第７回南勢地区合同演劇祭 参加作品
１２月２０日（土） 皇學館中学校セミナーホール上演
夕暮れに猫を釣る
山田 淳也 作
潤色 三重高校演劇部
上演団体 三重高校演劇部
２０２５年１２月１４日稿
登場人物
・マチ子
・釣り人
・猫（最強）
・清ちゃん＆やくざ猫
天：現代、１０月下旬くらいの気持ちのいい秋の夕方
地：住宅地の中の２階建ての１軒家
人： マチ子(高校生)、釣り人、猫、清ちゃん、やくざ猫
この劇を一言でいうと
内気で変化を好まない主人公が、釣り人や猫の行動に戸惑いながらも、最後は魚を受け取り、猫を飼うようになる話
テーマ
世界はそれを受け入れることで、変化する。
※この劇は３人で上演しましたが、４人いた方がよいです.
ちゃぶ台だけが置かれた部屋に、ふすまを開けてマチ子が入ってくる。
居心地の良い２階の部屋。
ちゃぶ台の上にスマホを置き、その前で文庫本を読み始める。
遠くで救急車の音。
マチ子はあまり気にせず本を読み続ける。
突然ふすまを開けて釣り人が入ってくる。
マチ子 え？
釣り人 え？
マチ子 あの、えーっと
釣り人 はい
マチ子 家、間違えてませんか？
間
釣り人 はい？
間
釣り人とマチ子 え？
間
マチ子 私が間違えてるんですかね
釣り人 何の話ですか
マチ子 はは、え？
釣り人 あ、はいはい、なるほど
マチ子 ん？
釣り人 落ち着いてください。わかりました
マチ子 はあ
釣り人 あなたはこの家の人ですね？
マチ子 ….そのはずです
釣り人 僕は違います。
間
マチ子 怖いですよ
釣り人 待って待って
マチ子 来ないでください
釣り人 話聞いて
マチ子 ヤダ、警察呼びますよ
釣り人 ちょちょちょ
電話に近寄ろうとするマチ子を必死で回り込む釣り人。
マチ子 なんなんですかもう
釣り人 いや、僕は釣りに来ただけで
間
マチ子 は？
釣り人 だから、釣り
間
マチ子 警察呼びます
釣り人 ちょちょちょ待って待って
マチ子が電話を取ろうとするのを必死で止める。
釣り人 ほんと、怪しいもんじゃないんで！
マチ子 怪しさしか感じないんですよ！
釣り人 いや、釣ったら帰るんで！
マチ子 釣ったらッて、ここどこかわかってます？
釣り人 民家
間
マチ子 （窓を開けて）おまわりさーん
釣り人 だめだめだめ
電話を取って警察にかけようとするマチ子。
釣り人 ええい
釣り人はマチ子の首をトンってする。
マチ子 あう
マチ子倒れる。
釣り人 あ
釣り人はマチ子を揺り動かす
釣り人 大丈夫？
マチ子 （首を押さえながら）大丈夫ですけど
釣り人 ごめん、つい
マチ子 いや、ほんとわけわかんなくて
釣り人 あのー、すぐ帰るんで、ほんとに。ちょっとだけ
マチ子 いやいや
釣り人 すぐ帰る。すぐ。
マチ子 じゃあ今すぐ帰ってください
釣り人 えーそんなひどい
マチ子 どっちがですか？
釣り人 何が嫌なの？
マチ子 少しも意味わかんないのが嫌なんですよ
釣り人 、、、、あ、そう
マチ子 何なんですかほんとに
釣り人 わかりました。じゃあ
釣り人は出ていく
荷物はそのままベランダに置かれている
マチ子 一応通報しようかな
マチ子はスマホに手を伸ばすがためらう。
そうこうしていると、再び釣り人が入ってくる。
マチ子 わっ
釣り人 わっ！いきなり大きい声出さないでくださいよ
マチ子 な、なんで
釣り人 なんでって、ま、いいや、どうぞ
マチ子 え？
釣り人はマチ子に三ツ矢サイダーを渡す
釣り人 三ツ矢
マチ子 いや、いいですよ
釣り人 まあまあそういわず
マチ子 いや、ほんとに
釣り人 いいからいいから
マチ子 なんなんですかもう
釣り人 せっかく下行って買ってきたから
マチ子 これがどうしたんですか
釣り人 どうか、これで！今日の晩飯がかかってるんだ！
