脱部屋 第7稿 のぐちしんご:作 三重高校演劇部:潤色 マサト 引きこもり。ニート。かつては社会人だったが、挫折。 ユジ  マサトの従弟。受験生。 エビハラ マサトの大学の後輩。 第一場 人ごみが流れていく。 テレビのニュースの音が重なって聞こえる。政治不信、外交問題、不況、いじめ・・・色色々なニュースの音声が聞こえる。当たり障りのない程度で実際にあった問題のニュースも伝える。その中で、ある問題を取り上げるニュースの音声がどんどん大きくなっていく。 引きこもりの問題を伝えるニュースだ。 人ごみが途切れ、明るくなる。 一人の青年の汚い部屋。青年がその部屋で寝ている。部屋のテレビではニュースがやっている。引きこもりについてのニュースで、コメンテーターが意見を述べている。 ニュース 次は特集です。最近大きな社会問題となっている、中高年ニート・引きこもり についてです。不登校や退職などをきっかけに、若者の頃に引きこもりやニートになった人が長期化するケースが増えています。内閣府が2010年に行った15歳から39歳を対象にした引きこもり調査によりますとその数は全国で推計70万人ということでした。しかし有識者の間から40歳代以上の引きこもりの数が増えている言う声を受け、2018年度は新たに40〜59歳の引きこもり者の数を調査することになりました。ニートひきこもり問題に詳しい、東都大学の黒田正文(まさふみ)教授の言葉です。 黒田教授 若いうちに働けない人は、もう中高年になっても働けないんです。結局親が生      きているからそれなりに生活できるだけで、将来的には生活保護に依存するよ      うになります。ですからこれを放置しますとものすごく大きな社会的コストが      生まれわけです。まずは、働ける人には働いてもらう、それが一番大切なこと      です… マサ 何だよ、テキトーな事ばっかり!。 マサトがテレビに空き缶を投げつける。 マサ 誰も好きこのんでニート何かにならねんだよ。えらそうに、勝手なことばかり抜    かしやがって。あ〜あ〜〜。    ゴロゴロしているマサトの元に、電話がかかってくる。スマホの画面を見た後、電話を取る。 マサ もしもし・・・ エビ だ〜〜れだ!! マサ ・・・・・ エビ だ〜れだ!! マサ エビハラ。 エビ ピンポン!ピンポン!よく分かりましたね先輩! マサ 『だ〜れだ!』じゃないよお前は・・・     花道にエビハラが現れる。 エビ 2年ぶりなのによく分かりましたね! マサ ケータイの着信画面見れば分かるだろ。何で突然かけてきたの? エビ 連絡取れて良かった〜〜。いやあ先輩がもう一年も引きこもりしてるって、聞い 心配して・・・ マサ はあ?誰に聞いたの? エビ タナカ先輩です マサ あのお喋り豚・・・ エビ 何です? マサ いやあ、何でもない。 エビ マサト先輩が突然塾講師の仕事辞めたのは知ってたんですが、まさか引きこもりし てるとは・・・。知ったのは先週なんですけど、忙しくて連絡取れなかったんです。 でも本当、早く連絡したくて、心配で気が気じゃなくて・・・。 マサ あ〜心配かけてごめんな。俺は大丈夫だから・・・。 エビ でも大丈夫なら、何でニートのままなんですか?職探ししないんですか? マサ そ、それは余計なお世話だよ! エビ 確かに復職は難しいかも知れませんが・・・そうですね・・・この際、夜のお仕事 なんてどうです? マサ はあああ?? エビ 先輩って顔はまあまあイケるから、ホストなんて結構いいかも知れませんよ??『お    姉さん、最近どうなんだい?お仕事忙しい?今夜はここで思う存分息抜きしてけよ    。いいんだぜ、もっと甘えたって・・・・』みたいな?