初めて演劇部の顧問をする先生方へ
ラクに楽しく
演劇部の顧問をする方法
　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　三重高校演劇部顧問　山田　陽一郎


　　目次

　はじめに

　１　演劇部って何のために存在するの？　

　２　部員は多いほうがラク？少ないほうがラク？

　３　部活運営のコツ①～世代で管理～

　４　部活運営のコツ②～ミーティングで問題を解決する～

　５　新入部員を入れるには

　６　スケジュールは逆算で立てる

　７　脚本をどう選ぶか

　８　練習場所を確保する

　９　予算と顧問を確保する

　10「制作」を作ろう

　11劇をたくさん見に行こう

　12創作脚本を作る

　13「走る演劇部」を｣作る

　14勉強と両立の可能性

　15演劇の教育としての可能性

　16高みを目指して～あとがきに代えて～


○　は　じ　め　に　○

　先日新聞にこのような投書が載っていました。
　つれあいが教員で、自身も出産前までは中学の教員をしていた29歳の主婦の方からでした。内容は以下のようなものです。

「夫は中学で教員をやっているが、朝はある運動部の部活動の指導のために6時半に家を出る。授業後も部活があるので、自身の授業準備や成績処理などは午後6時過ぎから行い、9時に帰宅すれば早いほうである。1歳の娘がいて週末に出かけようと思ってもほとんど部活。自身も教員時代は似たような生活だったが、これが教員の家庭の現実だ。」

　次は最近県の演劇部顧問総会で聞いた話です。

「ある学校では年度当初に誰が演劇部の顧問になるかで、会議が紛糾する。それは演劇部の顧問が大変だからだ。」

　これもなるほどと思える話です。なぜなら、何のノウハウなしに演劇部の顧問になったとしたら、劇を作ったり、大会に出たりすることだけで大変なことだからです。

　時々思います。精神的に幼く、協同で人と何かを作った経験に乏しく、自意識過剰でありがちな現代の高校生が、実際に大会などに上演作品を出してくること自体が「奇跡」じゃないのか、と。

　この本はそんな中、演劇部の顧問を新しくやることになった、11年前の私のような人のために書きました。
　タイトル通り、「ラクに」「楽しく」演劇部の顧問をするために、私が現場で試行錯誤してきたことをここに盛り込みました。学校の事情によって通用しない部分もあるとは思いますが、それでも何の情報もないよりはやりやすいのではないかと思います。

　そしてこの本を書いたもう一つの理由は、11年間私自身がしてきたこと、感じたことをまとめておきたかったからです。

　現代は忙しい時代です。それぞれが人生の目的に向かって歩み、寄り道している暇はありません。というか、試行錯誤する自由は誰にでもあるでしょうが、している時間に他のやるべきことを成したい人もいるでしょう。

　この本が、「演劇部の顧問になってしまった」という先生方にとって真に役に立ち、高校演劇発展の一助になること願っています。

１　演劇部って何のために存在するの？

　演劇部の顧問をするに当たって一番大切なことは、演劇部の存在意義をはっきりと生徒に伝えることです。これは家でいえば柱になり、そこがグラグラしていると「ラクで」「楽しい」部活にはなりません。
　これについては試行錯誤していただいてもいいのですが、ずばり書きます。

「お客さんに感動してもらう劇を作る」

　他にいろいろと考えてはいけません。演劇部の活動、そして評価はすべて、この一言に集約されてしまうのです。
　たとえば「劇つくりを通じて生徒を精神的に成長させる」とか、「コンクールで入選する」とかは目的にならないのか？
　それは「お客さんに感動してもらう劇を作った」結果得られるものなのです。
　目標として「コンクールで入選」はありえても、別に取り立てて口に出して言わなくても、「目的～お客さんに感動してもらう劇を作る～」がきちんとしていれば必然に目標は達成されるわけです。
　じゃあ、感動する劇を作るなら、部員のマナーが悪かったり、精神的に成長していなくってもいいのでしょうか？
　私が顧問経験から学んだことは、
「感動する劇を作るクラブ」＝「マナーがいいクラブ」＝「精神的に成長する生徒たち」という公式です。
　マナーが悪いクラブ、生徒が精神的に成長していないクラブは真に感動する劇を作れません。
　そういうクラブでも少し才能のある生徒や顧問、あるいはしっかりしたOB・OGなどがいれば、多少評価されるかもしれません。しかし、それは見るべき審査員や顧問が見ればすぐに分かってしまうのです。
　むしろ部員がいろいろ問題を抱えて大変だろうな、という部でも、「マナーがよい」「チームワークがよい」「部員に節度がある」「創造性に前向きさが見える」「部員の精神的な成長が感じられる」演劇部が作る劇には不思議な感動があるものです。
　そこが「高校演劇」の高校演劇たるゆえんであると思います。
　商業演劇なら、役者の演技がすごいとか、演出が斬新であるとか、舞台美術がすごい、などで評価されるでしょう。
　でも高校演劇はそんな評価を越えたところに価値があるのだと思います。
　高校演劇はお金や時間をかけられるわけではないし、舞台映えする役者さんたちをそろえられるわけでもありません。
　でも「お客さんに楽しんでもらいたい」という生徒の気持ち、「配慮」が行き届いていれば、そこには感動があるのです。

