ラクに書く創作脚本講座   山田陽一郎 2018418

目次

はじめに

1 最初の発想はどう探すか?

2 構成はどうやって立てるか?

3 登場人物はどう作るか?

4 エピソードはどうやって作るか?

5 タイトルはどうつけるか?

6 セリフを書くときに注意すべきことは?

7 第1稿は最終に向けてどう変わっていくのか?

あとがき

 

はじめに

 この文章は「自分たちの考える創作脚本を作ってみたい」と望む高校生と、「生徒たちを舞台に立たせてやりたい」と考える顧問の先生に読んでもらうことを目的に書いたものです。

 私は合計16年間演劇部の顧問をし、その年月の中で生徒のアイデアを脚本にして上演したり、自分のアイデアを脚本にして生徒に手直ししてもらったものを上演したりしてきました。

 その試行錯誤の年月は、これから演劇部の生徒として、あるいは顧問として創作脚本を作って行こうという人々にとっては貴重な財産だと思います。

 それは書き残さなければ私の記憶から消え、世の中から消えてしまうでしょう。

 そこで今ここに書き下ろすことにしました。

 高校演劇を見渡すと、脚本は2種類あります。

 一つは既成脚本、もう一つは創作脚本です。

 創作脚本にはさらに3種類あり、生徒創作、顧問創作、共同創作です。

 高校演劇にとって、創作脚本にはメリットが2つあります。

 一つは「著作権申請と使用料費用不用・改変自由」ということ、

 もう一つは「時代に合った脚本、オリジナルの脚本ができる」ということです。

 実際に既成脚本を上演するとなると、上演時間を短くしたり、人数の関係で潤色をしないといけない場合があります。

 創作脚本はそれらの要求に対応できるメリットがあり、それは大きいものがあります。

 これにもう一つ付け足したい思いがあります。

 それは創作脚本を作る生徒、関わる顧問にとっても思い出になる、ということです。

 自分の考えた登場人物・物語が一つの時代の産物とし記憶として残っていく…

 それは人がその時代に生きた証として残せるものとしてかけがえのないものではないか(そうなってほしい)という思いがあります。

 一方、既成脚本は完成度が高いメリットがあります。

 既成脚本はかつてある団体によって上演され、何度も書き直されているはず、つまり必然的に完成度は高くなっています。

 また実績のある顧問やプロが書くため、台詞が洗練されていることもあるでしょう。

 既成脚本しかやらない学校もあるのもそんな事情からでしょう。

 当校も私が顧問になって初期の頃は、既成脚本を上演することが多く、そこから学ぶことがたくさんありました。

 きちんとした既成脚本をすることで演劇に関わる全ての実力が付く。それが最大のメリットでしょう。

 この文章はそういう両方を考えた上で、創作脚本に取り組んでみたい、と言う人の参考になればと思います。

 この文章を出すに当たり、当校演劇部で青春を過ごし、通り過ぎて行ったたくさんの生徒たち、そして今でも戻って懐かしんでくれるOBOGたちに心から感謝します。

 

1 最初の発想をどう探すか?

 当校演劇部では、上演約3か月前に「脚本会議」を行います。

 これは生徒が創作脚本の種を書いて持ってくるもので、できるだけ、タイトルと内容を「起承転結」で書かせるように促します。

 そして「既成脚本会議」で上演候補の既成脚本をあらかじめ決めておき、「創作脚本会議」で創作を決め、どちらがいいか、最後に決戦投票する、と言った方法です。

 「創作脚本会議」というと、創作脚本のプロットを持ってくる会議となっています。

 「既成脚本会議」を開き、「創作脚本会議」も開く、という手順は、生徒にとって脚本の勉強にもなるでしょう。

 創作脚本会議には顧問も案を持ってきて、生徒と同じ立場で見せ合い、話し合います。

 この時点で出される案の理想形は、タイトルと簡単な「起承転結」で内容が書かれたもので、当校では「プロット」(「箱書き」ともいう)と呼んでいます。

 「プロット」の書き方は2000年代後半に三重県に演劇講習会の講師で来ていた井口時次郎先生から習いました。資料1は実際に2014年実際に生徒が会議に提出したものです。(資料1は写真があるのですが、ネット上では載りません。生徒の手書きの起承転結が書いてあるものです。)

 のちにこのプロットが2014年三重県大会第1位をいただき、中部大会で上演することになる「スマートフォンと黒電話」になっていきます。

資料1

 資料1を元に顧問と生徒が一緒になって作ったものが資料2です。

 

 

資料2 

スマートフォンと黒電話 箱書き(2014617日バージョン)

この話を一言で言うと…

 お金に困って一人暮らしのお年寄りの家に入ってしまった失業青年マコトが、お年寄りと実際に話して触れ合うことで、お年寄りの気持ちに寄り添い変化していく話。

起:マコトがハナエの家に空き巣に入ろうとするが、家から抜けられなくなる。

承:ハナエとスエの話に巻き込まれてお年寄りたちの思いを知り、マコトが少し変わり始める。

転:スエがオレオレ詐欺に引っかかったのを、マコトが助けてお礼を言われる。マコトが自分が空き巣であることを打ち明ける。

結:マコトのやり直しをハナエとスエが応援する。ハナエとマコトはやり直しのための電話を黒電話とスマートフォンでかける。

 

 

 

人の出入り

マコトにスマートフォンがかかってくる。仕事にを首になり、アパートを追い出されそうになっているマコト、友人は割のいいバイト(おれおれ詐欺の受け子)をやっているようだ。

マコト

ワカナがハナエの家を訪ねてきて、都会の自分の家のそばの老人ホームに入れようとする。黒電話の話。新しいヘルパーが来るという話。ハナエは足が悪いし、空き巣にもあったことがある。思い出と友人がいること、娘へのわだかまりから断る。

ワカナ、ハナエ

マコトがハナエの家に空き巣に入ろうとする。そこをスエに見つかり、ヘルパーと勘違いされ、家に入る。

マコト、スエ、ハナエ

スエがトイレに行く。ハナエはマコトをスエの孫と勘違いし、マコトはそれを肯定する。

マコト、ハナエ

スエがトイレから帰ってくる。黒電話の話。スエはガラ携を勧める。マコトの正体がばれそうになるが、ヘルパーの下見ということで落ち着く。ハナエはすっきりしない。

マコト、ハナエ、スエ

ゲートボールの劇中劇。マコトも少し乗ってしまい、よけい帰れなくなる。

マコト、ハナエ、スエ

紡績工場の寮の劇中劇。つらいことを励ましあった乗り越えてきた親友の二人が、同じ人を好きになってしまって、ハナエが譲ったという話。結局これも男は家柄のよい女のところへ行ってしまう。結果的にはよい結婚ができてよかった。スエに携帯電話がかかって出ていく。

マコト、ハナエ、スエ

マコトがハナエのつらかった昔のことに触れ、話を聞いてみる。

マコト、ハナエ

聞いてくれたことからハナエが、娘との関係が冷えていることを話す。孫に会いたいということも話す。

マコト、ハナエ

スエが帰ってくる。不自然な感じ。問いただすと、都会に出ている息子から電話がかかって来て、という話。ハナエはスエに皮肉を言う。マコトは不振に思う。

マコト、スエ、ハナエ

スエにオレオレ詐欺から電話がかかってくる。ハナエはここで話せという。スエが出ていこうとする。マコトが不審に思って止めると札束が落ちて、そこへ詐欺から携帯電話がかかってくる。

マコト、スエ、ハナエ

 

マコトが携帯電話に出て、詐欺を撃退する。スエはまだ詐欺と気づかず、パニックになる。ハナエが説得して、その姿を見たマコトが自分が空き巣をしようとしていたことを告げる。

マコト、スエ、ハナエ

マコトが実家を頼れない自分の状況を告白する。(ワカナと同じ状況)ハナエが奥から財布を持ってきて、お金を渡そうとする。

マコト、スエ、ハナエ

マコトは迷った末に受け取らない。マコトは実家に電話することを決意。

マコト、スエ、ハナエ

スエがマコトに、スマートフォンで電話をするように言う。ハナエにも、ワカナに電話するように伝える。「電話は本当に話したい人にかけるためにある」

マコト、スエ、ハナエ

二人がスマートフォンと黒電話でお互いの家族に電話をする。

 

マコト、スエ、ハナエ

エピローグ

 

黒電話に電話がかかってくる。マコトが現れる。電話の相手はマコトで、地元で就職が決まったらしい。

ハナエ、マコト

 

201412月中部大会(岐阜)