くう〜〜〜ドンペリ空けち    ゃう!! マサ ・・・切っていい? エビ そうだな〜〜別のパターンだけど美容師とか?『奥さん、今日も俺がもっともっと 綺麗にしてあげるよ・・・」 サト、エビハラに構わず電話を切る。花道の照明も消えて姿を消すエビハラ。 しかしすぐに再び電話がかかってくる。 エビ  やだなあ!怒らないで下さいよ先輩・・・ マサト再びすぐに電話を切る。が、すぐに再び電話がかかってくる。それもすぐに切る マサト。だが、やはりすぐにまた電話が鳴る エビ せんぱ・・・・ 一瞬で電話を切るマサト。 マサ あいつ本当に心配してんのかな・・・。 しかしまたすぐさま電話が鳴る。 マサ ・・・・・。 電話をとるマサ マサ ぬ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!(電話に口を当てて大声で) そのまま電話を切るマサ。 マサ 流石にこりただろ。 その頃、黒い大きめの手提げかばんを肩にかけたユウジが玄関に来て、チャイムを鳴らす。 チャイムの音に驚くマサト。 マサ えええ・・。ストーカーかよあいつは・・・。     部屋をあさり、武器になりそうなもの(何でもいい)を取り出す。 マサ 開いてますよー。どうぞー。 ユウ おじゃましま・・・ マサ くおおおおらあああ!!いい加減にしろストーカー!(殴りかかる) ユウ うわああああああ! 逃げるユウジ。 マサ あれっ!ユウジ?ユウジか?ごめん!大丈夫、大丈夫だから! ユウ 何なんだよもう・・・。久しぶりに会う従弟に殺されかけるなんて・・・。 マサ ごめん、ストーカーと間違えてさあ・・・ ユウ マサト兄さんストーカーいるの?それ大丈夫なの? マサ 大丈夫。相手男だから。 ユウ 男!?ますます心配だよ。 マサ 大丈夫。好きとかそんなんじゃないから。 ユウ ほんとに大丈夫なのか・・・? マサ ほら、上がって上がって。 ユウ おじゃましまーーす・・・うわー散らかってる・・・ラッキョウみたいなひどい匂 いもするし。 マサ うるせーよ。 ユウ それにしても久しぶりだなあ兄さん。一年半ぶりぐらい? マサ そうかも。何かあった?突然訪ねて来て。 ユウ いやあ、文化祭の関係で近くまで買い出しに来てさ。今日はその帰り。 (カバンを見せる) マサ ふうん。 ユウ で、せっかくだから兄さんに会おうって。 マサ なるほど。 ユウ でも驚いたな。平日だからダメ元だったんだよ?仕事で多分いないだろうなって。 マサ ・・・ああ、し、仕事ね・・・今日は休みだったんだよ。 ユウ でも安心したよー。兄さんが仕事続いてるみたいで。 マサ まあ・・・ね ユウ 就活してる頃なんて本当に心配してたんだよ?なかなか内定も貰えないし・・・ マサ あーうん・・・。 ユウ それが今や立派な大手塾講師だもんなあ!「マサトも今や立派な社会人!しっかり独り立ちしてくれた。誇らしい」って叔父さんも喜んでたよ。 マサ …あーーーあのさ。お茶でも入れようか? ユウ そんな!いいよー。お構いなく。 マサ 遠慮すんなって。うーん何か甘いものでもあったら良いんだけど、今は切らしてる    なあ。 ユウ 良いよ。気にしないで。コーヒーだけでいい。 マサ ガムシロップならあるけど、舐める? ユウ 舐めねーよ。 マサ コーヒーにガムシロップ3つつけとくわ。(取り出そうとする) ユウ いらねーよ! マサ 何だよ!ガムシロップ馬鹿にすんなよな!俺が大学生の頃、お金がない時はガムシ    ロップとクリープ舐めて飢えをしのいでたんだからな! ユウ それ凄いな!おい! マサ 冷蔵庫の中に何か・・・あーダメ。確かもう氷しかもう残ってなかったはず ユウ 逆にどうやったらそんなにカラッポになるの。 