マチ子 これで…
間
マチ子 …もういいですよ
釣り人 え？
マチ子 釣ったら？帰ってください
釣り人 やった（わたす）
マチ子 はあ（受け取る）
釣り人 釣ったら一匹あげよう
マチ子 はいはい
釣り人は窓から外を見渡す。マチ子はサイダーを飲む
釣り人 思った通りです。ここはいい場所だ
マチ子 はあ
釣り人 下から見てね、ピンと来たんですよ。あの二階のベランダ！って
マチ子 やめてくださいよ
釣り人 この辺はいい釣り場が多いですから。
マチ子 ……
釣り人 おお、いるいる。
釣り人は窓からのぞき込む。観客たちは魚となる。
釣り人 電柱のあたりに、ほら
マチ子 ……
釣り人 …さてと、
釣り人は釣り竿を観客席の方に振り、糸を観客席に垂らす。
マチ子は本を読もうとする。
電話が鳴る。
マチ子は電話に出る。
相手は清ちゃん。
マチ子 もしもし。
清 もしもし。森下です。
マチ子 あ、清ちゃん
清 マチ子ちゃん？
マチ子 そうそう
清 今ちょっと大丈夫？
マチ子 あー
マチ子は釣り人をちょっと見て
マチ子 うーん。大丈夫かどうかと聞かれたら大丈夫じゃない
清 え？何？かけなおそうか？
マチ子 いや、いいよ
清 大丈夫じゃないんでしょ
マチ子 まあとりあえずは大丈夫そうだから
清 なにそれ。なにがあったの？
マチ子 何があったかは、ちょっと私も混乱してるから
清 そう
マチ子 うん。それで？
清 あのね、今度の週末なんだけど
マチ子 ちょっと待って。
マチ子、電話を持って部屋の外に出る。
マチ子 ごめん、で、どうしたの？
清 なんか、今度の週末竹本先輩たちと遊ぶ、みたいな感じになってて
マチ子 えー？どういうこと？
清 いや、なんか宮ちゃんたちが企画して、なんか男女みんなで映画いくって
マチ子 なんか、合コンみたいな？
清 そんな感じ？だからマチ子ちゃんもこない？
マチ子 うーん、いいや。
清 えーなんで
マチ子 あんまり、得意じゃないから
清 大丈夫だって、私達全然男子としゃべんないでしょ？いい機会だよ
マチ子 知らない人とか、なんかめんどくさいし。
清 そうかー。
マチ子 うん。ごめん
清 なんか最近付き合い悪いよね
マチ子 いや、あの最近忙しくて。ごめん
清 それはいいんだけどね。なんかあったんじゃないかって
マチ子 それは大丈夫。
清 そう
マチ子 あの、英子とか誘ってみたら
清 えー私あの子あんまり好きじゃないし
マチ子 え？そうなの
清 うん。なんか私ら軽く見てる感じ
マチ子 そうかな、いい子だけど
清 あ、言わないでよ。
マチ子 いや、言わないけどさ
清 マチ子ちゃんも気をつけなよ
マチ子 あー、うん。
清 じゃあね。また誘うかも
マチ子 はいはい
清 ばいばーい
マチ子 ばいばい
電話が切れる。
マチ子部屋に戻る。
釣り人 お友達？
マチ子 え？あ、はい、
釣り人 いいなあ
マチ子 なにがですか
釣り人 僕友達いなかったもんな
マチ子 なんか、それはわかります
釣り人 言うね君。
マチ子 言うときは言いますよ
釣り人 友達は貴重だからなあ
マチ子 貴重でもないでしょ
間
釣り人 あの子苦手？
マチ子 …別に、そんなことないです。
釣り人 へえ。
マチ子 なんですか
釣り人 いやいや
マチ子 はあ
釣り人 …普通だよ。普通。
マチ子 …
舞台袖から猫が歩いてくる。
向かいからやくざ猫登場。
やくざ猫 おい！
猫 なんのようや。どら猫
やくざ猫 うるさいわ！どら猫はお前じゃ！
猫 お前な、猫に必要なのは気品やぞ
やくざ猫 お前下品やんけ
猫 あほ わし気品に満ち溢れとるやろうが
やくざ猫 黙れ黙れ！そんな話をしに来たとちゃう！
猫 ああもうどら猫がたいそういきりやがって
やくざ猫 お前覚悟せえよ。ぶち殺したるからな
