高校演劇プラニング講座          三重高校演劇部顧問 山田陽一郎

2002/11/28(2004/9/10一部改定)

 

1 まず演劇を上演しようと思ったら

     全員の意思を確認しよう。本当に最後までできるのか。途中で辞めたり、別の予定があって練習に参加できない状況では、劇を上演する事ができない。理想は表の人間も裏の人間も全員が練習にフルに参加し、練習を見て批評しあい、大道具を作る日には全員が作業して、劇を作り上げていく事だ。

     ところが、実際にはそうはいかない。塾や習い事に行くものもいれば、追試によく引っかかるもの、体調を崩してよく学校を休むもの、他のクラブと兼部するものなどもいることが多い。気持ちだけは「参加したい」と思っていても、実際に練習に参加できなければみんなの夢を遠ざけることになってしまう。本当に参加できるのかを冷静に考えなければならない。演劇をするものは自分を客観視できなければならない

     こういう状況でまず考えなければならないのは、役者と演出(できれば舞台監督)が最低週5日間は全員参加して練習が出来る状況にあることを確認する事だ。その条件に当てはまらなければ、役者になりたいという意思があっても役者にすべきではないし、立候補すべきではない。(これは理想であることは断っておきたい。部員の少ないクラブではこんな余裕はないかもしれない)

     劇の上演には裏方はたくさんいた方が有利である。何人いてもいいくらいである。ところがそんなにたくさん部員がいるわけがないのだから、劇にもよるが最低人数を書くと、照明2人、音響1人、舞台監督1人、演出1人である。サブマスターフェーダーが使える場合で、ピンスポ操作がなければ、照明1人でも可能かもしれない。しかし大会はサブマスターは使えないから、5人のそれぞれの仕事に情熱を持ち、熟練した裏方がいるのが理想だ。もし1年生が照明、音響を担当するなら、教える上級生が必要である。

     だから10人部員がいれば、せいぜい役者5人の劇、7人なら2人劇を作るか、探す。この場合男女比も重要な要素であるから、実際の役者はもっと少なくなる。役者になるということは、神輿(みこし)に乗ってみんなに担いでもらっているようなものである。決して奢(おご)ることがあってはならない。

2 上演作品を作る、探す

     三重高校演劇部では役者の人数が決まってから期日を決めて、脚本を探す事になる。探す場所は、図書館の「高校演劇セレクション」「その他の脚本」顧問が持っている「季刊高校演劇」「中部大会脚本集」、部室にある「脚本」あるいは「インターネット」などである。

     この場合、やりたい脚本を一人1本(何本も持ってくる人もいるが、せいぜい2本くらいにしぼったほうがよい)期日を決めて持ち寄る。このとき、忙しいからって探さない(能力がないから探せない)のは部員として失格である。それぞれが探し、自分のクラブでやりたいなあというものを持ち寄る。(努力を見せることが部として大切)この際、最初に決めた役者の人数よりプラス1くらいの範囲の脚本も探してよい。それは無理すれば出来るレベルかもしれないからだ。

     脚本を持ち寄ったら、顧問にコピーをとってもらう。これが部員全員に渡れば理想だが、そうすると1本で何百枚というコピーが必要になる。だから現実にはできるだけ縮小コピーしたりして2人に1冊づつくらいしか渡らないということになる。

     脚本を読んだら感想をそれぞれメモ用紙に書いて部長もしくは副部長に渡す。時間が経つと脚本の印象が薄れる。また、読むとき役をもらった人は、真剣に読むことが重要だ。疲れているからといって手を抜くと、その脚本がよいのか、悪いのか判断がつかなくなる。

     脚本を判断する基準は2つである。

@     部員全員が何かを感じ、やってみたいと思える脚本。

A     現実に役者になりそうな部員の顔ぶれを見て、(男女比も含む)可能な脚本。この際主役や劇の筋が変わってしまうのに、無理に脚本中のおじいさんをおばあさんに変更したり、女子高生を男子に変更したりして、「できるだろう」という甘い考えをしてはいけない。作る側の都合を優先させるのではなく、作者の思いや、見る側の思いを優先させるべきだ。

 ・ 最近の三重高校では脚本を創作するようになってきている。もちろん書ける人間(徹夜も覚悟)がいるからであるが。

              創作脚本は面白い。苦労するけどその甲斐はある。

         ノウハウは2003年三重県で中部大会をやったとき、劇作家で演出家の平石耕一先生の講習会にO先生が運営委員として参加して得た。平石耕一先生講習の内容は中部地方の演劇部なら2003年度の中部の活動報告集のなかにあるので、参考にしていただきたい。そのほか平田オリザさんの『演劇入門』や高橋いさをさんの『I-note』も参考になる。

3 脚本の決定

     脚本の決定で絶対にまずいのは多数決である。反対した人だって最後の最後まで劇作りにつきあい、その人たちがやる気にならないと劇は途中でつぶれてしまう。納得するまで話し合って最後まで一本一本削っていくしかない。

     三重高ではあと2本に劇がしぼられ、最後の決定をくだすときは、1年生を抜いて話し合うことが多い。なぜなら、演出、舞台監督など劇の最重要部を担当し、劇のイメージを作っていくのは上級生だからだ。