マサ ゴメンなコーヒーだけだけど・・・ほらどうぞー。 ユウ 頂きまーす。うわーカップもラッキョウくせえ。 マサ うるせーよ ユウ、コーヒーを吐き出す! ユウ 甘っ!!なんだこれ!甘っ!!砂糖何杯いれたんだよ! マサ えー・・・十一杯 ユウ 馬鹿じゃないの?誰がそんなに入れろっつたよ? マサ いやあ学園祭の準備で疲れてるかと思って・・・疲れた時は糖分だろ?従弟からの    優しい心遣いだよ。 ユウ ありがた迷惑だよ・・・ マサ 分かったよ・・・入れなおすから・・・ ユウ 頼むよ〜 マサ でも勿体ないから・・・(ユウジからカップを受け取ると一息で飲み干す) ユウ うわあ・・・ マサ (ユウジの新しいコーヒーを淹れながら)それで、最近勉強はどうなの?    受験生だろ? ユウ 勉強は・・・まあいいよ。そこまで成績も悪くないし・・・だけど勉強以外の事が    忙しくって。 マサ 勉強以外? ユウ 学園祭の準備だよ。毎日周りから頼られちゃってクタクタでさ。今日は気分転換 に買い出しに行くって言って抜けて来たんだよ。 マサ 懐かしいなあ、文化祭。三年生は模擬店だろ。何作るの? ユウ 煮込みハンバーグ。 マサ 濃いなオイ! ユウ ちなみに隣のクラスはグラタンです。 マサ 濃いなオイ! ユウ 煮込み具合とか全然分かんなくてさあ・・・ マサ めっちゃ喉が渇きそうな学園祭だな・・・ ユウ しかも俺、学校の方の実行委員もやっててさ。。今日オープニングセレモニーの準備 で買い物ってわけ。 マサ そりゃあ忙しいかもね。 ユウ 軽い気持ちで2つ引き受けちゃったんだけど、ちょっと後悔してますね。誰もしっ かり仕事してくれなくて。 マサ そういうもんかもねえ(新しく淹れたコーヒーに砂糖を入れ始める) ユウ クラスの奴ら準備もせずにカバディばっかりして遊んでるんすよ! マサ カバディ?(砂糖を入れ続けている) ユウ そうなんすよ!教室の隅を陣取って、あいつら、カバディカバディカバディ・・・    (カバディの真似しつつ)・・・・って聞けよ! マサ (砂糖を入れるのに夢中) ユウ おいちょっと待て!おい馬鹿止めろ!その砂糖止めろ!何杯入れてんだ! マサ ゴメン、何杯ぐらいいけるか気になっちゃって・・・はいどーぞ(そのコーヒーを    そのまま出す) ユウ こんなのもはやコーヒーじゃねえよ! マサ 淹れなおす? ユウ いいよ・・・勿体ないし・・・ウワー砂糖でジャリジャリする・・・無理だこれ マサ ・・・・ ユウ 兄さん マサ 何? ユウ 今日、俺がここへ来た用事なんだけど…俺の悩み聞いてくれる? マサ 何だよ、改まって。聞いてやるよ。 ユウ ありがとう、兄さん。実は俺、将来が不安なんだ マサ 何が? ユウ この先どうなっちゃうんだろうって…。 マサ … ユウ 勉強してさ、大学に入って、その後就職して・・・。でもさ、俺って別に今就きた    い仕事とかないしさ。夢もこれと言ってないし・・・。 マサ ・・・。 ユウ だいたい働くって感覚がよく分からない。何のために汗水垂らして働くんだろう。    みんな金のためだけに働いてんのかな・・・。 マサ ・・・。 ユウ そういうの分かんなくてさ。だから今、働いている兄さんに話を聞いてみたくて・・・ マサ ・・・そうだなあ。俺もそんなたいそうな事は言えないけども・・・何もお金のた     めだけに働いてるわけじゃないよ ユウ そうなの? マサ 働いているとな、ああ、俺はちゃんとこの世界の一部になってるって感覚がするん だよ。オレが働くことで喜んでくれる人がいる、助かる人がいる…。そう思うと「俺    って人の役に立ててるんだな!必要とされてるんだな」ってすごい充実感を感じる    わけよ。 