スマートフォンと黒電話

 この脚本が生まれたきっかけは、当時の2年生K(女子)が先輩の残していった創作短編脚本を読み、その登場人物の「おばあちゃん」に心の引っ掛かりを覚えたことでした。

 そのおばあちゃんは「娘や孫に会いたくても事情があって会えない」という問題を抱えていました。

 そこからKは他の部員とざっくばらんに話し合ったそうです。

「私にも同じような孤独なおばあちゃんがいる」「いや私のおばあちゃんはいつも周りに人がいて社交的だ」「同じおばあちゃんでもずいぶん違う」など。

 そこから2人の対照的なおばあちゃんが生まれました。

「ハナエ」 頭ははっきりしているが足が悪く、娘とうまく行っていなくて孫に会えない。

「スエ」 そそっかしいが体は丈夫で、いつも子どもや孫と旅行に行ったり、交流がある。

 でもそれだけでは、まだドラマが生まれません。

 そこでKが考えたのが、おばあちゃん「ハナエ」の家に「若い男の空き巣」が入る、という発想です。

 若者が年寄りを騙してお金を奪う「オレオレ詐欺」はこの時代の社会問題になっていました。しかし「空き巣」と言う発想は意外でした。しかし私の一人暮らしの実家の母親の家も空き巣に入いられたりしたこともあり、これはあり得るんじゃないか、と思いました。

 結果的に「空き巣」が入って、ヘルパーと勘違いされておばあちゃんの家に入り込んでしまう。そこで出会うはずのない人々がお互いの素性や悩みを知らぬまま出会って、「空き巣」がおばあちゃんにインタビューせざるを得ない状況が生まれました。そこからドラマが生まれたのです。

 ここから学ぶことが一つあります。

 それは「心にひっかかった人物、出来事、言葉から創作脚本は生まれる」ということです。

 「だれでも書けるコメディシナリオ教室」(芸術新聞社2011)の丸山智子さんがこう言っています。以下は引用です。

 「アイデアが浮かばず、何を描けばいいのか、モヤモヤしている時は、新聞、雑誌、はては自治会の小冊子からチラシ広告に至るものまで、ありとあらゆるものを読んでいきます。そして、その中に何か気になるワード、引っ掛かる言葉などがあると、それを紙に書き込んでいきます。例えば「パワースポット」「シルバー合コン」「パート募集」「温泉旅行」「店じまいセール」…

 丸山さんはそう言う「言葉」から発想し、テーマを作り上げるそうです。

 例えば「パワースポット」から、「偽パワースポットを暴かれまいと必死になる神主の悪戦苦闘」とか…

 私もこの丸山さんの言葉を信じ、新聞やニュース番組の特集、ネット、はては身内との世間話などで気になる言葉を拾っています。

 

2 構成はどうやって立てるか?

 最初の発想が浮かんだら、それを起承転結にまとめるのが構成です。

 「序破急」で立てるのがドラマや映画のシナリオでは一般的だそうですが、当校演劇部では「起承転結」で構成を立てています。

 起:物事が起こる。主人公や周りの登場人物の抱えている問題が明らかになる。

 承:物語が展開する。問題に対する登場人物たちの右往左往。一番遊びを入れられる部分。

 転:事件が起こる。それまで抱えていた主人公らの問題や価値観に対して、大きな揺さぶりが起こる。ここでは主要な登場人物たちが舞台に全て集まってくることが多い。

 結:ある種の結論が出て物語が終わる。テーマに対して余韻を持って終わる。

 

 構成を書くに当たって大切なのは、「演劇とは感情を描くものだ」ということです。

 感情とは、喜び、悲しみ、悔しさ、嫉妬、絶望、怒り、恐れ、恥ずかしさ、申し訳なさ、不満、懐かしさ、切なさ、昂揚感などです。

 演劇にとって「感情」は、絵画にとっての「絵の具」と同じです。

 美しい絵を描こうと思ったら、カラフルな色使いが一般的でしょう。

 演劇の脚本もカラフルな絵のごとく、いろんな感情がちりばめられていた方が良いと思います。

 そしてそこには「メイン」となる感情が必要です。

 演劇集団キャラメルボックスのプロデューサーの加藤昌志さんは「いいこと思いついた」という本に、「自分が涙を流せない脚本は上演OKを出さない」と書いています。

 この言葉は劇団キャラメルボックスにとってメインとなる感情は「涙を流すような感情」ということです。「涙を流すような感情」というのは、「やりたいこと、かなえたい夢がどうしても達成できないこと」「二度と戻らない過去へのノスタルジーや後悔」「人の温かさに触れたとき」だったりします。

 推理小説のように、最後に種明かしでアッと言わせるのが見せ場、という構成もあるでしょうが、基本的に名作と言われるものは、「理性」で理解する部分と「感情」で理解する部分のバランスが良いような気がします。

 クライマックスで涙が出そうになるか…。それは起承転結を書いた段階で分かります。

 物語を考えるうちにぐっと涙が出そうになったら、それはあなたが書くべき脚本です。

ハリウッド映画のシナリオの書き方系の本には、「主人公が最大の危機に落ちる手前に、物事が順調に行っているシーンを入れる」のだそうです。逆に「最大の幸運が訪れる前には、最悪の不幸を描く」んだそうです。感情の落差や振れが大きい方が、一般によい脚本だと言えるでしょう。

また同じような本には「主人公を甘やかすな」「私はロープの端にぎりぎりしがみついている人の話しか書かない」とも書かれています。

主人公は作者が感情移入しがちなので、どうしても甘やかしがちなのを諌(いさ)める言葉です。

 もう一つ例を挙げます。以下は20167月地区大会8月県大会上演の「セブンマート大白田店のキセキ」のプロットです。

 創作脚本提案用紙 日時:2016528日 提案者:久保山ワタル

タイトル: ビニギャル〜あるコンビニの小さな物語〜 →のちの「セブンマート大白田店のキセキ」

一言で言うと: 女子中学生が国立高専に合格しようとして、コンビニで勉強する。夜間バイトのフリーター青年が、その中学生との交流や店長、お客さんとの交流の中で、春に再びスタートを切ろうと決意する。

テーマは… 人は対話をし、他者の世界を知ることで、自分の壁を乗り越えていくことができる。

 勉強の機会が失われた子どもたちのいるこの世界を変えて行こうよ。

時・場所: 現代、地方都市の郊外の住宅街にあるコンビニとそのイートイン

登場人物: 

@コンビニ夜間バイト:川合マコト

公立高校進学校中退の18歳。父は銀行員、母は専業主婦で、勉強に関して厳格な家庭で育つ。ある日、人間関係のつまずきをきっかけに学校に行けなくなり、勉強の意味も分からなくなり学校をやめる。以後家でぶらぶらしていたものの、少しずつ社会に出ていかないといけないと感じ、コンビニの夜勤バイトを始める。

Aビニギャル:周防ハルカ 

中学3年生。小学校高学年から周りの同級生の女の子たちと気が合わず、家庭も両親の中が悪くなり、夜に外で遊ぶようになった荒れた中学時代を過ごす。腹が据わっている。暴走事件で逮捕され知り合った保護司さんに才能を見いだされ、受験してみたらと言われて変わり始める。結局自立した人間になるためには、学歴が必要と、学費が安く寮もある国立高専を目指すことになる。家は父親と二人暮らしだが、父親は長距離トラックの運転手で家にはほとんどいず、帰ってきたら酒を飲んで家事を全くしないので、家がぐちゃぐちゃ。母親は弟と共に離れた町にいる。母親には一緒に住む男がいて、その男が嫌で母親の所に行くこともできない。携帯は持っているが、通信制限にかからないため、フリーWiFiのあるコンビニで勉強するようになる。

B店長: 

 40歳の直営店店長。社会人経験があり、転職で現在の職業に。結婚していて子どもが1人いる。仕事には厳しいが、自分も母子家庭で、母親の働く後ろ姿を見て育ったので、ハルカの立場もよく分かる人物である。

C客・サラリーマン: 

 24歳の商社に勤めるサラリーマン。小さな商社に勤めているが、残業で帰るのは遅く、いつもコンビニによってビールを買っていく。飲んで帰ってきて、翌朝の朝食を買ったりすることも多い。

 自分が勤めている会社がブラックで不信感を持ち、転職なども考えたりしているが、なかなか思い切れない。

状況: 11月から3月上旬

ストーリー

起:コンビニでバイトするマコトとコンビニで勉強する女子中学生がいる。

 舞台は住宅街の夜のコンビニ。お客さんをテキパキと処理するマコト。奥から店長が見ている。

 マコトと店長との会話。マコトは学校をやめて9か月、コンビニに入って3か月。マコトは人見知り、昼夜逆転から回復途中。夜間なら人が少ないからと、店長に誘われ、初めて夜勤(22時〜6時)を勤める。夜勤の間は、店長は自宅に帰る。夜勤のもう一人の相方もいるが劇には出てこない。