     そしてその年に一番信頼できる人が最後の決断をするケースが多い。その人が「○○をやりたいので、みんな協力してください」と言えば決まりだ。

     決めるコツは「中身があること」「自分たちが多少努力をすればできること」「何らかのメッセージがあること」だ。どんなに良い内容の劇でも、部員の技量を遥かに超えた劇はできない。それがしたかったら普段からトレーニングを積んで、よい劇の本物やビデオをたくさん見て部員のレベルを上げていくしかない。

4 配役の決定

     配役に関しては脚本が決まった時点でだいたい決まってくるはずだ。まず演出と主役級の役者はほぼ決まっているはず。問題はそれほど全場面に出てこない役だ。これは演出、舞台監督、部長、副部長などが、話し合って指名するしかない。

     三重高校ではこのさい上級生による1年生への面談をよく行っている。塾などの予定を聞いたり、ちょっとした状況を与えて演じさせてみたりもする。そういうこともあわせて総合的に残りの役者とスタッフの分担を決定する。

5 スケジュールの確定

     次に上演日までの、書き込むスペースのあるカレンダーを持ってくる。ここに学校の行事予定表を顧問からもらって書き込む。定期試験期間、土曜出校日、実行委員会、模擬試験、修学旅行、保護者面談など。三重高はコースによって予定が違っているのが最大の悩み。注意する。

・このとき表方のスケジュール表と、裏方のスケジュール表を同時に作る。裏方のスケジュール表は忘れがちだが、必ず作っておく。舞台監督はそのために力量のあるものをつけるべきだが、実際は演出が責任を持って表と裏のスケジュールを作り、管理していくことも多い。

     三重高を初めて県大会に導いたときの主役をやった某先輩の言葉「仕事をやらない人がいたら、その人の分もやっちゃいなさい。もしそれをやるべき人が文句をいったら、だったらちゃんとやれと、言い返しなさい」経験に基づいた、的確な言葉だと思う。

     表方のスケジュールについて述べる。

@     リハ1日前 ゲネプロ(本番どおりの服装、メークで、時間を測定、音響も照明も舞台監督も入れて本番のようにやる。)

A     その前8日間くらい 通し稽古(最初はプロンプターを入れて、その後はなしで)一番繰り返しがしんどいとき。でも舞台に立つその日をめざして、また一緒に演じたりする仲間や、自分を舞台に立たせてくれるスタッフのみんなの気持ちをくみ取って頑張る。なおこの通し稽古は「体育ホール」など本番と同じ広さの場所でないとできないので注意が必要である。

B     その前10日くらい 立ち稽古。場面ごとに分けて動作、表情、声の間や質を作っていく。ダメ出しを詳しく脚本に書いていく。ここの集中力が劇の出来を分ける。

C     その前10日くらい 読み合わせ 脚本を全員で読んで覚える。この際脚本の読み方や疑問点はすべて解決して置くようにする。

D     その前3日くらい 脚本研究。時代背景、方言、文化の違いなどについて図書館を訪ねたり、実際に取材したりして脚本を理解する。

結局配役が決まってから、リハーサルまでにメンバーが揃って練習が出来る日数が、最低32日は必要だとわかる。これはもちろん定期試験期間などを抜いた日数であるし、劇の内容によっても変わる。

     いっぽう裏方のスケジュールである。これは表方に関連してくる。

@     立ち稽古までに必ず、舞台に置く大道具の配置や出入り口を決定する事。

A     立ち稽古までに音楽・効果音の選択をかなりしぼっておくこと。

B     通し稽古までに本物の大道具を入れること。

C     オペレーター打ち合わせまでに音響Qシート、照明Qシートなどの提出書類を書いておくこと。

D     リハーサルまでに必ずリハーサルの手順を作ること。

E     本番に絶対に忘れ物がないように付帳をつけること。

F     本番に予定時間内にセッティングが終わるように段取を組むこと。

である。裏方スケジュールで考えなければならないことをあげると、

@     脚本の使用許可

A     大道具

B     小道具

C     服装、くつ

D     練習場所

E     照明

F     音響

G     メイク

H     実行委員会も含めた脚本の印刷と準備、オペレーター打合せのシート準備

I     実行委員会、リハ、本番での足の手配(帰りも含む)

J     荷物の荷作り、運搬

といったところである。三重高は@、D、Hの前半、I、Jを顧問が行ってきたが本来は舞台監督を中心として、部員がやるのが望ましい。

     舞台監督の最大の仕事はスケジュール管理。つまり段取りを組むことである。実際の作業は出番のない役者やスタッフに命令してやらすべきである。舞台監督の仕事は劇つくりの頭脳であるべきである。

     当日のセッティングやリハで舞台監督は荷物を持って走り回ったりすべきでない。舞台のセンターに動かずに立ち、道具だけを持って、的確な指示を与える事。

以上、表方のスケジュール、裏方のスケジュールをしっかり書き込んで、実行すれば、あとで顧問をはじめとする回りの人々にしなくてよい仕事をさせたり、迷惑をかけたりすることがなくなる。何よりも「自分が演劇を作るんだ」という主体性が大切である。

 

  後はそのスケジュールに沿って、滞りなく作業を進めていく。

  万全のプランがあってこそ、良い劇ができるのである。