ユウ へえ〜(尊敬) マサ これはニートや引きこもりみたいな、働いてない人間には決して味わいようのない 充実感と言えるな・・・。この充実感のためには働いていると言っても過言でないな。 ユウ すごいなあ!そんな感覚、思いもよらなかった!流石だよ!すげー兄さん!やっぱ り真面目に働いている大人は違うよ! マサト フフ…まあな ユウ よし!俺も頑張って勉強して兄さんみたいに就職するぞ! マサト ハハハ…そうしたまえよ…。 呼び鈴がなる。 マサ うん?誰だろこんな時に。人が気持ちよく口から出まかせ言ってる時に。 ユウ ・・・今、口から出まかせとか言わなかった? マサ 気のせいだろ?はいはいどなた? ドアを開けるとエビハラが立っている。 エビ 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃギャアーーーー! マサ (ドアからエビハラをしめだす)呼んでねえよクソッタレ! エビ 痛い痛い!挟んでる挟んでる! マサ いいからさっさと帰れ! エビ 何で中に入れてくれないんすか?? マサ 今お客が来てんの! エビ お客??女の子?女の子ですね?隠れて彼女作っていちゃいちゃしてたんでしょ。私も混ぜて下さいよお! マサ 違うわ!従弟!従弟が来てんの!普通に男だよ! エビ またまたそんな事言って・・・痛っ!痛いって! ユウ 何してんの兄さん。誰か来てるの?早く入れて上げなよ。 マサ お前なあ・・・くっそ〜。(ドアを開ける。あくまでユウジに言われたから) エビ あー助かった・・・。うわあ凄く散らかってますねえ・・・。ラッキョみたいな    ひどい匂いもするし・・・。 マサ みんなそう言うよね!俺ラッキョなんて食ってなんだけどね! エビ であれ?彼がお客さん? マサ そうだけど エビ んだよ!本当にヤローじゃねえかよ! ユウ 何この腹立つ人。 マサ こいつ大学時代の後輩。海老原トモキ。先輩先輩って、スリよってたかってくる調 子のいい奴。 エビ そんな先輩人聞きの悪い〜。それで君、先輩の従弟だって?名前は? ユウ 池井戸です。池井戸ユウジ。マサト兄さんの従弟に当たります。 エビ ふうん。インドユウジ君か! ユウ 池井戸だよ。なんでインドなんだよ。勝手に略してカレーの国っぽくしてしてんじ ゃねーよ。 エビ で、何?インド君はインド出身なのかな? ユウ 話聞けよ。 マサ それで何しに来たの? エビ そう!それなんですよ!勿論!先輩の事が心配で顔が見たかった、と言うのもありますが、実は特大のビッグニュースがありまして! ユウ 心配・・・?心配って何の話?兄さん? マサ いや!それよりも何なのそれ?ビッグニュースって何なんだよ? エビ  聞きたい? マサ ・・・聞きたい・・・。 エビ ・・・言いますよ・・・ マサ ・・・・。 エビ ・・・・俺に マサ&ユウ 俺に? エビ 俺に! マサ&ユウ 俺に? エビ 俺に!! マサ&ユウ 俺に?! エビ 彼女ができたあああああああ!いえええええええい! マサ&ユウ 帰れ!!! マサトとユウが思いっきりエビハラをどつく。吹っ飛ぶエビハラ。 ユウ いやでも・・・こんなムカつくクソヤローに彼女ができたってのはある意味ビッグ ニュースかもな エビ そうですかあ?エヘヘヘヘヘヘヘヘヘ! マサ&ユウ 褒めてねーよ エビ それでね〜。先週彼女と旅行に行ってきて〜〜〜。そのお土産を先輩に上げよう と思って。 マサ ああ・・・そりゃいいね エビ インドくんにも分けてあげるよ ユウ 池井戸ね。名札とか付けといた方がいいかな? マサ どこに行ってきたの? エビ 熱海で温泉っす ユウ 熱海で・・・温泉・・・ マサ なんかちょっとハレンチだなあ。 