 店長、マコトに初夜勤の注意事項を告げる。ボージョレヌーボーの「声掛け」と「自腹買い」。店長がイートインの女子中学生(ハルカ)を気にする。コンビニに配達人が来て、マコトとの会話。

承:マコトのピンチをハルカが救い、二人は話をするようになる。ハルカと酔っぱらいのトラブルが起こるが、結局12時までコンビニで勉強していくことになる。

 マコトが女子中学生に家に帰るよう話しかけるが女子中学生は無視。お客が入ってきてマコトは業務に戻る。マコトと常連客の日常。酔っぱらったサラリーマンがタバコの件で絡まれ委縮するマコト。動揺してマコトがお客さんの弁当を温めたところ、電子レンジ内で爆発が起こる。うっかりソースを温めたみたいで、弁当はぐちゃぐちゃ。お客さんにお出しできない。そんな時に電子レンジを使いたいお客さんが並ぶ。もう一人のバイトは外の掃除に出かけたみたいでいない。そんな時、女子中学生がすっとレジに入ってきて、電子レンジの掃除を始める。マコトに的確な指示を出し、お客を流す。

ピンチのところを女子中学生に助けられ、お礼を言おうというマコトに中学生はコーヒーを要求。それをきっかけに女子中学生の名前がハルカと分かる。ハルカの家はとても勉強できるような状況じゃないらしい。ハルカが問題を聞いてくる。中1の数学の問題らしいが、いきなり聞かれて戸惑うマコト。納品の業者が来て中断。ハルカはため息をついて、テキストに戻る。

 次の夜、やはりハルカがイートインで勉強している。酔っぱらいが入ってきて、中学生と分かって帰るように説教をするが、ハルカは飲酒禁止を逆に指摘、酔っぱらいは怒って「ガキは塾へ行け」「家でやれ」。ハルカが反撃「あんな家で勉強なんかできるか。どこでやれっていうんだ」と反撃。マコトが止めようとする。結局、ハルカは怒って荷物をまとめて出ていく。

次のマコトの当番の日。この日は店長と店番をしている。ハルカは勉強している。12時になったら、ハルカが荷物をまとめて店長に礼をして帰っていく。マコトが理由を尋ねると、「12時まで許可した」と言う話。店長自身も進学の際の借金などで苦労したらしい。ハルカに勉強させるのに「娘」と偽っている話。

転:コンビニの常連客にも応援されていくハルカにマコトは自分が変わらなければいけないことを感じる。受験が迫ったある日、突然コンビニからハルカの姿が消える。

 ある夜、ハルカがマスコットをつけている。どうしたのかと聞くと、友達にもらったという話。学校で勉強するようになってから、友達ができたという。関数の話。YfX)で、Xに何かを入れたら、Yが分かるという話に感動したという話。マコトは最初、その話の意味が分からないが、必死で分かろうとする。ハルカが初めてマコトがどうして深夜バイトをしているか聞いてくる。答えきらないうちに、お客が来てマコトは仕事に戻る。あの時の酔っぱらいがくる。ハルカにジュースを1本置いて、「がんばれよ」と声をかけて帰っていく。どうしたのと聞くと、「分からない」とのこと。みんな少しずつ変わっていく。

 劇中劇。ハルカが合格したと、店に入ってくる。マコトは喜んで迎える。マコトがハルカに「僕と付き合ってください」と頼むが、フリーターじゃちょっとね、と断る。そこで、配送の人が入ってきて、夢から覚めて終了。マコトは夜明けの近い時間に居眠りをしていたのだ。

 入試まであと3日と迫った日。マコトが店に当番で入るとハルカがいない。がらんとするイートイン。忘れ物を取りに来た店長の話では、お母さんが離れた町から迎えに来たらしい。マコトはメアドも携帯番号も聞いていない。常連の客もやってきて尋ねるが、「うまくいくといいね」と帰っていく。

 入試日の2日後、ハルカから手紙が届いたと店長に教えられる。今、母親の元にしばらくいること。予定通り高専を受けたこと。コンビニにまつわる人たちに感謝していること。合格発表を見に行くこと。最後に電話番号が書いてあった。その手紙を読んで泣くマコト。マコトは「自分みたいな人間を頼りにしてくれるから」と言う。その言葉に店長は「君は頼りない人間なんかじゃない。頼れない人間だったら、君を採用していない」ことを告げる。勤務が始まるまであと5分、それまでに電話して来いと告げる。

結:コンビニでの日常が終わる最後の日。マコトはハルカに勇気を持って声をかける。

 コンビニのイートインでハルカが勉強している。時計を見て、帰り支度を始め、翌日のためのパンを買う。いよいよ明日は公立高校の入試。高専は補欠合格で微妙な結果に。ハルカにとってもコンビニで勉強する最後の日。去りかけるハルカに、マコトは来年はコンビニの夜のバイトはやめて、予備校へ行き大学を目指すことを決めたと告げる。マコトは「受験終ったら行きたいとこない?」と聞く。「返事は、受験の後でいい?」とハルカが答えて、コンビニを去る。すれ違いざまに常連客が入ってきて、ハルカとすれ違いに応援の言葉をかける。いつものたばこを素早く出して、お客さんに応対して幕。

 最後はスピッツの曲 (チェリーとか)?モンゴル800(小さな恋の歌)?

2016年地区大会

「セブンマート大白田店のキセキ」

 これもだいぶ実際の脚本と内容が変わっているので、三重高校演劇部HPSENARIOで実際の脚本を読んでいただきたいと思います。

 この脚本の発想は私がたまたま見ていたブログから生まれました。それは「コンビニは毎日がミラクル」という、元コンビニ店長が店舗で起こるいろんな出来事を細かく書いたものです。

 特に10月のハロウィンから始まって、ボージョレヌーボー、年賀ハガキ、クリスマスケーキ、お正月のおせち料理、恵方巻、バレンタインデー、ホワイトデーに至る冬の季節のノルマがきつく、その達成に苦労する文章が印象に残りました。

 それと新聞記事の切り抜きが結びつきました。2013年6月6日朝日新聞「教育 開かれた学び オンライン授業の衝撃()」です。経済的に塾に通えない子どもでも塾に通うのと同じ効果が現れるように、動画サイトで無料で講義を提供している大阪の塾の先生がいる、という話でした。

 そのころ世の中では「子どもの貧困」「格差」が問題になっていました。お金がなくて塾に行けない生徒と塾に行くことができる生徒で、実際の学力に大きな差がつくとリアルに実感する機会もありました。

 コンビニのノルマに関わる秋から春の時期は、まさに受験シーズン。それらの「気にかかること」が混ざり合い、貧しくて塾に行けず、コンビニのWifiを利用して勉強する少女「ハルカ」が生まれました。

 ハルカが夜中コンビニで勉強する姿がはっきり頭に浮かび、その姿に涙がこぼれそうになった時、「これはいける」「実現しなければ」という気持ちになり、箱書きができました。

 それを脚本会議に提案しましたが、生徒には採用されませんでした。

 その時は生徒創作でやってみたい脚本の種があったためです。

 また私の提案はタイトルが「ビニギャル」(コンビニギャルと言う意味)と映画「ビリギャル」をもじったものだったこともあり、生徒に「あのタイトルじゃ…」という評価でした。

 その後、上演が決まっていた生徒脚本がつぶれる事情があり、ほとんど箱書きができていた「ビニギャル」が「セブンマート大白田店のキセキ」として日の目を見ることになりました。

 ここから学ぶことはこういうことです。

 「こんな人物がいたら…という人が自分の心の中に住んで、行動し出した時、創作脚本は生まれる」

 そしてそれは私の場合「女性」が多いのです。

 これは私が男性で、心の中のどこかに「女神」信仰があるからのような気がします。男性は一生懸命頑張る女性に同情し、自分の理想や夢を見るような気がし、動かされるような気がします。

 典型的なのは宮崎駿監督の映画です。際立ったキャラはみんな女性で、男性キャラは彼女のために頑張る存在です。

 「カリオストロの城」のクラリス、「ナウシカ」のナウシカ、「ラピュタ」のシータ、「魔女の宅急便」のキキ、「となりのトトロ」のメイとサツキ、「千と千尋」の千尋…

 「問題を抱えた、同情に値する魅力を持つ女性」(年齢は何歳でも構わない)が居れば、それを放っておけず周りの男も動くし、劇が動いていくからではないでしょうか。

 

3 登場人物はどう作るか

 「登場人物と状況が決まれば、あとは彼らについていくだけです。」

 「登場人物が自分の頭の中で喧嘩を始めれば、それはいい脚本になる。」

 「シナリオの書き方」系の本に、書かれている言葉です。

登場人物を設定するときのポイント1は「ずらす」ことです。

 自然なセリフにし、舞台の上で登場人物が生き生きするためには、登場人物を対照的にするのが有効です。

 「男と女」「若者と老人」「生徒と先生」「引きこもりの若者と現場たたき上げの職人」「華やかで学校からちやほやされる運動部の部長と地味な文化部の部長」「豊かな生活をしてきたお坊ちゃんとカツカツの生活をしてきた貧乏少女」など。