猫 ほお、ええ根性やないか。ぶち殺してみい
やくざ猫 勝負じゃ！
猫 やったるわい！
やくざ猫は子分たちとともに猫に襲い掛かる。
猫は次々に繰り出される猫パンチをかわし、ひっかき乱舞で滅多切り。
やくざ猫 くそう！覚えとけ！（去る）
猫 ふん！かっこだけつけやがって。次来てももう相手せんぞ。
(傷をなめて)くそ、イテ。突然襲ってきやがって。
わしもう喧嘩やめるんや。やってもつまらん。
猫、２階の窓を見る。
猫 マチ子ちゃーん！
釣り人はベランダから猫を眺める。
釣り人 お嬢さん？なんか家の前で座ってますよ
マチ子 何ですか？
釣り人 あれ。
マチ子 ああ、最近よく来るんです
釣り人 なんで？
マチ子 さあ？
釣り人 ほら猫座りして
マチ子 …
釣り人 けなげに待ってるよ、ほら
猫視点になる。
猫 にゃー！誰じゃてめえ。ひっこめー！マチ子ちゃんをだせー。
釣り人 にゃーにゃ―鳴いてる。
猫 マチ子ちゃーん！猫を飼ってみるのとかどう―？
釣り人 ん？あれは猫じゃないな
マチ子 は？
釣り人 よく見たら、猫じゃありませんよ
マチ子 え？じゃあなんですか
釣り人 ぬこです。
間
マチ子 はあ？
釣り人 しゃべるからね
マチ子 え？はあ…そうですか
猫 マチ子ちゃーん！頼むよー！もう野良は嫌やー！
間
マチ子 前に一度魚を上げたんです。
釣り人 あのぬこに？
マチ子 猫です。
釣り人 へえ。感心しちゃうなあ
マチ子 ….別に、そんなことじゃないです。…ただの気まぐれで。
釣り人 そっか
マチ子は立ち上がり、サイダーを持って部屋を出る。
釣り人、少し気にする。
猫 マチ子ちゃーん！
釣り人 マチ子ちゃんは今いないよ
猫 おい！さっきからおっさんなんやねん。
釣り人 なにが
猫 あやしいわ。マチ子ちゃんのなんやねん
釣り人 赤の他人でんがな
猫 何でお前が上がれてわしが上がれへんのじゃ。
釣り人 しらん
猫 にゃー！降りてこい！
釣り人 魚が逃げるから静かにして
猫 にゃーにゃー！
猫は釣り人をひっかこうとしている。
釣り人 何がしたいの？
猫 関係ないわ！
マチ子が帰ってくる。
釣り人 あの、ちょっと
マチ子 ん、なんですか
釣り人 トイレお借りしても
マチ子 ハア。玄関のよこです。
釣り人 どうも
釣り人はスタンドを組み立てて、竿を立てる。
そしてトイレへ。
猫 マチ子ちゃーん！(×３)
マチ子は本を読んでいたが、猫の鳴き声に窓辺へ
マチ子 魚ならないよ
猫 マチ子ちゃん！
マチ子 にゃーにゃ―鳴いてもあげないよ
猫 マチ子ちゃん、わしを飼ってよー。もう野良は嫌や！
マチ子 変な猫
猫 もうこりごりや！めんどくさい！
マチ子 近所迷惑になっちゃうよ
猫 マチ子ちゃーん…
猫はしょぼくれる。ふて寝。
マチ子は隣にある釣竿を何となく持ってみる。
釣りのかっこを真似てみる。
マチ子、空をぼんやり見て何か考えている。
釣り人が戻ってくる。
釣り人 あ、やってますね
マチ子は驚き、竿を元に戻す。
マチ子 いやっあの、すみません
釣り人 いやいや。おもしろいよ。やってみなよ
マチ子 はあ
釣り人 魚はいる？
マチ子 普通いないと思いますけど
釣り人 よく見てごらん
釣り人は観客席を指さす
マチ子、釣り人の指さす方を見る
マチ子 あ
釣り人 ね
マチ子 でも、どうやれば
猫 マチ子ちゃーん！見てー
釣り人 やり方は一つしかないよ
マチ子 一つ
猫はリコーダーを持ってきて、チャルメラを吹く
釣り人 待つ。
マチ子 待つ？
釣り人 それだけ
マチ子 ……へえ
猫は再度、チャルメラを吹く
釣り人 焦らない。狙わない。ただ魚を見て、待つ。
マチ子 なんか、慣れないですね
釣り人 そうでしょう。みんな焦って生きてるからね
マチ子 はあ
釣り人 ゆっくりでいい。