２　部員は多いほうがラク？少ないほうがラク？

　初めて顧問をされる方は、演劇部の部員数は多いほうがラクか、少ない方がラクか、どちらの方と思われるでしょうか？
　数年顧問をしたら分かるのですが、部員は多い方がラクです。
　まあゼロになりつぶれてしまったなら、究極に「ラク」ですが。

　その一番の原因は、演劇に絶対に必要な「役者」を差し替える余裕が生まれる、ということです。
　人数の少ない演劇部では、大会などに出場するために、精神的に不安定な生徒、健康面で問題のある生徒、習い事などで忙しい生徒、心配性な親の意向に忠実な生徒、学校自体の出席率がよくない生徒、家庭に介護などを抱えている生徒などを、役者につけざるを得ないことが起こります。
　この中で一番問題なのは精神的に不安定な生徒です。
　ちょっと注意すると考え込んで動けなくなる、練習(あるいは学校)に出てこなくなる、などです。
　これをやられると他の部員が参ってしまいます。

　特定の生徒が上演できるかの決定権～キャスティングボード～を握ってしまうのです。
　まあ、そういう生徒が困難を乗り越え、上演をやりきり成長すればそれは理想ですが、現実は理想通りいかないこともしばしばです。
　やりきったとしても本番が近づくと、周りが腫れ物に触るような扱いをしなければならず、「ラクで楽しい」演劇部から遠くなってしまいます。
　そういう生徒はあらかじめ把握し、重要な役をつけないでおく、役者にする場合も「つぶされるかもしれない」と見込んで、予備をつけておくのが現実的な対応だと思います。

　ですから、演劇部の人数は多いほうがよい、しかも性格を読みきれない一年生よりも、最低一度は公演をやりきったことのある二年生以上が多いほうがよい、ということになります。

「ラク」な演劇部を作るには、各学年の人数をできるだけ多くする、つまり毎年４月の時点でいかに新入部員を入れるか、にかかってくるわけです。

３　部活運営のコツ①～世代で管理～

　演劇部の運営方法で大切なことが２つあると思います。
　一つは「世代で管理する」
ということです。

　「ラク」な演劇部を作るためには、「世代」で管理するのが一番よいのです。
　これは２つの意味があります。
　一つは学校という組織自体が「世代」単位で動いているということ。
　もう一つは部活動自体が、「先輩から後輩にノウハウや思いを伝えていくことによって初めて成立するもの」だということです。

　私の学校の演劇部では、昔の女子高の演劇部が男女共学の演劇部になったときを「１期」として、「12期」とか、「13期」とか、名前をつけて生徒たちを呼んでいます。
　そしてその名前で呼ぶと、生徒自身が世代ごとに自分たちの部活を考えるようになってくるのです。
　たとえば
「今回の大会では13期が考えるベストの劇を作っていかなきゃならない」とか、
「14期を育てるためにはこの時期に新人公演を行なうのがよい」とか。

　当校の演劇部では夏の大会が終わると、一年生の中から部長・副部長を先輩たちが話し合って決めます。もちろんその後も上位大会などに出場する場合は、二年生が部長・副部長を務めるのですが、その一年下の世代の部長・副部長を決めるのです。

　そしてその世代の部長・副部長を中心に脚本を考えさせ、新人中心の公演を企画させます。
　上級生はそのお手伝い～具体的に技術を教えたり、実際に裏方や制作をやったり～をするわけです。
　また卒業しても世代の意識を残していくために、卒業式はみんながコツコツ集めた部費で、卒業生に下級生から花束と色紙を贈る行事も行なっています。

　このように世代から世代へ、技術や思いが受け継がれるようになると、運営が「ラク」な演劇部が作られていくのです。

４　部活運営のコツ②～ミーティングで問題を解決する～

　二つ目は「ミーティングで問題を解決する」です。

　これはある学校の演劇部の顧問の先生が言っていらっしゃったことですが、夏の大会が近づき、生徒たちがもめだすと「今年も来たな」と思うそうです。
　それくらい演劇を上演する際には様々な問題が起こります。
　
　それを解決するにはミーティングという手段を使います。
　ミーティングには二種類あります。一つは毎日の練習が終わった後、全員が円を作り、お互いの方を向き合って行なう、連絡事項や仕事の割り振りの決定、コミュニケーションのために行なうミーティング。
　もう一つが、畳があれば全員が車座になって行なう、問題解決のためのミーティングです。

　演劇部で起こる問題はほとんどが、「ある部員が困ることをしているのに、まったく自覚が無い。」ということです。

　それに対しては、まず本人がいないところで関係者が事実関係を整理するミーティングを行い、その後その部員を呼び出し、「どんな言動が問題か」「その言動を周りの人はどう思ったいるのか」「周りがそう思っていることをあなたはどう思うのか」などを問いかけ、話し合うミーティングを行ないます。

　そして最後に問題となる本人と周りがどういう具体的行動を取るべきかを話し合います。退部、謹慎(ある時期まで部活に出さない)、キャストやスタッフ、部長副部長の変更などの重要事項に関わってくる場合も多々あります。

