーのためにパーティーを開いてみた!

おと       さささ、主役は真ん中へ〜。

 

             なつきは真ん中の椅子に座らされ、パーティ用の道具を身につけさせられる。

 

あやね    じゃあみんなもう一回行くよー!せーの!

全員       なつき!/なっつー!ありがとう!

なつき    みんな…ありがとう!

さや       なっつー、これ。

なつき    何これ?お花…?

そうた     おう、感謝の気持ちを込めて作ったんだ

おと       なつき、いつもありがとう。

なつき    えー!ありがとう!!

さや       頑張って作ったんだよ!

なつき    うん、とっても素敵

おと       え、泣いてる?

さや       なっつー泣いてるの?

なつき    泣いてない!!そんな嬉しくて泣くわけ…

そうた     泣いてんじゃん

なつき    そんな、泣いてな…うわーん!!

 

             みんな笑いながらなつきをなだめる。和気藹々とした様子の中暗転。音楽。

 

             7 1人

 

             日が変わり翌日。場は変わらず教室。そうたとおとは教室にいる。

             教室は昨日のパーティのままである。

 

おと       …今日来るの、早くない?

そうた     んー

おと       なんで?

そうた     んー

おと       なに?

そうた     いや、なんか今日は早く行きたいなぁって。

おと       ふーん…遅いなぁ。

 

             沈黙

 

おと       …まだ、来ないのかな

そうた     …うん。

おと       ここやめちゃったのかな。

そうた     …そんな訳ないだろ!!

おと       でも、最後に感謝を伝えるためにパーティ開いたわけじゃん

 

             気まずい沈黙。あやねが入ってくる。

 

あやね    おはよう。

おと       おはよ。

そうた     はよー。

あやね    さや、いないね。

おと       きっと来るよ。

あやね    もうちょっとで授業始まっちゃうけど…

おと       え、ホントじゃん!

そうた     じゃあ遅刻?…でもそんなわけないし…

 

             ドアが開きなつきが入ってくる。妙に上機嫌だ。

 

なつき    みんなー!おはよう!!

みんな   

なつき    お、なんだ?この雰囲気は

みんな   

おと       …さやは。

なつき    うん、その事についてだけどね!

みんな   

なつき    コホン…さやは、ここを卒業した!

みんな   

あやね    じゃあ、さやは、もうここには…

なつき    どうしたの?卒業出来たんだよ?おめでたいじゃん!

おと       だってさやは、学校に行けなくなって…

なつき    さやは学校に行くから、ここを卒業したんだよ。

おと       え!?

なつき    昨日、さやから話があってね。パーティの準備で、みんなにはいろいろ迷惑をかけた。

             でも、それでも見捨てずに助けてくれるみんなのおかげで、人を頼っても良いんだって思えた

             元の生活に戻るのは難しいけど、ちょっとずつ学校に通うって

おと そっか…さや、卒業したんだ。

あやね    良かった。

そうた     パーティだな、パーティ!

おと       またやんの?

そうた     今日やんなくていつやるんだよ!

なつき    よし!みんなパーティするぞ!

そうた     ほらなつきもこう言ってんだしさ!

おと       もぉ…じゃあ準備するか!

あやね    おー!

 

             みんなは準備に取り掛かろうとする。

 

おと       今日の主役は誰にする?

あやね    主役なんて決めなくていいでしょ

そうた     あやねだろ!

あやね    え?

なつき    さやをやる気にさせたのはあやねだったんだって?

あやね    え?

おと       よし!じゃあ今日の主役はあやねだ!

そうた     あやねはさやのヒーローだな。

あやね    ヒーロー?はは、照れるなあ。

なつき    あやねがいたから、クラスが変わったのかもね。ありがとう、あやね。

あやね    いや、私は、なにも…

 

             照明が暗くなる。

 

あいか    ねえねえしほ

のあ       ねえしほ

あつのぶ しほ

くるみ     しほ

 

             みんなしほを呼ぶ。

 

しほ        わかったわかった!1人ずつね!

 

             みんなが静かになる。

 

しほ        あいか、どうしたの?

あいか    迷惑かけたくない

しほ        のあ、どうしたの?

のあ       受験どうしよ

しほ        あつのぶ、どうしたの?