 かぶらないことによって、お互いの境遇を説明し合い、発見があり、感情が生じ、ドラマが生まれるからです。

 たとえば、姉妹を出す場合には必ずその持っている情報をずらします。「姉はお父さんと10年一緒に過ごしたが、妹は物心ついたときにはお父さんは死んでいた」「姉は島を出て水商売などいろんな現実社会を経験しているが、妹は島を出たことがない」など。

 これは人間の「対話」は、情報量の差によってもたらせるからだ、と平田オリザ氏が著書「演劇入門」で述べていることです。

 そうやって作った「登場人物」をプロットの上の段にまとめていきます。

 必要なのは、名前(名前がいらない登場人物は「A」「男1」などと書く)、年齢、経歴、職業、考え方や行動のパターン、他の登場人物との関係、モットー(信念)、得意なこと、苦手なこと、等です。

 一人で脚本を書く場合はこれでいいのですが、生徒の脚本を直す場合に有効な方法があります。それはその生徒に「インタビューする」という方法です。

 たとえば生徒が書いてきた脚本の中に、「イジメが原因で家に閉じこもってゲームばかりしている少女」がいるとします。生徒はなんとなく脚本を「幕」まで書いてきます。しかし、話の筋やセリフが不自然、登場人物の性格が突然変わるなど、話につじつまの合わないことや疑問に残ることがあることが多々あります。その脚本のまま稽古すると、細かいことが何にも決まってなくて、その設定を考えるだけで稽古がストップしてしまいそう、という場合です。(脚本が「劇の設計図」になっていない場合、という言い方をします。)

 そんな時は生徒にインタビューしてこの「登場人物」の設定を深めていきます。

 「この子(少女)はいくつなの?」

 「高校2年生です」

 「じゃあ、いついじめられたの?」

 「高2の秋くらいかな?」

 「高2の秋くらいに突然いじめが始まるの?どうして?」

 「…」

 「いじめって新しい人間関係が生じたときに起こるのがふつうじゃないの?」

 「…」

「この子高校1年生じゃだめなの?」

 「別にいいです」

 「じゃあ高校1年生のいついじめられたの?

 「5月くらいかなあ…」

 「じゃあ、この劇は何月?」

 「冬くらいかなあ?」

 「6月から冬まで学校休んだら、この子出席日数足らなくて留年じゃないの?」

 「…」

 「じゃあ男の子が学校行こうって誘いに来るのおかしいよね。67月に学校を2か月休んで、9月中旬の話にする、でどう?」

 「でもイメージが冬なんで…」

 「じゃあ夏休み明けの9月にいじめられて、910月と不登校で、11月から始まる話にしたら。季節が決まらないと、少女は引きこもりだから季節関係ないけど、他の人の服装や会話が困るよ。気候の話題だってするだろうし。」

 「…」

 こういう会話を繰り返して生徒にメモさせます。

 「少女」のつもりになってインタビューに答えてもらうのもよいでしょう。

 たとえばこの少女が高校生なら、中学の時は学校にも登校し、明るく暮らしていたとします。

 この少女は中学の時にはクラブ活動をしていた、吹奏楽部だった、楽器はフルートだった、お父さんも彼女のクラブの演奏会に来ていた、お父さんが来てくれた時、この子はとてもうれしかった… などの過去設定がどんどんできてきます。

 最初生徒が書いた脚本では、なんとなく「骨」しか見えていなかったことが、明確に見えて、実際にセリフを書くときのセリフがどんどん浮かんできます。

 登場人物を書くときには、必要に応じて人間関係の表も書くといいでしょう。

 紙に登場人物の名前を○で書いたものを作り、そこに矢印で人間関係を入れていくのです。

 幼馴染、兄妹、つきあってる、親子、親友、片思い、尊敬している、ボケ役とツッコミ役など。

 演劇だけでなく、小説や映画など、物語全てにおいて、「登場人物同士の意外な関係」を含んでいるものを私たちは見たいと思っています。

 「すべての優れた物語は、読者にとって重要とも思える関係を---読者を衝き動かし、楽しませ、怒らせ、驚かす関係を---含んでいなければならない」ノーベル文学賞受賞のカズオイシグロ氏の言葉です。

 登場しない人物の名前や設定もその表に入れるのもよいでしょう。

 例えば前述の女の子のお父さんやお母さんはどんな人か、彼女とお父さん・お母さんとの人間関係はどんなのか、おじいさんおばあさん、兄弟姉妹は、など。

 そうすることによって、作者の中でその登場人物が居場所を確保し、生き生きとしてくるのです。そして自分の頭の中で動いて、セリフをしゃべるようになっていくのです。

 登場人物を決める時に第2のポイントは、「観客の共感得る主人公」を作る、ということです。

 「観客の共感を得る主人公とは」、「犠牲者」「人間味あふれるキャラクター」「誰もが望むような資質」の3つのパターンに分かれる、とこれも脚本関係の本に書かれています。この3つが全部組み合わされると、強い登場人物ができます。

 例えば宮崎駿監督の映画「天空の城ラピュタ」の主人公パズーは、「犠牲者〜身に覚えのない不当な扱いを受けているし、本当の事(ラピュタは実在する)を言っているけど信じてもらえない」「人間味〜動物好き、困っている人を助ける、優しいふるまい」「誰もが望む資質〜勇気がある、決断力がある、子どものような熱意がある、運動能力がある、たくましい、粘り強さがある」など、3つの資質をすべて持っています。登場人物を作るときは、いろいろな面を考えてどれを備えさせるか、どれを欠けさせるかを考えて作っていくと良いでしょう。 

 

4 エピソードをどう作るか

 実際に演劇を見ていて一番楽しいのは「エピソード」です。

 エピソードとは大きな起承転結の中にある「シーン」と「話題」のことです。

 エピソードは物語を進めていく役割を持っていないといけません。

 演劇の面白さは、どこにどんな「エピソード」を入れていくかで決まってきます。

 たとえばエピソードのうち「シーン」の代表例としては、2014年全国大会出場した滝川第二高校「志望理由書」の、主要登場人物の二人が忠臣蔵を演じる「劇中劇」のシーンがあります。

 吉良役の先生に切りかかる浅野役の生徒に対し、それを見かけた生徒の友達が「何やってんの、やめなさい」と後ろから腕を抱えて止める。それに対し生徒が「お放しくだされ、梶川どのーっ!せめて一太刀…」と決めゼリフを言うと、観客は大喝采でした。

 演劇の観客は「劇中劇」が好きです。

 そこに「演じる」という事の本質があるからです。

 「話題」の代表例としては、2001年全国大会で最優秀賞となった「七人の部長」越智優・作)があります。その中で出てきた「マラソンで走る距離はなぜ42.195キロか?」という話題があります。

2003年県大会「夏芙蓉」

 陸上部長の話がきっかけでこの話題になり、本来の部活予算会議から離れ、部長たちの間で大いに脱線、盛り上がります。七人が打ち解けるきっかけを作ると同時に、お客さんも大爆笑・大満足の話題です。

 もう一つ「話題」の例を。

 発表されて以降多くの演劇部で上演され、当校も2003年に上演した「夏芙蓉」(越智優・作)があります。

 四人の少女たちが卒業式が終わった晩、学校で会っていろいろな思い出話をするシーンが長く続くのですが、その中でタイトルになっている「夏芙蓉」の思い出について主役の二人の少女が話題にする場面が出てきます。その中で最も親しい二人の少女の記憶の中で、「夏芙蓉」に関する記憶のずれが出てきて、それが劇を思わぬ方向へ導いていきます。

 とても美しく、印象的で心にいつまでも心に残る「エピソード」です。

 このような「エピソード」はただの面白い話でなく、登場人物を打ち解けさせたり、登場人物が過ごした時間の意味を象徴したり、今後の劇の展開を暗示したりなどするものです。

 良いエピソードとは、単純に面白いだけでなく、劇中できちんと役割を持ったものと言えるでしょう。

 エピソードのセンスによって、劇のレベルが決まってきますから、エピソードに関してはたくさん演劇や映画などの作品を見て、ストックしておきたいところです。

 そしてエピソードともう一つセリフについては一番「才能」が必要なところではないかとも思います。

 前述の「スマートフォンと黒電話」のエピソードを太線にしてみました。

スマートフォンと黒電話 箱書き(2014617日バージョン)