　４月の入部から夏の大会が終わるまでは、重要ミーティングに一年生は参加させません。一年生の意識が二年生に追いついていず、まだ一年生自身がどんな人間かが分からないからです。しかし夏の大会を乗り切った一年生はそれ以降問題解決ミーティングに参加させます。

　問題解決ミーティングは時には遅くまで話し合うこともあります。特に一年生を迎え入れる直前には、二年生以上のトラブルは必ず解決しておきます。一年生が上級生の争いごとに嫌気が指して辞めたら「ラク」な演劇部にならないからです。

５　新入部員を入れるには

　演劇部は世代で管理することがコツですから、ある世代の部員を一定の人数以上を確保する、つまり春にできるだけ多くの数の新入部員を入れることが重要なポイントとなります。

　かといってこれはどこの学校でも苦労しているところで、私の学校では過去十年間、ある世代の主要部員（役者や演出、舞台監督がやれるような部員）が６人を越えたことがありません。むしろ大人数の学校にどうやって新入生を勧誘するのか知りたいところです。
　そういっても始まりませんので今まで試行錯誤してきた中で分かってきたことについて書きます。

 １　入学説明会などでビラを配っても効果はほとんどない。
　私の学校がある地方都市では、ほとんどの中学生が面白い演劇を見たことがありません。役者に対しては「あんなことやって恥ずかしい」「私はあんなふうに人前で大きな口を開いたりできない」というマイナスイメージを持っています。それは、劇というと小学校や中学校で行なう学芸会や芸術鑑賞会を見たくらいで、若い人たちがやっている、かっこいい劇を見たことがないからだと思われます。

　したがって演劇部がビラを配っても、引かれるのが関の山ですし、勧誘のために公演を打ってもそれがよっぽど面白い劇ならともかく、入部にはつながらないのが現実です。
　よってポスターには力を入れても、ビラ配りなどは、中途半端な情報しか伝わらないので、ほとんど行ないません。
　たとえば以前、ある男子部員に入学式の日ビラを配らせたら、自分たち同士で話をしている女子の新入生の群れに「演劇部です。よろしくお願いします！」と突っ込んでいきました。そして「どん引き」されてしまい、その年は部員が少ししか入らなかった、という経験があります。一度「どん引き」される学年ができると三年間響くので安易に新入生との接触はしない方がいいでしょう。

 ２　新入生全員が参加する集会などで話す機会があれば有効利用する。
　私の勤める高校では新入生オリエンテーションという時間があり、その一部に有志のクラブが新入生全員の前で入部を呼びかけたりすることに当てられています。
　バトン部はバトンをまわし、弓道部は俵に矢を放って、毎年大量の新入生がこの２つの部に入ります。
　演劇部はここでは絶対にパフォーマンスをしません。脚本を読んだり、外郎売(ういろううり・発声・滑舌練習の一つ)などをやったりしても、事情の分からない中学生には「変な集団」というレッテルを貼られるからです。これは経験則です。

　この場では、クラブジャージで男女二人くらいで新入生の前に立ち、「演劇部があること」「演劇は楽しく、コンクールなど発表の機会がたくさんあること」「役者の他照明、音響などもあり、先輩や先生方がしっかり教えてくれること」「勉強との両立も多くの生徒が達成していること」を告げ、詳しい説明は「○月○日部室で説明会を行なうので気軽に着てください」とだけ告げます。
　この時注意するのは、スピーチする者が舞い上がって早口になり、「何言ってたか分からなかった」とならないことです。しかしここで演劇部の存在をＰＲできなければ、その世代に大穴が開き、楽しい演劇部にはなりません。大きなポイントなので、何度もリハーサルをさせます。

 ３　新入部員説明会を開く
　私の勤める高校では新入生がクラブを見学に回る時期はたいてい新入生も上級生も新しいクラス担任との面談が入っています。ですから、一週間毎日新入生に部室で説明をすることはしません。一週間の期間があるなら、そのうちの２～３日くらいを演劇部説明会の日と設定し、新入生を呼び込んで部室で円になって話を行ないます。そして二年生・三年生部員の、常識をきちんと持った人、和み系の人をできるだけ呼んでおくようにします。逆に「引かれる上級生」は絶対呼ばないようにします。
　説明会に引退した三年生を呼ぶことは、「演劇をやる人って結構いるんだ」とか、「しょぼいクラブじゃない」と新入生が思ってくれたり、「いろんな先輩がいるから一人くらいは気が合う人もいるだろう」と思ってくれることを狙っているわけです。その説明会の日は極めて重要なので、ポスターを貼るときもその日時と場所だけは大きな文字で書きこみます。

 ４　説明会ではジュースを出しながら、ひたすらフレンドリーに接する
　説明会では貯めておいた部費でジュースやお茶と紙コップを用意します。ポッキーやアルファベットチョコなど手が汚れず、大きな口を開けないで食べられる、ちょっとした菓子も用意します。決して「うまい棒」でケチってはいけません。
　始まるまではこれまでの部活の公演の写真やパンフレットを見せながら歓談。名前と出身中学をルーズリーフなどに書いてもらいます。
　ここでは先輩・新入生のそれぞれが自己紹介。そして説明とは言っても堅苦しくする必要はありません。今までの劇のパンフレットを見せながら活動を紹介し、演劇部についての質問を受け付けます。この時、演劇をやっていると「国語」が得意になるなど、メリットをさりげなく盛り込むとよいでしょう。習い事などで忙しい新入生がいても「忙しいと無理だ」などと否定せず、「そういう先輩もいる」とか「やってみたらいいと思うよ」と常に肯定すること、入り口を広く保つのがポイントです。劇を見に来てくれたお客さんと同様、この場に来てくれたことに感謝する気持ちが伝われば成功だと思います。
　私の学校では専任教員は必ずといっていいほど担任をしているので、この説明会に顧問が出席したことはありません。生徒の力だけで運営します。夕方に部室に現れ、「何人来た？」「どんな子が来た？」と尋ねるだけです。