エビ はいこれ、熱海名物、温泉まんじゅう。 マサ ありがとう エビハラ。温泉まんじゅうの箱をさっと遠ざける エビ はい見せるだけ〜。実は先輩に上げる分買ってき忘れました〜。    数足りません〜 ユウ 何しに来たんだお前はよお! マサ 先週忙しかったって言うのは旅行に行って来たから? エビ まあそうですけど〜 マサ 俺の事が心配で気が気でなかったってのは何だったんだよ? エビ 心配してましたよー。懐石料理とか食べながら! マサ それ全然心配してないだろ! ユウ 心配・・・? エビ ああ、池井戸君!聞いてくれよ! ユウ だ〜か〜ら!俺の名前は池井戸じゃなくてインドだって言ってるだろ! 間。 マサ&ユウ ・・・・・アレ? ユウ ・・・分からなくなってきたんだ。さっきからインドインド言われるから、もしか して俺の名前は池井戸じゃなくて元からインドだったんじゃないのかな?分からな くなってきた・・・。 マサ ユウジー!気をしっかり持て! エビ まあ、どっちでもいいよね ユウ よくねーよ エビ まあ聞いてくれよ池井戸君。先輩ったら、去年の秋に仕事辞めて以来、未だに    復職もしてないんだよ。ずっと引きこもり状態 ユウ ・・・・・えっ エビ 聞いた話によると必要にかられないと、部屋から出ようともしないんだって。 ユウ ・・・・。 エビ 流石の俺も心配になってさ、様子を見に来たわけですよ! マサ だからお前は心配しなんててないだろ! エビ 心配してましたよ〜。熱海でカノジョとワインで乾杯しながら! マサ それ全然心配してないだろ! エビ とりあえず、元気はあるみたいですね。もっと意気消沈してるのかと思いましたが・・    その点は安心しました。もし復職したいなら、いつでも手は貸しますよ。池井戸君、    君もお兄さんの社会復帰を手伝ってあげてね! ユウ ・・・。 エビ それじゃあ、俺は今夜、合コンあるんで帰りますね。また連絡しますから!アディ    オス! エビハラ、帰っていく。 ユウ ・・・・・・。 マサ ・・・・・・・。 ユウ ・・・・・・・・。 マサ ・・・・あいつ彼女がいるのに合コンいくのか ユウ ・・・・・・。 マサ ・・・・・・・。 ユウ 仕事、辞めた? マサ ・・・・・・・。 ユウ 去年の秋から引きこもり? マサ ・・・・・・・。 長い沈黙。 マサ ユウジ、甘いもの食べる? ユウ なにもないんでしょ? マサ ガムシロップならあるけど ユウ 舐めねーよ。 間。 ユウ あ〜あ!俺、学校戻りますね。何が「必要とされる充実感」だ。 マサ お願い!この事は親父には言わないで! ユウ 無理ですよ。親戚の兄ちゃんがニートで引きこもりだなんて見過ごしておけません。 マサ そ、そんな! ユウ それで、引きこもって、なんです?毎日ゲーム三昧とか? マサ わ、分かるんだ・・・? ユウ どうせまたソシャゲで不毛な周回プレイとかしてたんでしょ。何度も何度も飽きも    せず同じゲームをプレイ。 マサ よ、よく分かるね〜。 ユウ 同じゲームを何度も周回なんてどこが楽しいんですか? マサ し、仕事よりはマシじゃない〜 ユウ 今までの生活費は?貯金切り崩してやりくりしてたわけ? マサ まあそれもあるけど…メルカリって便利だなあ。社会人になってから買った電化製 品とか家具とか結構売れちゃって…。 ユウ だいたい何で仕事辞めたんですか? マサ だって塾講師だよ?居酒屋、コンビニに並ぶ三大ブラック業界だよ。生徒の成績が 落ちれば、上司からも、親からも厳しい目で見られ、勿論生徒だって俺の事なんて 信頼しなくなる!毎日がプレッシャーでもう耐えられれなくてさ! ユウ まあ言いたい事は分かるけど… マサ で、でしょーーー?