この話を一言で言うと…

 お金に困って一人暮らしのお年寄りの家に入ってしまった失業青年マコトが、お年寄りと実際に離して触れ合うことで、お年寄りの気持ちに寄り添い変化していく話。

起:マコトがハナエの家に空き巣に入ろうとするが、家から抜けられなくなる。

承:ハナエとスエの話に巻き込まれてお年寄りたちの思いを知り、マコトが少し変わり始める。

転:スエがオレオレ詐欺に引っかかったのを、マコトが助けてお礼を言われる。マコトが自分

 空き巣であることを打ち明ける。

結:マコトのやり直しをハナエとスエが応援する。ハナエとマコトはやり直しのための電話を

 黒電話とスマートフォンでかける。

 

 

 

人の出入り

マコトにスマートフォンがかかってくる。仕事にを首になり、アパートを追い出されそうになっているマコト、友人は割のいいバイト(おれおれ詐欺の受け子)をやっているようだ。

マコト

ワカナがハナエの家を訪ねてきて、都会の自分の家のそばの老人ホームに入れようとする。黒電話の話。新しいヘルパーが来るという話。ハナエは足が悪いし、空き巣にもあったことがある。思い出と友人がいること、娘へのわだかまりから断る。

ワカナ、ハナエ

マコトがハナエの家に空き巣に入ろうとする。そこをスエに見つかり、ヘルパーと勘違いされ、家に入る。

マコト、スエ、ハナエ

スエがトイレに行く。ハナエはマコトをスエの孫と勘違いし、マコトはそれを肯定する。

マコト、ハナエ

スエがトイレから帰ってくる。黒電話の話。スエはガラ携を勧める。マコトの正体がばれそうになるが、ヘルパーの下見ということで落ち着く。ハナエはすっきりしない。

マコト、ハナエ、スエ

ゲートボールの劇中劇。マコトも少し乗ってしまい、よけい帰れなくなる。

マコト、ハナエ、スエ

紡績工場の寮の劇中劇。つらいことを励ましあって乗り越えてきた親友の二人が、同じ人を好きになってしまって、ハナエが譲ったという話。結局これも男は家柄のよい女のところへ行ってしまう。結果的にはよい結婚ができてよかった。スエに携帯電話がかかって出ていく。

マコト、ハナエ、スエ

マコトがハナエのつらかった昔のことに触れ、話を聞いてみる。

マコト、ハナエ

聞いてくれたことからハナエが、娘との関係が冷えていることを話す。孫に会いたいということも話す。

マコト、ハナエ

スエが帰ってくる。不自然な感じ。問いただすと、都会に出ている息子から電話がかかって来て、という話。ハナエはスエに皮肉を言う。マコトは不振に思う。

マコト、スエ、ハナエ

スエにオレオレ詐欺から電話がかかってくる。ハナエはここで話せという。スエが出ていこうとする。マコトが不審に思って止めると札束が落ちて、そこへ詐欺から携帯電話がかかってくる。

マコト、スエ、ハナエ

マコトが携帯電話に出て、詐欺を撃退する。スエはまだ詐欺と気づかず、パニックになる。ハナエが説得して、その姿を見たマコトが自分が空き巣をしようとしていたことを告げる。

マコト、スエ、ハナエ

マコトが実家を頼れない自分の状況を告白する。(ワカナと同じ状況)ハナエが奥から財布を持ってきて、お金を渡そうとする。

マコト、スエ、ハナエ

マコトは迷った末に受け取らない。マコトは実家に電話することを決意。

マコト、スエ、ハナエ

スエがマコトに、スマートフォンで電話をするように言う。ハナエにも、ワカナに電話するように伝える。「電話は本当に話したい人にかけるためにある」

マコト、スエ、ハナエ

二人がスマートフォンと黒電話でお互いの家族に電話をする。

マコト、スエ、ハナエ

エピローグ

 

黒電話に電話がかかってくる。マコトが現れる。電話の相手はマコトで、地元で就職が決まったらしい。

ハナエ、マコト

 この太字で書いた部分が全てエピソードです。「劇中劇」が2回あり、それぞれの中でどんなことを話題にするのかもだいたい書いてあります。

 実際に脚本を書くときは「プロット」で考えていたエピソードを使わなかったり、さし替えたりする場合もあります。例えば「マコトが詐欺を撃退する」というシーンは「プロット」には書かれていますが、実際の脚本にはありません。これは「プロット」を元に脚本を書いていく過程で、「違うな」「こっちだな」というエピソードは落とされたり、変えられたりしていくからです。

 今回はこの中で、アンダーラインの部分、承の結の「ハナエのつらかった昔の事」について、どうやってエピソードを選んだかを説明します。

 まずここに入るのが決まっていたのは、「ハナエのつらかった昔の事」です。

 ハナエは2014年当時70歳以上のお年寄りですから、このエピソードを選ぶのは生徒には難しいことです。登場人物と同じ世代のおばあちゃんに接していて、しかも昭和の歴史に詳しい人、つまり「昭和」の高度成長期の雰囲気を感じてきた人…ここは顧問の出番だと思いました。

 その前の劇中劇で「紡績工場での集団就職してきた二人の会話」も「今の旦那と出会ってから苦労して子育てしてきた話」にしても、このあたりは顧問(当時47)が考えました。

 私の故郷(三重県北部)では、九州から紡績工場に集団就職してきた人が多く、同級生の母親も九州出身の人が結構いたのです。さらに家に電話がなく、公衆電話にかけに行っていた記憶もあります。

 ここで自分の経験をこのエピソードに入れました。それによって劇にリアリティが出てきたのだと思います。

 ここから分かることはこういうことです。

 「エピソード」は個人で決めつけず、考えられる人がみんなで考える。作者は「良い劇ができてみんなで楽しくやれればいい」と柔軟に対応する。

 男子が脚本を書いている場合は女子の意見が、生徒が書いている場合は親や先輩・顧問など世代の違う人間の意見が参考になります。顧問が書いている時は、現代の高校生のセリフは高校生の意見が参考になるはずです。登場人物の年代が違う場合は、その時代を生きてきた人の意見が参考になると思います。

 またエピソードに関しては「感情」を描く、特に「嫉妬」「後悔」「傲慢」「恐れ」など、負の感情を描くようにすると、劇に深みが出るような気がします。

 エピソードについてもう一つ挙げます。

 前述の「セブンマート大白田店のキセキ」を使って、エピソードをもう少し詳しく解説します。

 「ストーリー」の欄の大部分がエピソードですが、この例から分かるのは、エピソードを充実させ、劇を深くするには「取材」が必要だ、ということです。

 例えばこの劇を作るきっかけはブログ「コンビニは毎日がミラクル」でした。その膨大な内容を読み込んで、エピソードになりそうなものを、全部ノートに書き込んでいきました。その中で、コンビニのノルマがきつくて「自爆買い」していること、夜中になるとお客さんは減るが配送の人は来るということ、初心者がよくおかしがちな失敗(タバコの種類を間違える、弁当のソースも一緒に温めて爆発させる)があること、お客さんは強面でも「タバコの種類」を覚えてくれると「ありがとう」と言ってくれること、などが分かり、劇の中の「エピソード」に生かすことができました。

 取材は切りがないので、どこかで取材を終えて、勇気を持って「箱書き」「脚本」を書かねばならないのですが、充実した取材が良い劇につながることは非常に多いと思います。

 例えば病気の取材です。

 起承転結を作るベタな方法として、登場人物にとって重要な人が倒れる、亡くなるなどがあります。それがいつも「交通事故」だとあまり変化がありません。今はインターネットで主要な病気について詳しく調べることができます。交通事故だと伏線が張りにくいですが、たとえば「脳卒中」なら「ものが二重に見える」「めまいがする」などのシーンを劇中に入れておけば、「そう言えばあの時…」とお客さんは思い、劇の伏線になります。「自己免疫疾患」の難病、「重症筋無力症」「多発性硬化症」などを使えば、見ている人にその病気の情報を伝えることにもなります。

 

5 タイトルはどうつけるか?