 ５　新入生が入ったら、歓迎会と記念撮影をしよう
　私の高校ではクラブ編成の日というのがあり、運動場に並べられた新入生を、各クラブの先輩が看板を持って取り囲み、入部したいものはそこへ入部届を持って集合するという行事があります。
　ここでクラブに入った生徒には、ちょうど昼時なのでお好み焼きかピザを食べさせる歓迎会を行ないます。この日の主役は一年生。二年生はひたすらジュースを注いだり、一年生に食べさせる役に徹します。緊張する一年生に最初だけでもリラックスし、「いいクラブだな」と思ってもらうためのパフォーマンスです。

　以上のようなことを行なっていますが、いまだに二桁の新入生が入ってきたことは一度もありません。また途中から何らかのきっかけで入ってきた部員がその世代の主力になることもあります。もっと強力に部員を勧誘する手段については、これからの課題となっています。

６　スケジュールは逆算で立てる

　演劇の公演の失敗で一番多いのが、「本番に間に合わなかった」というものです。
　これを防ぐにはスケジュールを立て、それを守ることです。そのためには逆算で考えます。

　まず上演日の５～６日前で顧問が確実に時間を確保できる日、できれば日曜日に「ゲネプロ」を設定します。これは、本番と同じ大道具、小道具、メイク、衣装などを準備して、本番と同じように稽古場で上演することです。そしてこの時は友達や演劇部のＯＢ・ＯＧ、保護者にも来てもらい、できるだけ多くの意見を集めます。
　これがないと、本番で小道具を忘れる、靴が合っていない、転換がめちゃくちゃなどの芝居になってしまうので、絶対必要です。

　するとその２週間前にはセリフが完全に役者に入った状態で「通し」ができている必要があります。
　通しができて初めて全体像が見え、「小返し」と呼ばれる、場毎に演出をつけていく稽古ができるからです。

　そのさらに２週間前には基本的な大道具の配置、つまり「出ハケ」の位置が決定しており、さらに登場人物の性格・経歴分析ができていて、役者はエチュードができるようになっていないといけないでしょう。

　そうなると、その２週間前には脚本が完全に決まっており、役者もほぼ決定している必要があるでしょう。
　その間に定期試験や修学旅行があると、その期間だけさらに延びていきます。

　このように逆算でスケジュールを立てていけば、本番に間に合わなかったということはなくなるはずです。しかし、実際には間に合わないことが起きます。その原因はほとんどが「脚本の決定(創作脚本の作成)」が間に合わないことに集約されます。

　そこで顧問は、脚本が決まっているかどうかをチェックします。そしてスケジュールを示すことで、経験の浅い部員でもその時期に何をやればいいのかを理解させます。

　本番が近づいて「本当に劇が出るのか」ということほど苦しいことはありません。また練習場所も計画的なほど確保しやすくなります。スケジュールを立てることは「ラク」な演劇部を作ることの基礎なのです。


７　脚本をどう選ぶか

　高校演劇の評価の８割は脚本で決まるといっても過言ではないでしょう。どんなに役者の演技がよくても脚本に決定的な問題があったりすれば評価されないし、逆に役者がしょぼくても脚本がよければ観客には、それなりに考えさせられる劇となります。

　このように脚本の選択ほど大切なことは無いのですが、よくある「失敗」は安易にインターネットから脚本を選んでしまうことです。インターネットには不特定多数の人から投稿によって脚本を集めたＨＰがいくつもあり、役者男子○名、女子○名と検索を打ち込めば、人数に会う脚本が何本もすぐ出てくるので、多くの演劇部が使っています。

　問題はここで掲載される脚本の多くが、全国の名も無い高校演劇部の部員やＯＢ・ＯＧが書いたもので、鑑識眼のある人の厳しい批評のフィルターにかかっていないということです。そこから脚本を選ぶと、たまには何かを考えさせられるような脚本もあるのでしょうが、多くは「人物の掘り下げ方が一面的で甘い」「対立点がない」「自己満足に陥っている」「テーマがどうでもよい」など、脚本として根本的な欠陥を持つものが多いのです。

　けれども部員に「君たちの好きなように選びな」と、物分りのよいことを言ってしまうと、生徒が探してきたこれらのインターネット脚本を上演せざるを得なくなります。具体的にそれを形にする作業に入ったとき「こんなしょうも無い脚本に振り回されて」としんどくなってしまうのです。