(だろーー?でもアリ) ユウ でもそれとこれとは話が別!しっかり報告させて頂きます! マサ そ、そんな!お願い!この通り!ほら、ガムシロップ上げるから! ユウ 舐めねーよ!     その時ユウジのケータイが鳴る。 ユウ ・・・もしもし?何?看板のパネルの作り方が分からない?おいおい、ちゃんと    俺が出る前に指示したろ?文化祭まで後3日だぜ?頼むよ・・・。 ユウジの長電話が始まる。そんな中マサトによからぬ考えが浮かぶ。 ユウ だから、縦1メートル、横50センチでさあ・・・。メジャーでそれぐらい    計ってよ・・・。     金槌を取り出して、部屋の扉に釘を打ちつけ始めるマサト。 ユウ 何か後ろ聞き取り辛いな・・・さっきから後ろでカバディカバディ言ってる奴ら黙    らせろよ!・・・・(電話から口を話してマサトに)さっきから変な音しない? マサ (とっさに自分の作業を隠す)さあ?裏の工事現場の音じゃあないかな? ユウ ふうん・・・。    ユウの長電話再開。マサトも作業再開。 ユウ それで、ペンキで色を塗ってさ・・・。ペンキの場所分かるよね?・・・(電話から口を話してマサトに)さっきから変な音しない? マサ (とっさに作業を隠して)アレじゃない?キツツキ。 ユウ キツツキ?? マサ この辺り、多いからキツツキ。 ユウ マジで?!多いの?キツツキ! マサ 多いよーキツツキめっちゃいるよ〜キツツキ〜 ユウ なら良いけど・・・。 ユウジまた電話再開。マサトも作業再開 ユウ やっぱり変な音しない?ガンガンガン・・・って マサ ああそれね、俺の腹の鳴る音。お腹空いちゃって・・・。 ユウ マジで?! マサ よく「変わってるね」って言われんだよなあ〜。 ユウ いや、それはねえだろ!何を隠してんだ!そこ! マサ 何のハナシかな?何か隠してるなんて人聞きの悪い・・・。 ユウ いいからどけ! ユウジ、ケータイを置いてドアの方へ。ドアは釘できっちりと閉じられてしまって いる。 ユウ 何だよこれ?なんてことしやがる!これじゃあ出られないじゃん! マサト、無言でユウジのケータイをつまみ上げる。そろそろと窓を開けるマサト。 ユウ 何でこの部屋、釘と金槌なんてあるんだ。くっそー!開かない!兄さん、何でこんなこと・・・(マサトの方を見る) マサト、携帯をまさにベランダの外へ投げようとするところ。 マサ 森へお帰り!(勢いよくケータイを窓の外に投げつける) マサト、勢いよくケータイを窓の外に投げつける。 ユウ あああああああああああああああああああああ!! マサ ・・・・。 ユウ 何てことしやがる!ああああ!まだ新しいんだぞアレ! マサ 何って、森へお帰り? ユウ うるせーよ!・・・なんだよ!いったい何なんだよ!俺を監禁して何がしたいんだよ!・・・ハッ!まさか兄さんにそっち系の趣味が!?大丈夫かなあ。俺、兄さんの要求に答えられるかなあ・・・・。 マサ 何勘違いしてんだ!俺の要求はただ一つ!俺が引きこもりしてるって事を親に言わないって約束すること!。 ユウ 馬鹿言うなよ!そんな事約束できるか! マサ だったら出す分けにはいかねえな! ユウ 何だよ、自業自得じゃないかよ。大体、どんな職場だって苦しい事はあるだろ。それを改善しようともせずに辞めて!情けない! マサ ち、違うもん違うもん!(突然の駄々っ子)本当はしっかり夢があって、その夢を実現するために将来を見越して仕事辞めただけだもん! ユウ ・・・じゃあ何だよ、その夢って? マサ ・・・・・・・・。 ユウ ・・・・・・・・。 マサ ま、それはさておき・・・ ユウ やっぱりねえじゃねえか! マサ 違うもん!夢ならちゃんとあるもん! ユウ じゃあ何だよ。