  次に「タイトル」を決めていきます。

 「ナウワカユメ」(20163月上演)のプロットを紹介します。

創作脚本提案用紙 日時:2016123日 提案者:MM

タイトル: ナウワカユメ

 

一言で言うと: ゲームの中に入りこんだ叶斗と進が大切なことをゲームを通して見つけていく話。

 

時・場所: 現代の冬と春の境目、Now Young Dream worldの世界(ゲームの世界)

 

登場人物: 

@   叶斗 17歳。高校生。けれど不登校。(不登校の理由:学校を休んだら…)自分に自信がない。東京に住んでいる。

A   進 22歳。ゴキブリが嫌い。彼女がいたが殺害された。今までたくさんつらい思いをした。(例:高校を中退し、職を転々としていたが、本当に好きな女性を見つけ、その女性と結婚するために、大工として、まじめにやっていた。)大阪に住んでいる。(見た目ヤンキー、でも優しい。)

B   明日美 25歳。天才プログラマー。過去に現実逃避のため作ったゲームがバカ売れし、ゲームにはまる人が続出し、それが本当にいいかと疑問を抱いて、会社を退職した。その報いに現実に引き戻すゲーム、ナウワカユメを作った。北海道に住んでいる。今は住込みの酪農の手伝いをして暮らしている。

悪夢→明日美の絶望の心 

ピッピ→明日美の希望の心。

 

ストーリー:

 

起:叶斗、進、現状(ゲームの世界に入り込んだ)が分かる。叶斗と進が協力して冒険に出発することになる。

 

承: 叶斗、悪夢に勝利して自信がつく。

 

転: 進、過去を思いださされる。進、今までの苦労や悲しみを叶斗に教える。

叶斗、自分の未熟さを知る。

 

結: 叶斗、進それぞれの道を進む。(新しい世界に向かう)

 

プロローグ

 

幕が開くと、台の高いところで女性(明日美)が紅茶を飲みながらパソコンを打っている。台の下では、ヘッドホンをした少年(カナト)がゲームをしている。ゲーム音。お母さんの声「カナト、夕ご飯だよ。カナト」「夕食、部屋の前、置いておくからね」ゲーム音大きくなり、突然止まる。女性がクチパクで「(何か)ナウワカユメ」とつぶやく。

 

ピッピ

叶斗倒れている。起き上がるが、ここがどこか分からない。そこへピッピが現れ、叶斗は自分がゲームの世界に入り込んだことを知る。

叶斗、ピッピ

叶斗のゲームのパートナーとしてピッピが進を連れてくる。お互いの性格は正反対。ピッピは「大切なものを取り返してほしい」と二人に頼む。進のノリもあり、冒険に出発することになる。

叶斗、進、ピッピ

出発前に、叶斗と進はお互いに装備をもらい、剣を交えて練習する。叶斗これまでのゲームの世界では強かったのが、ナウワカユメでは思うように動かないことを知って青ざめる。

叶斗、進、ピッピ

ピッピが叶斗を励ます。ピッピ、困ったときにこれを使ってとペンダントを渡す。二人冒険の旅に出発する。

叶斗、進、ピッピ

悪夢

 

海や砂漠を通り抜ける。進、生き生きしてくるが、叶斗は船酔いしたり、砂漠でへばったりなど。(ナウワカユメでは、現実の世界と近い感覚が味わえる)夜に森の中に入る。この森を通り抜けないと目指すボスのいる城には進めない。初めての敵、悪夢が現れる。叶斗初めての敵にビビり、進が倒そうとするが、進のゴキブリ嫌いがわかり進は倒される。

叶斗、進、悪夢

悪夢、叶斗を狙う。叶斗、逃げ回る。ピッピの言葉を思い出し、ペンダントの中身を見る。中には「自分の強みを知れ」と書いてある。叶斗クイズを提案。悪夢、承諾。

叶斗、進、悪夢

悪夢、進をよみがえらせて司会者にし、クイズ大会が始まる。どこからかピンポンボタン付きの台と2つと鼻眼鏡を取り出し、クイズ大会が始まる。クイズ大会で、カナトがマニアックな問題に答えて勝利する。悪夢はそれを認めず、剣でカナトを殺そうとするが、進が復活して悪夢を倒す。

叶斗、進、悪夢

悪夢が去っていくときにアイテムの箱を落とす。カナトそれを拾う。カナトどうして、進がナウワカユメの世界に来たか(ソーシャルゲームにのめりこんだか)を尋ねる。カナトが自分のことを言う。進は答えず、先を急ぐ。

叶斗、進、悪夢

BOSS

カナトと進が城に入ってくる。カナトは怖がるが、進は平気。カナトが進になぜナウワカユメの世界に来たかの質問をする。進は答えない。質問変えて、ゴキブリのことを聞く。進は昔エアコンをつけようとしたら上からゴキブリが落ちてきて口の中に入った。思い出させたことを怒る。ゴキブリが出たら、お前がよろしくと進。そうこうしているうちにボスが現れる。

叶斗、進、ボス

ボスと進との戦い。カナトは勇気が出ず、ボスに向かっていけない。ボスは強く、進が倒される。ボスは、カナトに向かってくる。カナトの剣がふっ飛び、逃げ回る場所がなくなったところで、進がカナトに箱を開けるように伝える。カナトが箱を開ける。

叶斗、進、ボス

いきなり進の過去の世界に飛ぶ。アパートに帰ると、周りに人だかり。彼女の恵が血まみれになって死んでいる。それを発見する進。ニュースのシーン。「アパートで女性の遺体が発見された。」進過去の出来事を語る。それを聞いているカナト。進が「人は大切なものを守るために生きているんだ」と語る。

叶斗、進

ナウワカユメの世界に戻り、叶斗、ボスに向かっていく。何回か跳ね返されるが、最後は進とカナトの二人の力でボスに打ち勝つ。

叶斗、進、ボス

明日美

喜んでいるカナトと進。ボス起き上がって、明日美になり「大切なものは見つかった?」と尋ねる。「あんたがくれるんじゃないのか?」「それはゲームの世界。本当に大切なものは、あなたたちがピッピの願いを叶えようとして、この世界を旅したときに手に入れたものじゃないかしら」。進は「この世界から出せ」と怒る。明日美がこの世界について種明かし「ゲームである」という話をする。

叶斗、進、明日美

明日美に出口を示されて、進が出て行こうとする。出ていく前に、カナトに自分の感じたことをメッセージ「お前と一緒にこの世界を冒険している間、つらいことを忘れられて楽しかった。」「恵はこの世界に戻らないが、俺の心の中で生きていて、こんな架空の世界に生きていていることを望んでないと分かった。」出ていく。

叶斗、進、明日美

カナトは鎧を脱ぎ、進の剣を拾い上げ、自分の剣とともに、明日美に返す。明日美がそれを受け取る。カナトは、そのまま出ようとし、最後に出口で振り返って出ていく。一人残される明日美。暗転

叶斗、明日美

明日美がパソコンを打っているシーンに戻る。男が入ってきて、「牛のコッコが産気づいたから、手伝ってくれや」「はい」パソコンを閉じる。椅子の下のダウンジャケットを着て、マフラーをつける。下手から、飛行機の音。旅行鞄を持ったカナトが現れ、チケットを持って、飛行機のゲートのボードを見上げる。明日美と男が「何回目だべ」などの会話をしながら去っていく。(リアルな世界に生きている明日美)

明日美が去ると、ピッピがパソコンの前に来て、「ナウワカユメの世界、それは夢は叶う世界」カナトが動き出し、幕。

明日美

2017年春季大会

ナウワカユメ

 これも実際に上演した脚本はだいぶ異なっていますので、「三重高校演劇部のページ」の「SENARIO」での脚本を読んでいただきたいと思います。

 まず「タイトル」ですが、大きく2つのパターンに分かれます。

 一つは、プロットができたときにはもう決まっているパターンです。

 「ナウワカユメ」はそれに当たります。このプロットを書いた生徒は「ナウワカユメの字を入れ替えるとユメワカナウになり、『夢はかなう』がこの劇のメッセージだからこのタイトルにした」そうです。こういうきちんとした理由があれば、何も悩む必要はありません。

 タイトルがぴったりくるような劇を創ればいいのです。

 もう一つは、仮タイトルが長い間ついていて、後から苦労して決めるパターンです。

 前述「スマートフォンと黒電話」は長い間、「若者とばあちゃんたち」とか「おばあちゃんと空き巣の話」などの仮タイトルがついていました。最初の設定ではおばあちゃんの電話は昔から演劇部に小道具としてあったプッシュホンを使っていたので、「スマートフォンとプッシュフォン」「スマホと固定電話」などいろいろ考えていくうち、「黒電話」を買った方がタイトルが引き締まるんじゃないかと考えました。そこでyahooオークションで黒電話を購入(1円でした)し、「スマートフォンと黒電話」というタイトルに落ち着きました。

 このタイトルを見た人は、あまり劇の内容には期待しなかったと思います。そんなに目を引く言葉が並んでいないからです。でも観終ったらきっと「なるほど」と思ったはずです。スマートフォンは今の若者の象徴、黒電話は昭和を生きぬいてきたお年寄りの象徴となり、普段は出会わないその二人の出会いが見どころになっているからです。

 「セブンマート大白田店のキセキ」もプログラムの締め切り(上演のほぼ1か月前)までタイトルが決まりませんでした。明日決めないといけない日に、「セブンマート大白田店の長い夜」「街のコンビニ セブンマートのキセキ」「コンビニ 冬物語」「コンビニ セブンマート大白田店の夜明け」など、いくつもアイデアを挙げました。それらを全部会議にかけ、部員で考えて、最後は全員一致でタイトルとしました。みんなで考えたので、この劇をこれから作るに当たり一体感が生まれました。

 タイトルに続いて「一言で言うと」を決めます。これはハリウッド映画ではプロデューサーに売り込むにあたって重要と言われる「ログライン」に当たり、1行で劇の本質を表すものです。「ナウワカユメ」では「ゲームの中に入りこんだ叶斗と進が大切なことをゲームを通して見つけていく話」となっています。

 面白い話は、必ず一言で表せると言います。

 例えば芥川龍之介の「羅生門」は、「下人が羅生門の上で、死人の髪の毛を抜く老女に出会い、たくましく生きることを学ぶ話」と言えるでしょう。(違うかな?)