　ですから脚本の選択だけは口を出すべきだし、それを生徒に宣言しておくべきと思います。少なくとも「論ずべき価値あるテーマがあること」「対立点があること」「人をバカにしたりして笑いを取ろうとするような姿勢がないこと」「テーマを全部セリフで言ってしまう様な脚本ではないこと」などはチェックすべきでしょう。インターネット脚本であってもしっかりした個人が運営するＨＰから頂いた脚本を使用すべきと思います。

　また、脚本についてはできれば図書館に、「高校演劇Selection」「いちご脚本集」を置いてもらい、さらに演劇部では「季刊高校演劇」を購読しておいて、既成脚本のうちかなり批評の目にさらされているものを生徒の手の届くところへ揃えておく、そして人数が合うような脚本を時間を見つけて顧問自身が読んでおき、生徒の脚本探しが難航しているときに、「これ読んでみたら？」とわたせるようにしておくとよいのではないでしょうか。

８　練習場所を確保する

　演劇の公演にしろ、一つのイベントやプロジェクトを行なう場合にしろ、大切なものは「火事場の紐」つまり「か・金」「じ・時間」「ば・場所」「ひ・人」「も・物」です。

　その中で演劇を行なうとき悩みの種となるのが「場所」の問題です。
　全国大会に出場するような学校でも専用の練習場を持っていない演劇部は少なくありません。多くが体育館のステージのような扁平な場所、もしくは特別教室などで時間を限られて使用しているのが現状でしょう。

　でも公演が近づき、立ち稽古の時期が近づいたときはもちろんのこと、普段の練習でも体を動かしたり、声を出したりする必要がありますので、広くて声を出してもうるさがられない場所はぜひ必要となります。

　場所に関しては生徒がどうのこうのできませんので、顧問の責任となります。私は当初、生徒たちが「もっと広い場所でやりたい」と、言ってこないので、狭い体育館のステージで本番直前まで練習をさせ、大会前日のリハーサルに初めて実際の寸法の舞台に立って、本番を迎えていました。今となっては当時の演劇部の生徒たちはやる気はあったのに、顧問の考えがそこまで及ばず、可哀想だったなと思います。
　あるときふと気づいて、別のクラブが練習場に使っている広めの部屋を、その部が使用していないときだけ使用させてくれと頼みに行き、そこで練習できるようになりました。その年からいきなり作れる劇のレベルが上がりました。それくらい演劇にとって広い「練習場所」は重要なのです。

　何とか演出が全体を見れるほどの広さがあり、声もまあまあ思い切り出せる場所が、特に立ち稽古に入ったらそれが絶対に必要です。そしてその場所の使用に当たっては絶対にルールを守らせる～たとえば飲食禁止なら絶対にしない～ことを言っています。

　顧問と異なり生徒は、自ら好んで演劇部に入り、演劇を作りたいと希望しているわけですから、演劇部がたとえ学校にとって運動部などに比べて日陰の存在であるとしても、顧問が場所の確保だけは取り組んでやりたいと思います。

　逆に「場所」以外の部活運営面のことは、細かいことを生徒から相談されても、「場所と金と印刷と大物の運搬以外は自分たちの手でやれ」と突き放しています。

９　予算と顧問を確保する

　私が演劇部の顧問となった最初の数年は、予算が少なく、大会前にたいてい底をついていました。また大道具を作っても運搬にお金は出ないので、学校に置いてある軽トラを使っていました。そのため生徒には「軽トラに乗せられない大道具は作るな」と言っていました。予算がなく段ボールで作ったセットを運ぼうとしたら大雨になり、必死になってビニール袋を上からかけたこと、排気ガスだらけの国道を冷房の効かない軽トラで炎天下遠くの会場まで荷物を運んだことなど、今でも思い出します。

　何か物事を進めるとき、いろんな面に役立つのはやはりお金です。ある程度演劇部顧問をやったら、やはりお金の面は学校に交渉してみましょう。連盟加盟費や大会参加費、トラックのレンタル代(または運搬代)は、部活予算とは別に出してもらうように積極的に交渉をしていくべきでしょう。もちろん部費を部員から毎月一定額徴収する（これは幽霊部員の防止にもなる）ことも必要でしょう。

　ある程度の活動ができるようになったら顧問一人でやれることの限界を感じてきます。特に三年生の担任になると、夏の大会と保護者面談が時期がかぶるので生徒のことを見てやることができなくなります。ぜひできるだけ自由に動ける顧問２名以上をつけてもらうよう、これも機会あるごとに訴えていく必要があるでしょう。

　私の学校では以前は、健康面などで不安のある年輩の先生と私が顧問で、事実上一人で顧問をやっていました。そしてその先生が退職し、一人顧問となった年、歓迎会の宴席で、偶然にも演劇経験者の常勤講師の先生と出会い、以後その先生にもう一人の顧問になっていただいています。そして、事務的なことや渉外的なことは私が担当し、その先生には劇の内容やトレーニングなどを見てもらっています。脚本選びなどは両方がかかわりますが、それ以外はそれぞれが得意とすることに集中できるので、かなりラクになったと思います。

　三人目の顧問の先生に来ていただいたときもまったく同じようなパターンでした。
　『アンタッチャブル』という映画に「リンゴが欲しいときは、木から直接もげ」という有名なセリフがありますが、既存の先生に期待するよりも、若い人で演劇経験者の人に希望して来てもらう方が確率が高いのだと思います。また長期的には、演劇部の生徒に目をつけて卒業してから教員として呼ぶのもひとつの方法です。生徒の安全確保や、保護者のクレームが増えている昨今、一人の目で見るより、二人の目で、二人より三人の目で見たほうがはるかに「ラク」な部活動になり、大きなことができると実感しています。