夢って。 マサ ・・・逆・・・玉の輿? ユウ ただの妄想じゃねーーーかよ!働けーーーー! マサ 何だとコラ!さっきから聞いてりゃ好き勝手ぬかしやがって! ユウ ああ? マサ お前こそ夢なんてないんじゃないのか?さっき言ってたもんな、将来やりたいこともとくにないって・・・。 ユウ ち、違うもん、違うもん!(突然の駄々っ子)本当はしっかり夢があるけど、姉さんには言いうのが恥ずかしかっただけだもん! マサ じゃあ、何、夢って。 ユウ 広瀬すずと結婚・・・・ マサ 男の邪な妄想じゃねえかよ! ユウ いいから出してくれ!部屋から出してくれ!お前のケータイ貸すか、くぎ抜きもってくるか、どっちかにしろ! マサ いやだね! ユウ 出せ!  マサ 出さない! ユウ 出せ! マサ 出さない! ユウ 出せ! マサ 出さない! ユウ 出せ! マサ 出せ! ユウ 出さない! マサ 出せ! ユウ 出さない! マサ 出せ! ユウ 出さない! マサ だ〜から出せって言ってんだよ!! ユウ 出さない!絶対出してやらないからな! 間。 マサ&ユウ ・・・・・アレ? ユウ な、ならば力づくで出てやる!ドアが開かなくても、窓から直接助けを呼べばいい! マサ フフフフフ・・・ハハハハハハハ・・・ハーーーーッハハハハハハア!!! ユウ 何だよ。 マサ 果たして窓に近づく事ができるかな?高校時代、俺がバスケ部だったのは覚えているな? ユウ ・・・ああ。 マサ 俺のディフェンスは天下一品だった!NBLでも通用するディフェンスと言われてたり。言われてなかったり! ユウ どっちだよ! マサト 実際は5月でやめました! ユウ 全然進歩してねえじゃねえか! マサ とりあえず窓は私ががっちりガードしている!うぬが窓にたどり着くことなど出来ぬわ! ユウ じゃあ長期戦だ!あんたが疲れた時を見計らって脱出してやる! マサ ほお〜〜〜面白い!受けて立つ! ユウ はい!こっからここ俺の領土!絶対入ってくるなよな! マサ あ!そうきたか!それじゃあここからここは俺の領土!ユウジこそ入ってくるんじゃねーぞ! ユウ 指一本でも入ってくるなよ! マサ そっちこそ入ってくるなよ!? ユウ ・・・・・がるるるるるるるる!(睨み合って番犬の真似) マサ ・・・・・がるるるるるるるる!(負けじと唸る) ユウ ・・・・・ぐるるるるるるるるる! マサ ・・・・・ぐるるるるるるるるる! マサ&ユウジ がるるるるるるるるるるるるるる!! 暗転。脱出のための二人の攻防が始まる。 明るくなると睨み合ってる二人。ユウジが動くとマサトがそれを絶妙にブロック。 マサトの動きはバスケっぽい。二人の動きがどんどん激しくなってくる。いつの間にか 二人の動きは完全にバスケのそれ。ユウジはドリブル。そしてマサトのディフェンスを 振りほどいたユウジがダンクシュートのマイム。 ユウ イエーーーーイ!シュート!ひゅーひゅー! マサ くっそ〜〜〜〜。 間 マサ&ユウ ・・・・・・アレ? 暗転。 夜。闇に紛れてユウジが窓に向かおうとする。ゆっくり・・・ゆっくり・・・。その瞬間 懐中電灯が点く。暗闇に照らされるマサトの顔。驚いたユウジが転げ落ちる。ニヤニヤ と笑うマサト。懐中電灯は消える。 時間の経過を示すBGM マサト、暗闇の中で目を覚ます マサ ヤバい・・・寝てた・・・。ユウジ?ユウジ? 返事がない。 そのうちに、煙のようなものが立ち込めてきているのに気づく。 マサ ・・・煙? ユウ 火を点けたんだ。 暗闇の中からユウジが現れる。手にはマッチ箱。 ユウ マッチを見つけた。火を点けた。もうヤバいよ。煙を吸って死んじゃうかも。 マサ えっ・・・ちょっと待って。何言ってんだお前? ユウ だから火を点けたって言ったじゃん。 