あつのぶ めんどくさい。

しほ        くるみ、どうしたの?

くるみ     見た目だけなの。

しほ        わかった!みんな私にまかせて!

 

             みんなはしほをまるで神のように崇める。

 

しほ        大丈夫だから!

 

             みんなはしほを取り囲む。

 

しほ        大丈夫…だから…

 

             しほはしゃがみこむ。

 

あいか    あいか、みんなに迷惑かけたくなくて。

のあ       ねえ。私の受験どうしよ。

あつのぶ 俺はどうしたらいい。

くるみ     私は見た目だけで、どうしようもない…けど!でも!

みんな    しほがいるから!

 

             みんなはしほを呼ぶ。

 

しほ        うん。みんな…

 

             しほは立ち上がろうとするが立てない。

 

しほ        あー…もう、いいや。

 

             しほは立ち上がり、みんなの輪を壊す。

 

しほ        何が、何が、しほがいるからだよ!!私、みんなの話聞いてばっかじゃん!!私の悩みは!?誰も聞いてくれない!      友達との時間削って、全部優先してあげたのに!誰も私のこと見てない!!

 

             しほは舞台端まで歩いて行って

 

しほ        もう私のこと頼らないで。

くるみ     あれ、しほ?どこ?なんで、学校に来てないの?…しほがいたから、みんなと友達になれたんだよ。

             しほがいなきゃ、みんな救われないんだよ!…あ、そっか。しほも、見た目だけだったんだ。

             だから、私達の事捨てたんだ。そっか、じゃあ、私。

 

             くるみはさっきのしほの所に立つ。

 

くるみ     ホントのヒーローになる。私がみんなを救う!

あいか    君は見た目だけ

のあ       君じゃ無理だ

あつのぶ 君はヒーローにはなれない

みんな    君としほは違う!

くるみ     え…?みんな、なんで?何で、いなくなるの?

 

             しほはくるみの所に並んで

 

しほ        いつまで夢を見てるつもりなの?くるみ。

くるみ     夢…?あ、そっか!夢なら良いんだ!夢ならみんなを救えるんだ!!あっはは!私天才!そうだなぁ!

             しほ!しほは、校長にしてあげる!名前は、なつき!あいか!あいかは、みんなのムードメーカーさや!のあ!

             のあはそうだな、みんなに優しいおと!

             あつのぶは、明るくてちょっとおっちょこいなそうた!そして私は、転校生のあやね!みんなのヒーローになるの!         嬉しいでしょ!?

あいか    夢に逃げないでよ。

くるみ     …夢ぐらい、見てもいいじゃん。…じゃあ、おやすみ。

 

             舞台が真っ暗になる。

             照明が戻る。

 

あやね    …あれ?

なつき    どうしたの?

あやね    …私…

なつき    ん?

あやね    私…は…

なつき    え?

あやね    …くるみ?

なつき    え?あやね?

あやね    あれ?違う。私は、

なつき    あやね!どうしたの!

あやね    …そう。そうだよね。私は、佐野あやね。

なつき    そうだよ。どうしちゃったのさいきなり。

あやね    あはは、ごめんごめん。なんかぼーっとしちゃって。

なつき    もー!

そうた     おい!なーに話してんだ!

おと       もう準備終わったよー!

 

             なつき、あやね、目を合わせて、

 

なつき    ありがとう。

 

             なつきがあやねに手を出す。

 

あやね    …私こそ。

 

             あやねはその手を取る。

             あやねはみんなのところへ走り出す。その他は動きが止まる。

             まるで自我を失ったように、舞台を降りていく。

             舞台を降りて、みんなは客席に座る。

 

あやね    ていうか、そうた!パーティって何するの?

あやね    なんか別のにしようよ!

あやね    そうそう、そんな感じでさあ。

あやね    え、私ここ座るの?

あやね    待って、待って、これもつけるの?

あやね    え、なんか照れるなあ。

あやね    分かった分かった、ほら、これでいいでしょ。

あやね    似合う?それ、ほめてんの?
あやね    へっへーん!まあヒーロー?悪くない響きだねえ

あやね    あははは!

 

             あやねは1人でみんなと話している。

             まるでそこにあやねが救うはずのみんながいるかのように。   幕。