10　「制作」を作ろう

　「制作」とは、その公演を企画運営、広報宣伝し、案内標識やパンフレットを準備し、来ていただいたお客様に満足していただくようにする役目です。つまり「演劇」というより、「公演」を完成度の高いものにする総合プロデューサーです。
　万国博覧会のようなイベントではプロデューサーが極めて重要だとは一般に認知されていますし、商業劇団の公演では「制作」なしの公演などありえないのですが、高校演劇では一般的ではありません。
　しかし高校演劇であっても「公演」自体を一つの作品としてとらえ、「お客さんに感動していただく劇を作る」という目的を掲げた場合、制作抜きでそれは達成し得ないと気づくでしょう。

　制作を高校演劇に持ち込むメリットはもう一つあります。生徒の能力を開発することができるという点です。
　公演に関してポスターを作ったり、パンフレットを作ったりするには、自身がイラストを描いたり、パソコンでデザインをしたりする、もしくはその能力がある人に的確に依頼する能力が必要になります。いつまでにどういう仕事をしておかないといけない、という段取り力も必要になります。これらは社会では必要とされますが、現在の普通科の学校教育では開発されにくい能力ですから、演劇部でそれができるということはメリットがあると思うのです。

　当校の演劇部では当日にお客さんに配るパンフレットを「当パン」と呼んでいます。そこには公演に当たっての一人一人の思いを盛り込みます。もちろん顧問も書きます。制作がどんなものを作るかは、演劇部全員にとって楽しみになっています。１年生にその仕事を教えるために、今まで先輩方が作った当パンやポスター、それに中部大会などに見学に行ったとき出場校が配っていた当パンなどはファイルします。

　そのときそのときに生徒たちが作る当パンは、自分たちの演劇部が残してきた足跡でもあり、演劇部が部員とともに生きてきた証ともいえます。
　そして今では生徒が持つ才能を発見したりすることもできる「制作」は高校演劇にぜひ必要なポジションだと思っています。

11　劇をたくさん見に行こう

　「いいものをたくさん見ないと進歩はない。」
　スポーツでも、仕事でも何でも言えることです。演劇も例外ではなく、たとえば感動できる劇をたくさん見ることが、「見る目を養う」という意味でとても大切です。

　顧問になって２年目の年、始めて部員を連れて県大会を見に行きました。というのもそれまでは県大会など出場したことがなかったので、県大会の日にみんな用事を入れていたからです。

　その年初めて部員と県大会の劇を観て、「いや高校演劇もなかなかやるなあ」とか「演劇っていいもんだなあ」と感じ、その年の冬、ブロック大会へ見学に行きました。学校からの費用はなしです。そこで数々の感動できる演劇と出会った生徒たちの力が伸び、２年後には初めて県大会に出場することができました。以後演劇部で、あるいは近隣の学校の演劇部と協同で、必ずと言ってよいほどブロック大会に劇の見学ツアーをしています。

　ブロック大会のよいところは、高校生が作るある一定レベル以上の作品を、たくさんの本数見ることができるという点です。現場での出場校の堂々とした態度や、クリエーターとしての姿勢も見逃せません。

　劇を見た後大切なのはその夜、宿舎の会議室などを確保し、劇の感想を話し合うことです。この時、経験の浅い１年生から上級生、顧問へと順に感想を回していくことで、浅い見方をしているものが、だんだん深い見方に気づいていくことになります。これにより全員の劇を見るレベルが上がってきます。

　ブロック大会見学の最大のネックは費用と思いますが、これは入部のときから「必ず行くんだ」と言い続けることです。そしてできるだけ安い交通機関と格安ビジネスホテルを利用して自分たちなりのツアーを作るのが一番です。学校が活動を理解してくれると、顧問の交通費を出してくれるようにもなりました。

　もう一点、顧問の家族との関係もポイントです。ふだんから家族サービスを心がけ理解を求める長期作戦が必要です。

12　創作脚本を作る

　演劇部で一番大きな問題は部員数の問題であり、部員数の問題イコール脚本の問題です。しかも習い事や塾、介護などで部活に打ち込める生徒が減っている昨今で公演をしようと思うと、その少人数に見合う脚本がないのが一番大きな問題となります。また著作権の問題も大きく、脚本使用を公演のたびに手間をかけて連絡・交渉するのは煩雑ですし、使用料を支払っていたのでは低予算の演劇部は持ちません。

　それをすべて解決する魔法のような手段が「創作脚本」です。
　「創作脚本」を作るのはシロウトには無理、敷居が高いなどの印象を受けますが、コツをつかめばそれほど難しくはありません。

　まず、生徒にプロット(あらすじ)を期限を決めて書いてこさせます。どんな思いつきでもよい、自由にだけど必ず書きなさいと言います。すると、生徒は意外にもモノになりそうな物を書いてくるのです。なぜ普段頼りない生徒でも書いてくるのか？それは演劇をしようとする生徒は、夢想家であることが多く、ゲームやアニメの経験が豊かなので、現実主義者の教員に比べ、想像力が豊かだからだと思います。