 太宰治の「走れメロス」は、「人質になった友達との約束を守るため、途中で自分に負けそうになりながらも、それを乗り越えメロスが走って戻る話」と言えるでしょう。

 ログラインのつじつまが合えば、とにかく話はできます。

 面白い話になるかは、ログラインを見ると分かると言います。

 ログラインは「登場人物」「プロット」を書くにあたってぶれない指針となるので、私は必要なものだと思います。

 次に「時・場所・状況」を決めます。「ナウワカユメ」では「現代の冬と春の境目、Now Young Dream worldの世界(ゲームの世界)」となっています。

 生徒の脚本は「時」については、あまり考えていないことがあります。「いつの話なの?」と聞いても「いつでもいい」と帰ってくるときは要注意です。けど、作者の中には必ず「イメージ」があるはずなので、問い詰めて行けば結局決まってきます。

 「時(季節)」を決めるのは、日本人は「季節に応じて、物が動き、会話があるからです」。

 例えば20183月に上演を検討した「脱部屋」という劇では、最初の方の場面で、男の子が、幼馴染の引きこもりの女の子の父親にお土産として「カボチャの煮物」を持ってきます。(結局ストーリーが大幅に変わって、このエピソードは使われませんでしたが)これは劇が「秋」と決まったからカボチャの煮物になったのです。男の子が「カボチャの煮物」を持ってくると、男の子の家は「カボチャの煮物」を作ってお土産に持たせてやるような「温かい家庭」が想像できます。もらう方ももらい方、ありがたがってもらうのか、あっさりもらうのか、断るのか、によってお父さんの男の子の家族に対する考え方が見えてきます。

 季節が決まることによって、劇のリアリティ、会話の深さが出てくるのです。

 これはリトマス試験紙と同じです。酸性かアルカリ性か分からない水溶液でもリトマス紙があればどちらか分かるように、人の気持ちは観客が分からないので、贈り物を贈ればその反応で、その人が何を考えているかやどういう人間なのか、どういう人間関係なのかが観客に分かってしまうのです。

 「場所」の重要性については、平田オリザ氏が「セミパブリックな空間」がいい、つまり誰が出入りしてもおかしくない空間がいい、としています。例えば公園、ホテルや美術館のロビーなどです。しかし「セミパブリックな場所」を意識すると、登場人物が大勢いないとできないような気がします。実際に当校が作った創作劇は、「女子中高生の部屋」「映画部部室」「補習教室」「一人暮らしのお年寄りの一軒家」「ひきこもりの青年のアパートの一室」「夜の公園」などとなっていて、そこ(よく映画のシナリオの書き方の本では「密室」と表現します)にいろんな人がいろんな事情で入り込んでくることで、結局「セミパブリックな空間」が作られています。

 少人数の演劇部の劇では、「セミパブリックな空間」を意識することなく、「密室」をイメージし、そこに意外な人が入り込んで、人が出会うことを考えた方が良いような気がします。

 また余談になりますが、兵藤友彦・作「便所くん〜男だけの世界〜」では、ある学校の4階にある封鎖された男子便所」が「場所」となっています。場所だけで、いったいどんな話になるんだろうと、ドキドキしてきます。こういう素晴らしい「密室」を見つけるのが少人数の演劇部にとっては重要な気がします。

 「状況」については、平田オリザ氏が「近未来に、ヨーロッパで戦争が起きて、日本に有名な絵画が避難してくる」などを例を挙げて説明していますが、高校演劇では「期限を区切る」のがお決まりのパターンです。「映画コンクールの締め切りが迫っている」「文化祭の出し物を決める期限が迫っている」「推薦入試に志望理由書を出す期限が迫っている」などです。こういう風に期限を区切ることで、劇に緊張感が生まれます。

 

6 セリフを書くときに注意すべきことは?

 「戯曲講座で教えられないものはセリフである」あるプロの劇作家の言葉です。

 その人によると、「それぞれが持っている語彙力、感覚、普段使っている言葉で積み上げていくしかない」と言います。

 プロも困るセリフを教えることですが、私が言えることは次の5つです。

「@いろんな言葉を書く」「A説明的なセリフは書かない」「Bその時その人にしか言えないセリフを書く」「C一つのセリフには一つの情報しかいれない」「D意味のないせりふは書かない」ということです。

@「いろんな言葉を書く」

 流暢な日本語だけでなく、片言の日本語や他の国の言葉。

 普段の言葉使いだけでなく、敬語や乱雑な言葉使い。

 普通の会話だけでなく、講演・演説、インタビュー、朗読、嘘、ボケ、コロスによる群唱など。

 そう言うものを織り交ぜて表現するということです。

 余談ですが2016年に大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」は、登場人物二人の「交互セリフ」と「ユニゾン」から始まったのは、すごく演劇的でびっくりしました。

A説明的なセリフは書かない

 演劇はセリフで全て言ってしまうのでなく、演技やシーン全体で、お客さんが自然に分かってもらうのがベストです。

 登場人物がセリフだけで物語を説明するのは、お客さんは引いてしまいます。なぜそんな気持ちになるのか?人間は常に言葉だけで押し付けられるのが嫌だからです。自分の目で見て、耳で聞いて納得したいのです。

 てっとり早く説明したい場合は、当事者に言わせるのでなく、「狂言回し」(舞台の前に立って劇の世界を説明する役)を創ればいいでしょう。

 ここでまた脱線しますが、私の見た一番印象に残った「狂言回し」は、前述の演劇集団キャラメルボックスの「さよならノーチラス号」の「大人の(作家)タケシと編集者」です。

 この演劇はタケシが小学校6年生の頃の思い出話がメインなのですが、大人のタケシと編集者が「狂言回し」の役を果たすことで、劇がスピーディーに、しかも暗転なしで展開していきます。狂言回しが二人、というのは高校演劇でもよく見るパターンです。

話をセリフに戻します。セリフで一番表現すべきなことは、劇のストーリーではありません。登場人物の人間性、気分、性格、その人の過去の経歴(育ち)、他者との関係、トラウマなどです。

例えば誰かに「おはよう」というセリフでも。

「おはようございます!」「おっす」「おっは!」「…あ、お、おはようございます」といろいろな書き方があります。それぞれが登場人物の人間性、気分、育ち、相手との人間関係を表しています。

次に実例として「スマートフォンと黒電話」の最初から2場までの脚本を掲載します。2場で、ハナエの娘ワカナが、ハナエに老人ホームに入るよう勧めますが、「老人ホームに入りなさいよ」という言葉どころか、「老人ホーム」という言葉は一つも出てきません。

しかしお客さんが見ると、ワカナがハナエに老人ホームへの入居を強く勧めるシーンになっています。一度読んで「直接言わない」ことの強さと楽しさを感じてみてください。全文は「三重高校演劇部のページ」「SENARIO」で読んでみてください。

2014年度(第67回) 

中部日本高校演劇大会 上演脚本

 12月24日()5校目【枠番D】上演

スマートフォンと黒電話(くろでんわ) 三重(みえ)高校(こうこう)演劇部(えんげきぶ) 作 

登場人物

吉田マコト         アパートで一人暮らし。会社を辞めて失業中。

澤田ハナエ         一人暮らしのお年寄り。頑固で意地っ張り。頭ははっきりしているが左足が悪く、週1回ヘルパーに来てもらっている。

野口スエ 好奇心旺盛で元気なお年寄りだが、ちょっと忘れっぽい。ハナエとの古い友達。

斉藤ワカナ         ハナエの娘。意地っ張りは母親譲り。

        

       7月中旬のある昼下がり

ところ   地方都市の古い住宅団地

舞台     舞台上手が家の玄関(引き戸)、センターが家の居間。正面の奥に入口があり、のれんがかかっている。その奥を下手に曲がったところが台所、上手がトイレ。

 

         1 電話

  (略)

    2 ワカナの訪問

         セミの声。

         ここは地方都市の古い住宅団地。

         かつての新興住宅地も現在は住んでいるのは高齢者ばかり、人通りは少ない。

         そこにある古い一軒家でハナエがちゃぶ台の前で座椅子に座って新聞を読んでいる。

    そこに40代くらいの女性が訪ねてくる。

         呼び鈴を押す。

         誰も出てこない。

         女性、思い出したように、呼び鈴を4回連続で押す。

    ハナエが返事をして、玄関に向かう。

    ハナエ、玄関のカギを開けて、戸を開ける。

    二人顔を見合わせる。

    ハナエ、戸を閉める。

    ワカナ、戸を開けながら。

 

ワカナ   ちょっと?