マチ子 はい
猫、今度は、『見上げてごらん夜の星を』を吹く。
マチ子、しばらく黙って釣りをする。
それを少し嬉しそうに見つめる釣り人
釣り人 あそこ、みえる？
マチ子 はい
釣り人 ああいう魚は、餌だけ突っついて帰っちゃうから、避けなさい
マチ子 タチ悪いですね
釣り人 そうそう。
マチ子 ちょっと慣れてきました
釣り人 君は筋がいい。
マチ子 そうですか
釣り人 でもまだだ。君に引っかかってくれる愛すべき魚を待つんだよ
マチ子 変な言い方ですね。
釣り人 そうかな？
マチ子 ふふ
釣り人 …ゆっくりでいい。
間
猫 マチ子ちゃん。伝わらんと思うけどさ、あの日、魚くれたん、うれしかった。
だからさ、だから、ありがとう。もう、来やんから。
猫は去っていこうとする。
その時、
マチ子 みーあーげてーごらんーよるのーほーしをー
釣り人 いい歌知ってるな
マチ子 いや、ほら、一番星が
猫 ちいさーなほーしーのーちいさーなひかーりがー
マチ子 え？
二人は猫を見る。
マチ子 あの猫、歌ってません？
釣り人 そうだね
猫 ささやかーなしあわーせをうーたってるー
マチ子が歌に入る。
釣り人 手をつなごう。ぼくと
猫 追いかけよう夢を。
三人 二人なら―くるしくなーんかなーいーさー
みーあーげてーごらんーよるのーほーしをー
ちいさーなほーしーのーちいさーなひかーりがー
ささやかーなしあわせをーうーたってるー
歌い終えると、マチ子の竿に反応がある。
マチ子 あっ！
釣り人 きたっ！
マチ子 ああ、持ってかれる！
釣り人 でかい！がんばれ！
マチ子、魚と格闘。
釣り人それを応援して手伝いをする
猫 にゃっ！うまそうな魚やん！
猫はマチ子が釣ろうとしている魚にかみつく
マチ子 何かさっきより重くなってます
釣り人 回して回して！
マチ子は必死で釣りあげようとする。
釣り人 いける！もうちょい！
マチ子 やあ！
釣りあげる。
猫も釣り上げられ、居間に落ちてくる。
猫がビチビチ跳ねている。
釣り人 すごいよ！おめでとう
マチ子 ありがとうございます
猫 にゃーにゃー！
釣り人 おまけもあるじゃない
猫 誰がおまけじゃい！
釣り人 こら爪はなせ
猫 いやじゃ！これはわしの魚じゃ！
釣り人 君から言ってやってよ
マチ子 ほら、はなしなさい
猫 にゃ！はい！（魚を釣り人に渡す）
釣り人 なんてやつだ(魚を受け取る)
猫 しゃー！かえれ！
マチ子 ほらほらやめな
釣り人は猫の攻撃をかわす
猫 今度は逃がさんぞ！
猫はまた攻撃。釣り人と猫は切りあった構図。
釣り人スプレーをかける
猫 にゃ、これは
釣り人 マタタビに溺れな
猫 にゃふーん
猫はくらくらしている。
釣り人 さて、僕はそろそろ帰る。
釣り人は魚から針を抜く。
マチ子 あ、はい
釣り人 君の魚だ。
釣り人は魚をマチ子に渡そうとする
マチ子 え？・
釣り人 場所代だよ。
マチ子 でも、これ
釣り人 いいよいいよ。取っといてよ。
マチ子魚を受け取る。
マチ子 仕方ないですね
釣り人 じゃあ(釣り人荷物をまとめて去ろうとする)
マチ子 あの、なんか、ありがとうございました
釣り人 いえ、ご迷惑おかけしまして
マチ子 また今度！
マチ子と目が合う
マチ子 ・・・いいの、釣れるといいですね
釣り人 お気遣いありがとう。それでは
マチ子 さようなら
釣り人は去り際、会釈して手を頭にやる。
そして帰っていく。
マチ子は魚を手に、しばらくガラス戸の外を眺め、何か考える。
マチ子が振り返ると、猫は猫座りをしている。
マチ子 汚いなあ
猫 にゃー…
マチ子 …お風呂入れるからね
猫 にゃー…
音楽（「見上げてごらん夜の星を」坂本九）上がってくる
マチ子、ガラス戸を閉め、魚を持って部屋を出る。
それと同時に猫も部屋を出る。
おわり