　次にそこから使えそうなモチーフ(劇に置ける題材)やストーリーをピックアップして、全員で話を作ります。人数が多すぎたら６人くらいのグループに分けてもいいと思います。部員・顧問含めいろんなネタをくっつけたり、突拍子も無い発想を出したりして作るのです。タイトルも考えます。そうすると深刻になりそうな話でも、笑いの要素が加わってくるはずです。

　そしてそこから「箱書き」を作ります。｢箱書き｣とは、「起承転結」の一つずつにそれぞれ「起承転結」を作り、全体を16個の「箱」に構成したものです。この「箱」１つが３分と考えると、16個で48分のストーリーができるはずです。そのとき登場人物の性格や背景をしっかり考えて、キャラクターや劇での役割がかぶったりしないようにしておくのがコツです。これは県の講習会で石川県の元演劇部顧問で演出家の井口時次郎先生から習った方法です。

　そこまで箱が書けたら、セリフが書ける人にセリフを書かせます。そして第一稿ができたら、全員で読んでみて改善点などを話し合って、以後第二稿、第三稿と稿を重ねます。すると全員の思いのこもった創作脚本ができるのです。

　難しそうに思いますが、「箱」さえできて、登場人物の設定がしっかりしていれば、必ず脚本は２日でできます。苦労してもメリットは極めて大きいのでお試し下さい。

13　「走る演劇部」を作る

　「走る」つまり「体を動かす」演劇部を作ることが大切です。これは演劇の入門書となっている「成井豊のワークショップ」(成井豊著・演劇ブック社)でも、ベテラン演劇部顧問のＨＰでも繰り返し出てくることです。

　体を動かすメリットは想像以上に大きいのです。

　第一に演劇は「肉体と声」で人々に何らかの感動を与える芸術である、と言うことです。絵画と異なり、中間メディアがなく、ダイレクトに人間の肉体が観客の目にさらされるわけで、「美」を意識した体つくりは必須、むしろ鍛えずに舞台に立つ方が恥ずかしいと言えるでしょう。
　「演劇」とは「美しさが才能」なのです。では「美しさ」とは何か？生まれながらの顔立ち・体型などは変えることはできなくても、「引き締まった体」「動き」「声」「感情表現」などの「美しさ」は練習で身についていくわけです。特に「動き」は役者の魅力の大きな要素で、現実に舞台上で走ったり、殴り合ったり、転がったりするわけですから、どんな脚本に対しても俊敏な動きができるよう、訓練しておくことが「人に感動してもらう劇を作る」の必須条件です。

　第二に体を動かすことによって、精神を鍛えることができる点です。人間は体を動かさずに頭だけを働かせようとすると、袋小路の考え方に追い込まれてしまいます。頭の中でごちゃごちゃ考えているだけで、現実的対処ができなくなってしまうのです。
　その点汗を流し、暑さや寒さに耐え、肉体的に苦しいときも歯を食いしばって我慢する訓練をすることで、現実的で健全な思考を身につけることができると思います。

　そして最後に、体を鍛える過程で、チームワークが醸成されるという点です。誰でも一人でランニングをしたり、腕立て伏せ、受身、ダンスなどをするのは難しいでしょう。みんなでやって、そして苦しいときも隣の人ががんばっているのを感じることで、やりきることができるわけです。そうした苦しさを乗り切ることで、頭の中の概念だけでなく、体を通してお互いの理解やチームワークが生まれてくると思うのです。

　演劇部は学校では文化系クラブの区分に放り込まれて、練習場所も肉体的訓練には不十分な場所しか与えられていないでしょう。しかし、運動部のようにジャージを揃え、生徒や保護者を説得し、「走る部活」であるという理解を周囲に認めてもらうことが大切です。
　そして部員一人一人が頭でっかちでなく、現実的で健全な思考をする部活をすることが、「ラク」な部活につながっていくと思います。


14　勉強と両立の可能性

　クラブ活動に理解があり、「文武両道」を実践する学校の中には、「クラブ活動の妨げになるから夏休みは補習するな」とか、「クラブ活動の妨げになるので三年生の夏までは補習はしない」と決めている学校があるようです。

　学校によって事情は様々だと思いますが、たいていはこの逆の学校が多いのではないでしょうか？中には「進学実績（国公立大学の合格者数）」をあげることが至上命題とされ、熱心にクラブ指導する教員はその流れに逆らっている、と見られかねない学校もあるのではと思います。

　私自身の感覚では「演劇」は「勉強」と両立しやすいクラブの一つであると思います。そして両立というより「両方の相乗効果」を狙った指導をすべきだと思っています。

　まず部員には入部のときから部活も大切だが、勉強も大切にしようというコンセンサスをとります。次に試験期間に入ったら、計画表を配布し、目標を書かせ、コツ～一夜漬けにならないこと～を話し、「試験範囲」「試験時間割」を確認させます。そしてこの２つを分かっていない生徒をあぶり出し、指導します。次に空き教室に有志を集めて勉強会をさせます。このとき黒板に目標を書くほか、勉強の得意な先輩は後輩の指導をしてもらいます。もちろん顧問も時々は顔を出して様子を見たりします。そして最後にミーティングをして帰り、ということにします。