マサ はあ?信じらんねえ!何してんだよ! ユウ 俺はどうしてもここから出たいんだよ。強硬手段だ。 マサ 何に火を点けた?火の元はどこだよ?早く消さねーと! ユウ 何に火を点けたかは教えない。この汚い部屋のどこかだろうな。 マサ えええ・・・ ユウ 火の元を見つけ出した時には、もう手遅れだろうね。火は広がってる。消防車も間に合わない。消防車が着くころには既に大量に煙を吸って気を失ってるかも。 マサ 何てことすんだよ! ユウ 助かる方法は一つ。窓から飛び降りる。 マサ はあ? ユウ ここ2階だろ?きっと大した怪我にはならないさ マサ お前、俺が高いとこ怖いの知ってんだろ?ひどい。ひどすぎる。ほんとに飛ばなきゃダメ? ユウ 時間はないよ兄さん! マサ 何だよそれ〜 ユウ ほら早く! マサ 俺の・・・俺の安らぎの空間が・・・最高に快適な俺だけの引きこもり空間が・・・。 ユウ 早く!飛ぶよ! マサ 分かった!分かったから!飛べば、飛べばいいんだろ!飛べば!さらばマイルーム!さらば我が愛すべき引きこもり空間!ニートの城! ユウ 兄さん!(マサトに手を伸ばす)さあ1、2の3で行くよ! マサ くっそ〜〜〜 ユウ 1、2の・・・・3!今だ!飛べ―!    窓から飛び降りる二人。地面に転がり落ちるが大した怪我はない。 マサ はあ・・・はあ・・・怖かった・・・。 ユウ 怪我はない? マサ だ、大丈夫・・・大丈夫・・・だけど・・・あ!早く消防車呼ばないと!他の部屋      に燃え移っちまう! ユウ 大丈夫大丈夫。 マサ 大丈夫って・・・何でそんなに余裕なんだよ! ユウ 火なんて点いてないから。 マサ ・・・・はあ??? ユウ スモーク焚いただけだから。 間 マサト スモーク? ユウ 俺学園祭の買い出しに寄ったって言ってだろ。 マサト うん。 ユウ 買ったものの中にスモークマシンがあってさ。それでスモーク焚いて芝居売ったわけ。そんな煙じゃ普通は騙せないけど、寝起きでぼおっとしてた兄さんにはうまくだませたみたいだな。 マサ ひどいなお前・・・騙したのか・・・ ユウ 兄さんも引きこもりを隠して俺を騙してたんだからお相子だよ。 マサ 二階から飛び降りさせることはないだろ! ユウ そうでもしなきゃ兄さんが部屋から出ないでしょ。 マサ えっ? ユウ 兄さんと一緒に出たかったんだよ、俺は。 マサ ・・・何だよ。 ユウ 兄さん、俺が学園祭の実行委員をしているのは、決して押し付けられたからじゃな   い。自分で立候補したんだ。 マサ ・・・。 ユウ そりゃあ、めんどくさいし、みんなに指示を出してまとめるのは難しい。でも他人と話すのは一人よりもずっと楽しいんだ。俺が実行委員に立候補したのは、色んな人と話せるからに他ならない。めんどくさいけど孤独じゃないんだ。 マサ ・・・。 ユウ 兄さん、仕事も人間関係も、めんどくさいよ。クソだよ。でもそれ以上に楽しい瞬間だってあるだろ? マサ そ、それは・・・ ユウ もう外に出ようぜ、兄さん。 マサ ユウジ・・・。  ユウ 今日一日どうだった?人といっぱい話して楽しかったんじゃないのか?引きこもりで全く外に出ず、人と絡まない日より楽しかったんじゃないのか?どうなんだ、どうなんだよ兄さん!引きこもって丸一日ゲームしてるのと、今日一日俺やエビハラさんと・・・他人と過ごしたの、どっちが楽しかった?教えてくれよ、兄さん。 マサ ・・・・・・・・。 ユウ ・・・・・・・・。 マサ ・・・・・・・・・。 ユウ ・・・・・・・・・。 マサ (めっちゃ考え込んでいる) ユウ 考え込むんじゃねえよ!! 二人がまた言い争いを始める。しかし二人ともどこか楽しそうだ。BGMが高まり、幕。 28