ハナエ   新聞の勧誘ならお断りしてます。

ワカナ  

ハナエ   (外に押し出しながら)私んとこは昔から中日新聞とってますもんで、すいませんねえ。

ワカナ   (ため息)

ハナエ   家のペンキの塗り直しも結構ですので。

ワカナ   いい加減にして。

ハナエ   あんた、仕事忙しいんとちゃうの?

ワカナ   まあ一応ね。それよりお母さん、最近どうしてんの?

ハナエ   ホントに珍しいなあ。こんなとこ来るなんて。

ワカナ   ちゃんと生活できてる?

ハナエ   当たり前やんか。

 

         ワカナ、家に上がって、父親の写真に気づく。

         父の写真の前に座り、そばにあるリンを鳴らして拝む。

 

ワカナ   もう何年になるんやった?

ハナエ   15年。

ワカナ   そう。

 

         バッグからパンフレットを取り出そうとする。

    ちゃぶ台を見ると、そこには同じ封筒が。

 

ワカナ   何やお母さん、見てくれてたん?

ハナエ   (新聞を載せて)何のこと?

ワカナ   とぼけんでもいいやん。それ。

ハナエ   何言うてんの?

ワカナ   その新聞の下の。

ハナエ  

ワカナ   考えてくれとったんやろ?

ハナエ   たまたま置いてあっただけやわ。

ワカナ   (家を見回して)この家ももう古くなったし、そろそろ決心ついた?

ハナエ   何ゆうてんの?。

ワカナ   けっこう立派できれいやろ、その施設。

ハナエ   絶対行かへんって言うてるやろ。

ワカナ   お母さん、きょうは真剣に話し合いたいん。

 

         ワカナ、新聞の下からパンフレットを引っ張り出す。

 

ワカナ   全館バリアフリーやし、看護師さんだって24時間ずっとおるんやって。

ハナエ   はいはい。

ワカナ   足のこと考えたら、段差ない方がいいやろ。

ハナエ  

ワカナ   お母さん、花好きやったやろ。ここは庭いじりとかもできるんやって。職員さんが手伝ってくれて。

ハナエ  

ワカナ   それに一番ええんが、もう戸締りとかせんでええってこと。

ハナエ   ちゃんと戸締りしとるよ。この前のはたまたまやんか。

ワカナ   いきなり警察から電話かかってきて、本当に驚いたんやから。

ハナエ   あれからは戸締りちゃんとしとるし、もう大丈夫やて。

ワカナ   戸締り気いつけとったって、こんな郊外の団地の一軒家は狙われやすいんやよ。

         今度は命取られたらどうすんの?

ハナエ   まあそん時はそん時や。

ワカナ   何がそん時よ。ここに入れば、そんな心配はなくなるし、安心やない。

ハナエ   はいはい。

ワカナ   こういうことは早め早めに決めやなアカンの。動けやんようになってからでは遅いんやに。

ハナエ   はいはい。

ワカナ   携帯も持たへんからなかなか連絡もできへんし。何かの時どうすんの?

ハナエ   ご心配なく。

ワカナ   もう他人さんの世話にならへんと生活できへんのやろ。

ハナエ   ヘルパーさんこと?

ワカナ   そう。

ハナエ   週1回だけやんか。

ワカナ   でももう、そんな段階なんよ。

ハナエ   別に私が頼んだわけやないやろ。

ワカナ   それはそうやけど。とにかく決められへんの、もうこんなええとこ絶対空き出えへんよ。

ハナエ  

ワカナ   私も、めったに来られへんし、私の家の近くの方が何かと安心やろ。

ハナエ  

ワカナ   この辺も空き家増えたし、さびれてく一方やんか。

ハナエ  

ワカナ   (パンフレットを見せながら)それに比べてこんな街中でこれだけの施設。それに値段もここやったら何とかなるし。今が絶対のチャンスなんよ。だから

ハナエ   私はこの家に住みたいの!

ワカナ   お母さんのためを思て言うとるのよ。誰がどう考えたって、その方がええに決まっとるやんか。

ハナエ   この家が建っとる土地も、はよ売らんと買い手無くなるからやろ。

ワカナ   そんなこと誰も言うてないよ。

ハナエ   金、金あんたはいつもそればっかりやん。私の気持ちはどうなんの?

 

        

 

ハナエ   お茶入れたるわ。それ飲んだら帰ってな。

ワカナ   お母さん。

 

         ハナエ、出ていく。

 

ワカナ   しかたないやんか

 

    スマホの着信音。

    ワカナ、手帳型のカバーのついたスマホを出し、電話をとる。

 

ワカナ   はい。斉藤です。

         どうも、お世話になっております。

         えっ、今日ですか?(少しためらう)

         (意を決して)はい、わかりました。

         3時半ですね。(手帳にメモを取る)

         それでは書類を持ってお邪魔いたします。では、失礼します。

    

    ハナエ、お盆を持って入ってくる。

    

ワカナ   お母さん。

ハナエ   何?

ワカナ   仕事入ったから帰るわ。(立ち上がる)

    とにかく、真剣に考えといて。

 

         パンフレットを置いて出ていこうとする。

 

ハナエ   ワカナ。

 

         ワカナ靴を履く。

 

ワカナ   今どき、あんな電話使ってんのお母さんくらいやに。

 

         ワカナ、出ていこうとする。

 

ワカナ   (戸まで行って)お邪魔しました。(出ていく)

ハナエ   ちょっと。

    

    溜息。

    玄関のカギを閉める。

    ちゃぶ台の上のお盆を持って、台所の方へ出ていく。

 

 

Bその時にその人にしか言えないセリフを書く

 「セリフは一つ」という言葉があります。

 登場人物と状況が決まれば、その場で一番適したセリフがあるはずです。

 セリフで急に話題を変えたり、本来持っている登場人物の人格が変わるのはよく使いますがあまり良くはありません。話題を変更するときは、その前のセリフからのつながりを意識するとよいでしょう。

 また登場人物が3人以上いるシーンでは、そのセリフは「誰が言うべきか」をよく考えることです。登場人物の性格や立場が被らないようにしてあれば、必ずそのセリフを言うべき人がいるはずです。

 特にとっておきのセリフは「言うべき人が言うべきセリフを言う」ことで力を持ちます

 

C一つのセリフには一つの情報しかいれない。

 いわゆる長ぜりは意図的でない限り、よくありません。

 長いセリフが劇の進行上必要な場合は、それを聞いている人の相槌を入れるといいでしょう。

 またト書きについては決まりはないそうですが、分かりやすいようにこれも1行には1つの情報しか入れないことを心がけて書いていけばよいでしょう。

 

D意味のないせりふは書かない。

 生徒の書いた脚本を読んでいると、何回も挨拶したり、前に言っていたことを繰り返したりしている場合があります。またあまり面白くないギャグにこだわっている場合があります。物語の本筋や登場人物の紹介に関わりのない部分は、できるだけ削った方が、劇がシンプルで分かりやすく、さらにテンポもよくなります。

 

 

 

7 第1稿は最終に向けてどう変わっていくのか?

 プロット(箱書き)を書く→脚本会議する→Aを作ることが決まる→Aのプロットの充実(作者にアドバイスできる人がアドバイス)→充実したプロットの検討と修正→脚本執筆→第1稿完成 となります。

 しっかりしたプロットがあれば、必ず「幕」まで書けるはずです。

 第1稿を生徒が書いたら、それを全員が読んで修正をします。

 第2稿は顧問が書くことがあり、それを「潤色」と言います。

 顧問が第1稿を書いた場合は、生徒が第2稿を書きます。

 また上演が複数回ある場合は、上演のたびに反省をして稿を重ねることもあります。

 こうやって、第4稿〜6稿くらいまで行くと、ようやく脚本は完成します。

 

あとがき

 創作脚本について、私の経験してきたことを書いてきましたが、演劇で創作に必要なのはまず、やる気です。

 脚本会議では、自分に厳しくし、どんなに詰まらないと思えるものでも必ず1本出す、ということを強いることだと思います。

 そしてそれは、自分自身を見つめる作業にもなります。

 これを読んだ方々が、少しでも創作脚本の作成に役立つことを祈り、筆を置かせていただきます。

 

                                      2018311

 三重高校演劇部顧問 山田陽一郎