　これを行うようになった理由は、演劇も進学もという希望を持って入学してきた生徒が、演劇部が答えを出せず、勉強を気にして辞めていったという苦い経験からです。以後、試験前の勉強会を行なうことで、生徒はたいてい成績が上がったと喜んでいますし、保護者からも苦情は来ません。部活をやった生徒の進学先はたいていほぼ希望通りのところです。

　もともと演劇は脚本を音読することで、漢字を覚え、文章を深く理解し、それを的確に表現することを繰り返す作業であり、国語力と深い相関関係にあります。また外郎売や早口言葉を繰り返したり、ストレッチなどで体を動かすことで、脳を活性化しているとも言えます。
　その上、未来に向け計画的に物事を進めていく力や、人間関係を見抜く力や、問題を解決する力が身に付くわけですから、まさに学習面でも、現実的な仕事対応能力を培う上でも最適の部活と言えるのではないでしょうか。

　そのメリットを訴えて、生徒をその気にさせ、「文武両道」を現実にしていくのが、「ラク」な演劇部を作る一歩だと思います。


15　演劇の教育としての可能性

　演劇部の顧問をしていると楽しいことも苦しいこともあります。公演が終わってお客さんの拍手を聞くとき、目標としていた大会で入賞を果たしたときなど、やっていてよかったと思います。
　一方苦しいことも多々あります。生徒同士の人間関係に悩んだり、劇作りがなかなか思うように進まなかったりするとき、また生徒が書けなかった脚本を自分で抱え込んだり、作れない大道具を抱え込んだり、連盟の仕事で夜まで残業したりしたときなども、「自分は何やってんだろ」と思います。
　けれども最大の問題は、顧問とその家族の人間関係の問題だと思います。大会などもないラクな部活だったら、もっと子供の勉強を見てやったり、家事や家族旅行をしてやったりできるのにと思うことも多くあります。
　しかし今も多くの顧問が演劇部を続けておられるわけは、演劇を通じて生徒が成長していく、その現場に立ち会えるからではないでしょうか。

　まず個人プレーでは演劇はできません。時には気の合わない人間や付き合うのがしんどい人間ともコミュニケーションをとっていかねばなりません。
　また計画性が無くては演劇はできません。先を読み、どの段階で何が必要か、どこまで達している必要があるか、そのため今何をすべきかを的確に読まねばなりません。
　先輩後輩という縦割りの経験ができるのも特徴です。後輩は先輩のいうことを守り、先輩は後輩に教えるために努力する、そういう経験が今の高校生たちにとっては貴重なのではないでしょうか。
　そして何より、演劇は登場人物になってセリフを考えることで、自分自身の内面を考えるきっかけとなります。自分が不可能と思っていたことが、そう自分が思い込んでいただけだと気づいたり、今まで気づかなかった感性に気づいたりできます。

　そいうった事柄で成長していく生徒を見ることができることが、顧問の最大の喜びだと思います。

　私はまったく演劇のことを知らずに顧問になりましたが、顧問を続けることで、いろんなことができるようになり、いろんなことが分かるようになりました。またいろんな問題を抱えた生徒の内面や背景も深く知ることができ、それはクラスにおける生徒指導にも生きました。そして11年経った今、演劇部顧問をしてきたことで身につけたものをいろんな面で還元していきたいし、それができると思うようになりました。

　顧問自身の成長という意味でも、演劇とは「面白い」活動ではないでしょうか。


16　高みを目指して～あとがきに代えて～

　演劇部の目的は「人を感動させる劇を作る」ということに尽きる、という話を一番最初にしました。それと矛盾するようですが、さらに高みを目指すとなると、もう一段上の発想が必要になってきます。
　それはたとえば、
　「お客さんの記憶に残る劇を作る」
　「お客さんの人生を変えるような劇を作る」
　「地域の、時代の空気を吸い、それを全国へ発信していけるような劇を作る」
　などです。

　せっかく演劇をやろうというのですから、県大会に出られるようになったら次はブロック大会へ、ブロック大会へ出られるようになったら次は全国大会に、全国大会へ出られることになったら全国大会最優秀賞を獲得するためにはどんな劇を作ればよいか、を考えていくことが大切だと思います。

　また演劇部の活動が活発になると保護者に考え方を理解してもらい、できればファンになってもらうことも必要でしょう。
　そのレベルに達した時には、松戸馬橋高校演劇部の土田峰人先生のＨＰ内の「ＨＯＷ　ＴＯ　演劇部」というコーナーがあるので、参考になると思います。

　私が顧問をして、各校の演劇部を見て感じるのはどんな学校の演劇部も可能性を秘めていることです。不可能だと思うからできないんであって、可能だと信じ、一歩一歩着実に歩んでいけばどの学校でもできること、だと思うのです。
　
　最後になりましたが、これを読まれた方が顧問をなされる演劇部が、部員の力を最大限に発揮し、より大きな感動を与えてくれる劇を作る演劇部を「ラク」に作っていってくださることを祈っています。

　そして大会などで「見てよかった」と思える演劇に出会えることを楽しみにしています。


平成19年９月２６日　自宅にて
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　山田　陽一郎